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2008年10月31日 (金)

中谷内一也著「安全。でも安心できない…」(ちくま新書)

50年前と現在の日本を比べてみると,有害科学物質の環境濃度は低下し,食中毒による志望者も減少し,平均寿命は延び,治安も改善している。それにもかかわらず,現代人の不安は増している。つまり,安全であるからといって,安心とは限らない。著者は,現代社会において生活の外部依存性(つまり生活の分業処理)が極大化しているにもかかわらず,分業担当者(リスク管理者)を信頼できないことが,不安の原因であると説く。そして,リスク管理者に対する信頼を獲得するためには,①リスク管理者が担当分野に対して高度の専門性を持っていること,②真面目にリスク管理に取り組む姿をアピールすること,③リスク管理者と動機を共有できること,つまり,リスク管理者が勤務先や特定業界の利益ではなく,消費者一般の利益を指向していることが明示されていること,の3点が必要であるとする。

ごく当たり前の結論ともいえるし,今までこのような整理がなされていなかったともいえる。このような心理学的アプローチからすれば,食の安全も,次世代ロボットの安全も,ユビキタス社会における情報安全も,監視カメラ社会における安全も,根っこは同じ問題となり,大いに参考になる。(小林)

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2008年10月29日 (水)

伊藤ハム問題のポイント

伊藤ハムが,東京工場の水源から基準値を超えるシアン化物等が検出されたとして,商品の自主回収を公告した。

井戸水の汚染自体は不可抗力だったかもしれないが,工場がこれを検出してから会社上層部が知るまで1ヶ月もかかったことや,知った後の上層部の対応も遅れたことについて,非難が集中している。

しかし,この点はこの問題のポイントではないと思う。ポイントは,品質管理部門という組織上の問題であると考える。

もちろん,伊藤ハムほどの会社でありながら,今時,品質管理部門が存在しなければ論外だ(この点,現在の伊藤ハムのホームページからは確認ができない)。しかし多分,品質管理部門はあるのだろう。品質管理部門があるのなら,食品に接する水の管理は,品質管理部門の管轄でないといけない。だから,今回の水質検査は,品質管理部門が行うべきであるし,そうでないとすれば,そのこと自体がまず問題である。

次に,仮に品質管理部門が水質検査を行ったとして,あるいは,水質検査は品質管理部門が行わなかったとしても,検査直後に検査結果を知ったとして,検査結果が会社上層部に報告されるまでの間,品質管理部門に生産ラインの停止命令権限が無かったとすれば,問題は,品質管理部門に生産ラインの停止権限を与えておかなかったことにある。一日何万食も生産するような大規模食品製造会社における品質管理部門の存在意義は,実にこの点に存在するはずだからだ。

もちろん,品質管理部門が早くから水質基準違反の事実を知っており,しかも,生産ライン停止権限が与えられていたにもかかわらず,その権限を行使しなかったのであれば,その事実だけで,担当者は全員クビである。品質管理部門は,適正手続に従って判断した限り,「安全側」に間違っても責任を問われるべきではないが,「危険側」に間違った場合には,極めて重い責任を問われなければならないからだ。

真相が上記のいずれにあるにせよ,上層部への連絡が遅れたか否かは,本件において,些末な問題であると思う。(小林)

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2008年10月28日 (火)

法科大学院の潰れる順番

先日,言うことが変節していると指摘したばかりの宮澤節生青山学院法科大学院教授だが,2008年10月26日の毎日新聞「発言席」で,また違ったことを言い出した。今までは,「全校定員一律3割削減(但し,地方小規模校等は例外)」と言っていたのが,今度は,「入学者の最低5割は修了後5年以内に合格できる定員になるよう,毎年定員を見直す(但し,地方の小規模校等は例外)」だそうである。これによると,すでに5割以上の合格率をである大規模上位校は定数削減を免れ,大規模校でありながら合格率の低迷している学校が定数削減を余儀なくされる。教授は,一律3割削減では勝ち目がないとみて,合格率の低い大規模校にターゲットを絞ったようだ。

話がころころ変わる部分は,信用しない方がよい。その人の言いたいことは,ころころ変わる部分にではなく,変わらない部分にある。上述の話で,変わらないのは,「地方の小規模校は定員減するべきではない」という部分である。教授は一貫して,地方小規模下位校の学生よりも,学校の利益を優先している。問題は,地方下位小規模校に在籍しない宮澤節生教授が,なぜ,地方下位小規模校を擁護する発言を繰り返すのか,という点だ。

