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2008年9月18日 (木)

食品偽装問題と農林水産省の責任?

食品偽装で著名な事件を追ってみると,国も責任を免れないと思われる事例が散見される。一例が,うなぎの偽装問題(蒲焼きではなく,活鰻の偽装)だ。この例では,根拠となるべき法令が,とても曖昧なまま放置されてきたことが,背景になっている。

2008年(平成20年)6月18日,農林水産省は,愛知県一色の漁業協同組合が,中国産うなぎを「一色産」と表示して販売した食品偽装を摘発するとともに,「複数国を経由し養殖されるうなぎの原産地表示の適正化について」と題する通達を業界・市場関係者等に通知した。

通知の概要は,次のとおりである。

    JAS法に基づく農林水産省告示514号により,水産物の販売業者には,原産地の表示義務がある。

    複数の場所で養殖した場合,全ての養殖場所,養殖期間を販売先に伝達しなければならない。

    今般,一部の養鰻業者にJAS法違反の偽装が認められた。法令遵守を徹底されたい。

一見,まことにもっともな通達である。しかし,子細に検討してみると,二重,三重のカラクリが隠されていることが分かる。

最も重要な点は,養殖水産物について,「国産」と「輸入品」を区別するための定義規定が存在しないことだ。定義規定が存在しない以上,何をもって国産と言うかは,様々な解釈が成立しうることになる。もちろん,生まれ育ちが終始日本なら国産,終始外国なら輸入だ。だが,両方を渡り歩いて育てられた養殖水産物はどうなのか。生まれた場所なのか,死んだ(=食品に加工された)場所なのか,育った場所なのか。育った場所とするなら,どれだけ長く暮らせばいいのか。

実は,農林水産省内には,「原産地表示に関する基本的考え方(一般ルール)」というものが存在した。これは,「複数の産地を経由した畜産物や水産物は,最も期間の長い場所を原産地として表示するルール」であり,水産物にも適用されていた。このルールが,「里帰りうなぎ」による産地偽装に悪用されたのである。

現在,農林水産省は,このルールは水産物には適用されないとの立場を取っている。しかし,同省内の公式資料がアサリを例に挙げていたことからも明らかなとおり,かつては水産物にも適用されていた。

いずれにせよ重要なことは,この「ルール」なるものには,法令上の根拠が存在しないということである。上記通達で農林水産省が引用する告示514号にも,国産と輸入品の表示を区別すべしとは書いてあるが,何をもって国産というかはどこにも書いていない。つまりは農林水産省が勝手に言っていただけ,なのである。

次に,「複数の場所で養殖した場合,全ての養殖場所,養殖期間を販売先に伝達しなければならない。」とのくだりであるが,これも,法令上の根拠はない。もとより,一般消費者の立場から見れば,全経由地を記載してもらった方が望ましいことは言うまでもない。しかし,農林水産省という行政府が一般国民である業者等に対して「…する必要がある」と通知する以上は,本来,法令上の根拠が必要である。法令上の根拠がないなら,お願いベースの通知をしなければならない。そして言うまでもなく,「お願い」に違反しただけでは,違法とはいえない。

ここまで読めば,読者は,「国産・輸入の判別規定も,全養殖場所・期間表示義務も存在しないのに,なぜ一部養鰻業者の行為が違法として摘発されるのか?」という疑問を持たれると思う。実は,この点がこの通知書最大のカラクリである。この通知書がJAS法違反と指摘しているのは,実際の養殖地・養殖期間と,伝票上・表示上の養殖場所・養殖期間が違う点であって,「輸入品を国産と表示した」とか,「全養殖地・養殖期間表示義務に違反した」とかいう点ではない。

つまり,通知書前段に書いてある「ルール」と,後段に書いてある「違法行為」とは,別の話なのだ。言い換えれば,農林水産省は,それ自体として明らかな違法行為を摘発することによって,その行為が違反した法律とは違うルールを,あたかも法令上のルールであるかのように布告したのである。

「それのどこが問題なのか。農林水産省が今回やったことは正しいじゃないか」と思われるかもしれない。確かに,農林水産省の動機は,専ら消費者と,食の安心・安全とを保護することにある。この動機は間違いなく善意に満ちている。しかしそうだとしても,行政庁が何ら法令に根拠のないルールを布告することは,法を司る立場から見れば,大いに問題がある。

我が国は民主主義国家(のハズ)であり,民主主義国家には,「法律による行政」という憲法上のルールがある。これは,「行政府は,国会が作った法律に基づかないことはしてはいけない」,というルールだ。現実には,国会が行政府に白紙委任する例もあるのだが,それでも,「法律による行政」の建前は維持されている。今回の通知も,その前の「原産地表示に関する基本的考え方」も,何ら法令に根拠なきルールを行政庁が勝手に定めた点で,「法律による行政」のルールに違反している。

行政庁が「法律による行政」に違反して勝手にルールを布告するようになると,恣意的な運用を許し(前記「原産地表示に関する基本的考え方(一般ルール)」の朝令暮改ぶりは良い例だ),不正な癒着の温床になり,個々の行為は善意に基づくものであっても,最終的には国民の利益を害する。少なくとも法律家の多くは,そう信じている。

もちろん,国産・輸入の判別基準を含めた体系的な法整備が必要であることは,他ならぬ農林水産省自身が認識していることだろう。そしておそらく,さまざまな政治的要因(地方出身の議員センセイを含む)が,その障害になっているのだろう。しかし,JAS法が制定されてから60年もの間,養殖水産物の国産と輸入品との区別が付けられず曖昧なまま放置されてきた責任の一端は政府と農林水産省にあるはずだし,このような悪弊は将来に向けて断ち切らなければならない。農林水産省は,水産養殖物に国産,輸入を判別する法的根拠が無いことを,正直に公表するべきであると思う。(小林)

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