ところで,27日の山陰中央新報は,島根法科大学院の来年入試の出願者が,昨年からほぼ半減し,定員30人に対して43人にとどまったと報じた。地元出身者の入学金・授業料免除制度も焼け石に水。三宅孝之法務研究科長は,「合格実績の高い都市部の大学への流れが顕著で,地方大学には試練」と厳しい見方を示す一方,「合格者を出すには厳格に選考して優秀な学生に絞る」と述べたという。

「合格者を出すには」という声が悲痛だ。しかし,2,3校の掛け持ち受験が一般的である以上,絞ったところで合格者の大半は都市の上位校に流れるであろう。平成20年度新司法試験の合格率は出願者数ベースで9.76%。学費を免除してもらったくらいで,合格率1割以下の学校に青春の3年間を賭ける覚悟のできる人間はそうそういない。つまり,島根大学法科大学院は客観的にはもう終わっている。学生こそ気の毒である。

年末から来年にかけて,文部科学省の指導のもと,いくつかの地方下位校が統廃合を表明するだろう。そして,地方の下位校が軒並み潰れた後は,都市の(特に首都圏の)中小規模下位校を存続させる理由はどこにもない。つまり,都市の中小規模下位校にとって,地方の下位校は防波堤である。宮澤教授が地方の下位校をさかんに擁護する理由はたぶんここにある。ちなみに,教授が在籍する青山学院大学法科大学院の平成20年度新司法試験合格者15名,合格率は,受験者ベースで24.59%(74校中29位),出願者ベースで17.05%(74校中36位),定員数60名(既修者コース20名,未修者コース40名)である。本題とは外れるが,同学院は既修者コースの学費全額を奨学金として援助する(未修者コースは成績上位者のみ優遇)そうだ。これは未修者コースを重視する教授の立場と矛盾するだろう。(小林)

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2008年10月26日 (日)

防犯カメラ付き自販機また壊され「監視反対」と落書き

全国で初めて,1010日に愛知県豊橋市の岩田運動公園に設置された防犯カメラ付き自動販売機のカメラ部分が13日に壊され「監視反対」と落書きされたことは記憶に新しい。

その自動販売機が修理され再度設置されたとたん,また壊され監視反対などと落書きされているのを豊橋署員が見つけたと,26日に報じられた。

市民の安心安全に不可欠な防犯カメラ付き自動販売機を二度も破壊するとは,不埒な連中がいるものである。公園でさえ,とても危険であり,防犯カメラ付き自販機を設置しなければ,市民の生命と安全は到底守れない。しかも,この自販機には警察直通の電話機が設置されている。もし市民が暴漢に襲われたら,広い公園にたった一台の,この自販機にを探し当てて駆けつけ,カバーを開けて受話器を取って警察に電話して,「もしもし,もしもし?助けて下さい!変な人が私を追っかけてきて…」って,喋っているうちに殺されたり強姦されたりしてしまうだろうが,それでも犯人逮捕に一役買うに違いない。なにしろこの防犯カメラは前を人が通るだけで撮影する仕組みだから,公園を訪れた不倫カップルも,仕事をさぼって昼寝に来たサラリーマンも,みな撮影することになっている。この中に犯人がいるに違いない。

警察はこれに懲りず,再々度防犯カメラ付き自動販売機を設置するべきである。また狙われたらどうするのかって?

もちろん,もう一台,防犯カメラ付き自販機を設置するのだ。それも壊されたらもう一台。公園を防犯カメラで埋め尽くせば,自販機を壊して落書きをする不心得者を撃退できるだろう。(小林)

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2008年10月20日 (月)

宮澤節生教授の変節と破綻

青山学院大学法科大学院の宮澤節生教授は,2008年10月3日の東京新聞で,「法科大学院学生の経済的搾取を許さない米国ロースクール制度に倣い,全ての法科大学院で合格率が5割を超えるよう,定員を減らすべきである。例外はすでに最小規模で弁護士過疎地に設立されたものや,夜間コースに限る」と提言した。「経済的搾取」とは不穏な「蟹工船」的用語だが,ここでは司法試験に合格できない学生に学費を浪費させることを意味するようだ。10月20日付日本経済新聞でも,同様の提言が紹介されている。

私は,この提言は変節し破綻していると考える。

法科大学院の制度設計時点における宮澤教授の主張は,「米国ロースクール制度に倣い,厳格な設置基準を充たす法科大学院のみ設立し,司法試験の合格率は7~8割を確保する。当初は150人平均で20校もできれば大成功であろう(1999年8月10日讀賣新聞)。その後,法科大学院が増加した結果,司法試験合格者が年3000人を超えることになっても,上限を設けるべきではない(2000年6月3日日本経済新聞)。」というものだった。つまり,法曹の質は合格者数の制限ではなく,厳格な法科大学院設置基準(法学セミナー2001年10月号)で担保するということだ。基準のポイントは,「法学部以外からも広く多様な人材を集める」という司法制度改革審議会の理念を実現することにある(2002年5月16日讀賣新聞)。

しかし現実は,宮澤教授の主張に反し,法学部出身者枠(既修者コース)を拡大し,法学部兼任教員を広く認めるという,「驚くほど志の低い適格認定基準」(2002年5月16日讀賣新聞)が採用され,法科大学院乱立の一因となる。教授は,この成り行きを苦々しく見ていたに相違ない。上記讀賣新聞で教授は,「司法審の理想を真っ向から否定した」と痛烈に批判した。ここまでは,教授の主張は一貫している。

このような教授の主張からすれば,適切な設置基準を充たさない「志の低い」学校は,法科大学院の資格を返上すべきことになる。

ところが,法科大学院卒業生が受験する第1回司法試験の合格者枠が800人と報道されると,宮澤教授ら首都圏私大教員有志17名は,これでは合格率が3割以下になり,法科大学院制度を崩壊させかねないとして,2004年10月28日,「法科大学院過程修了者の大半が新司法試験に合格」できる合格者数を求める声明を発表した。この声明は,「宮澤教授が中心となってとりまとめた」(Matimulogより)ものであるにもかかわらず,法科大学院の「乱立」も,その原因となった「驚くほど志の低い適格認定基準」のことも,一言も触れられていない。これは,教授の従来の見解からすれば設置を許可されるべきでなかった法科大学院でさえ,一旦設立された以上存続させるということだから,変節との誹りを免れない。

さらに,司法試験合格率の低迷が社会問題となった2007年8月2日の讀賣新聞で宮澤教授は,「合格者数が2010年の3000人以上に増加する見込みのない以上,法科大学院の定員削減が必要だが,小規模校が撤退しても効果が小さいから,全法科大学院が協力して総定員数を4000人程度に削減すべきだ」と主張した。これは都市部大規模校に対する削減案であり,小規模校を優遇する,不平等な提言である。この提言には,適格のない法科大学院は撤退せよとの志もなければ,司法審の理念もない。「法科大学院数や総定員の制限を考えるのは,供給過剰による問題が現れた段階でよい」(1999年8月10日讀賣新聞)との勇ましいご主張はどこへ行ったのか。増員に反対する弁護士に対する「制度的利益を得ているから」(1995年5月8日日経産業新聞),つまり,既得権益に固執しているとの批判は,天に唾するものである。

そして今度は,「法科大学院学生を経済的に搾取するべきではない」と来た。この主張は明らかに破綻している。1~2割しか合格しない下位校を,地方の小規模校や夜間校だからという理由だけで保護し,毎年8~9割の不合格者を出し続けることは,法科大学院生の経済的搾取にあたらないのだろうか。しかも,上位校と下位校の合格率の格差は今後拡大していく。放っておいても上位校の合格率は7割,8割と伸びていくし,下位校の合格率は1割以下に落ちていく。その下位校を存続させることは,明らかに同校法科大学院生の経済的搾取である。要するに教授は,地方小規模下位校の哀れな法科大学院生をダシにして既設校の既得権益を守ろうとしているのだ。

このように変節し破綻している宮澤教授の主張だが,2000年以前から現在まで終始一貫しているところもある。それは,「米国ロースクール制度はこうなっている。だから日本の法科大学院も…」という論法だ。西洋かぶれとの批判もあろうが,私はそう思わない。米国ロースクール制度に関する教授の幅広い知見は,今後も是非,法科大学院改革に役立てて頂きたいと考える。まずは,設置基準を満たさなくなったロースクールは,米国ではどうなるか,教えていただきたいと思う。(小林)

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2008年10月19日 (日)

新世代ネットワーク研究開発戦略本部

20001014日,NICT本部の新世代ネットワーク研究開発戦略本部で講演とセッションを行った。

この戦略本部は,インターネット普及の最大功労者の一人である元大阪大学総長宮原秀夫氏が昨年創設した組織であり,現在のIPネットワークの限界を見越した新世代のネットワークを構築するための中長期的な戦略について検討を進めようとするものである。

我が国としてのICT戦略の遅れに対する彼らの危機感は深刻である。20089月に著された戦略本部の「新世代ネットワークビジョン」によると,アメリカやBRICs諸国の発展に比べ,我が国の国際競争力は衰退の一途をたどっている。「『産学官を結集しオールジャパン体制を構築することによって世界を先導する』といった,旧態依然とした発想を受け入れる余力は我が国にはない。縦割り行政の弊害,研究費のばらまき施策,技術の空洞化,ニッチ市場での生き残り策の追求,グローバル化されないアカデミア,若年層の科学技術離れなど問題は山積しているが,一言で言えば,戦略無き研究開発が今日の事態を招いたと言えるであろう。」と手厳しい自省の言葉に満ちている。

講演での質問や,セッションでも,いくつか興味深い発言に接した。例えば,研究開発者はプライバシーの問題に直面したとき,どのようなオーソリティに助言を求めたらよいか分からず,尻込みしてしまうことが多々あるという発言であり,この種の悩みは,この分野に筆者が参加してから,頻繁に接する。

これに対する最も理想的な答えは,アメリカのように,個人的な確信(神の啓示とたとえても良いが)があれば,やってしまえという健全なチャレンジ精神を重視することであろう。しかし,失敗を許容しない日本文化の中では現実的でない。次善の策としては,監督官庁(たぶん総務省)を中心に,一定のガイドライン等を策定しつつ,産学が安心して開発に取り組める環境を整えることになるだろう。しかし,現在の政治状況や,住基ネット騒動に起因する一種の敗北体験からか,この点に関する総務省の腰が重いのも事実である。そこで現在は,ユビキタスネットワークフォーラムなど半官半民の団体が事実上主導していく方策しかないであろう。

非常に厳しい環境であるが,世界をリードしうる我が国の技術分野としては,ICTがその筆頭になりうるだろう。筆者も微力ながら応援しているので,研究者の皆様には,是非めざましい成果を上げて頂きたいと思う。(小林)

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2008年10月18日 (土)

3法科大学院「基本科目重視」で不適合

法科大学院を評価する認証機関「日弁連法務研究財団」は17日、対象となった7校のうち京都産業大(京都市)、東海大(東京都渋谷区)、山梨学院大(甲府市)の三つの法科大学院が評価基準に適合しなかったと発表した。法科大学院が04年に開校して以来、「不適合」の判定を受けたのは計8校となった(20081017asahi.com)。特に東海大学法科大学院は,「基本科目に極端に傾斜したカリキュラムとなって」いると指摘されている。

これに対して落合洋司弁護士は,「カリキュラムが法律基本科目に傾斜していることは、それだけ基本を重視しているということで、なぜ適切でないのか、理解に苦しみますね。法律基本科目も怪しい者が、わかったような顔をして、知的財産法などを聞きかじったり知ったかぶりしているほうが、よほど不適切で、先は暗いと思います。そろそろ、こういった、不毛な「法曹養成ごっこ」はやめて、真に国民のためになり、また、学ぶ者にも学びがいのある制度設計を、一からやり直すべきでしょう。」と,辛辣なコメントを寄せている。

このコメントは確かに正論だ。しかし,そもそも,補講を事実上強制するなどして基本科目を教え込まなければ司法試験に合格しない,というか,教えこんでも9割方合格しない学生が法科大学院の学生であること,ひいては,そのような学生しかいない法科大学院の存在することが,間違いの根本にある。東海大学法科大学院の平成20年度合格者数4名。合格率は受験者母数で11.76%,出願者母数で7.41%で,法科大学院全74校中61位である。(小林)

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2008年10月16日 (木)

殺虫剤入中国産冷凍インゲンと日本企業のコンプライアンス

1011日,東京都八王子のスーパーマーケットで中国産冷凍インゲンを購入した女性が舌のしびれとむかつきを訴えた。このインゲンからは,基準値の35000倍近い農薬のジクロルボスが検出された。これはほぼ原液であるため,厚労省や警視庁は,残留農薬ではなく故意に混入されたとの見方を強めている(1016日日本経済新聞)。中国工場の責任者はテレビのインタビューに対し,流ちょうな日本語で,被害者へのお見舞いを述べていた。

現時点では,袋に穴が空けられた痕跡はなく,かといって同ロットの他の製品からジクロルボスは検出されていない。従って捜査機関等は当面,被害者の自作自演を含め,あらゆる可能性を想定し,これを一つずつ潰す作業に追われることになろう。冷凍餃子事件も未解決の現時点において,今回の事件が起こったことは,冷凍餃子事件が偶発的かつ例外的な事件ではなく,今後も同様の事件が起こりうる可能性を我々に突きつけている。

ところで今回考えてみたいのは,このような事態を受け,中国産食品の輸入に携わる日本の企業は,故意による毒物添加の可能性を排除する責任があるか,という点である。

もちろん,一般論としては,そのような責任は無い。故意による毒物添加の可能性を排除するにはサンプリングでは足りず,全品検査しかないが,これは現実問題として不可能だからだ。

しかし,無理と決めつけることに多少の躊躇もある。冷凍インゲン及び冷凍餃子事件が中国内製造過程における故意犯罪と仮定するなら,その犯人には,消費者の健康を害する明白な悪意が認められるが,「たぶん日本人」という以上に,特定の誰かを害する意図はない。とすると動機は何かが問題となるが,犯人を劇場型愉快犯と仮定すると,冷凍食品を選ぶのに不自然さが残る(なぜなら,いつ消費者が食べて事件が起きるか分からないからだ)し,報道された限りでは,恐喝目的もないし,政治目的も窺えない(政治目的があるなら,犯行声明等があってしかるべきだろうし,やはり,いつ事故が起きるか分からない冷凍食品を標的にするのは不自然である)。

そうなると,犯人は単純に,不満の発露として,毒物を混入した可能性が出てくる。その不満とは例えば,工場幹部に比べて,作業員である自分の待遇が極めて劣悪である,すなわち搾取されている,という不満だ。

ここで気になるのが,工場長の流ちょうな日本語である。この工場は,中国法人とはいえ,資本は日本企業だろうし,日本企業の支配が相当程度及んでいると想像される。もちろん,そのこと自体は何ら問題がない。現地法人の社長が中国人なのは,中国政府の意向だろう。しかし,仮に工場内に歴然とした待遇差別と現業労働者の搾取が存在し,かつ,日本企業がこれを指導ないし黙認しているとするならば,労働者の悪意が,工場とその背後にいる日本企業と日本人とに向いても不自然ではない。万一このような背景が存在するならば,これを法的責任といいうるか否かはさておき,当該日本企業も一定レベルの責任を免れないと思う。

もちろんここに書いたのは,筆者の憶測でしかない。報道機関には是非,この点を検証してみてほしいと思う。(小林)

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2008年10月15日 (水)

カメラ付き自販機壊され「監視社会」と落書

1014日の各紙によると,愛知県豊橋市岩田町の岩田運動公園で,110番機能を持ち防犯カメラを装備した自動販売機が壊され,「監視社会」と落書きされた。

この自動販売機については,本年1月8日のブログでも触れた。自販機荒らしと街の治安維持のために,前方を人が通っただけで撮影する機能を持つ自動販売機である。その時は,群馬大学の藤井雄作教授とコカ・コーラボトリングの提携だったはずだが,10月10日に愛知県に設置されたものが,この系列に属するか否かは分からない。ちなみに,このブログによると,愛知県の自販機荒らしは,2006年は全国ワースト1位だったが,翌2007年に被害額は3分の1以下に激減してワースト1位を返上したそうである。この防犯カメラ自販機は,その後に設置されたものだ。

このタイプの自販機に対する私の考えは,以前と変わらない。これは例えるなら,道のほうぼうにカメラを持った人が立っていて,その前を横切ると写真を撮られる,ということと同じである。「何で写真を撮るんだ」と問いかけると,「街の安全のためです。ただ撮影しているだけで,事件などが起こったときに現像するだけですからプライバシーの配慮も万全です。ついでといっては何ですが,私はジュースやお茶の販売もしています。買って行きませんか?」との答えが返ってくる。そう答えられたら読者は 「ご苦労様です。治安維持に役立つならどうぞ撮影してください。」と納得するだろうか。私なら不愉快に思う。「今撮影したこのとき犯罪は起こりましたか?起こっていないなら,撮影した画像は今削除してください」と答えたい。まして,お茶を買う気など起きない。

前回私はこう書いた。「自販機荒しという犯罪が相当程度発生している以上,これを防止するという目的は正当である。次に,カメラで自販機荒らしが防止できるかについては,やや疑問もあるが,あるとしておこう。しかし,自販機荒し防止を目的とする撮影は,その目的に必要な限度に限定されなければならない。その自販機に何の用もない,ただの通行人を全員撮影するのは行き過ぎである。」

今回報道された自販機の破壊はれっきとした犯罪であり,それ自体として弁護の余地はない。しかし,この犯行から明らかになったことが二つある。一つは,防犯カメラ付き自動販売機は防犯の役に立たないということ。もう一つは,自動販売機にまで防犯カメラが装備される風潮を快く思わないのは私だけではない,ということだ。

私自身は,ネットワークカメラやユビキタス技術の推進を後押ししたいという,弁護士としては比較的珍しい(?)立場にある。しかし,学者の研究と,業者の思惑と,役所の予算ばらまきがいびつな形で結合すると,ときどき,とてもセンスのないものが生まれるのは困ったものである。(小林)

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2008年10月11日 (土)

「ゆとりローン」破綻回避の秘策?

1011日のTBS系「報道特集NEXT 日本襲う空前の大不況 住宅ローンを返せない人々」で,田丸美寿々キャスターが,マイホームのローンを帳消しにする「秘策」を伝授する不動産業者を紹介していた。

番組によると,その「秘策」というのはこうである。

3500万円のローンをかかえているが,マイホームの市場価格は2200万円しかないため,マイホームを手放しても債務がなくならず,頭を抱えている債務者がいるとする。債務者は,不動産業者に2200万円でマイホームを売却し,代金全額を銀行に返済する。一方不動産業者は,このマイホームを2500万円で,債務者の親戚に転売するのだ。もちろん,多くの親戚は新たにローンを組んでこのマイホームを購入することになる。

12_2 そうすると,元々の債務者は,親戚からこのマイホームを賃借することになる。そこで債務者は,この親戚に家賃を払い,親戚は家賃をローンの返済に充てるわけだ。そして不動産業者は,2200万円で購入したマイホームを,2500万円で転売するわけだから,300万円の儲けになる(もっとも,短期譲渡所得税の負担はあるが)。

「ちょっと待ってくれ。その債務者は,3500万円のローンを負っていたのに,マイホームは2200万円でしか売れなかったわけだから,1300万円のローンが残っているだろう。結局債務者が支払わなければならない金額は同じではないのか?」という疑問を持たれたと思う。実際そのとおりである。しかしそこに「秘策」の「秘策」たるゆえんがある。

3500万円の債権を担保するため,マイホームに抵当権をつけていた銀行には,マイホームが2200万円で売却されることによって,担保のない1300万円の債権が残る。しかし,この債権を持っていても回収の見込みがない。そこで,銀行は債権回収会社(サービサー)に,二束三文でこの債権を売ってしまい,損金として処理する。二束三文とは高くて10万円,私の経験では1000円ということもある。こうやって債権を譲り受けた回収会社としては,債務者に対して1300万円を支払えと請求するわけだが,実際のところ,とても安く譲り受けているので,交渉次第では,100万円で和解できることもある。そうなれば,債務者としては,1300万円だった債務が100万円で帳消しになるうえ,破産してマイホームを失うこともない。法的には所有権は親戚にあるわけだが,以前と変わらず住み続けられるので一挙両得,というわけである。

確かに,一見,魔法のような「秘策」である。しかし,弁護士から見ると,このやり方には,かなり問題がある。

おそらく最大の問題は,この「秘策」は要するに,その親戚に,多大なリスクと負担を負わせるという点だ。この債務者は「家賃」の名目で親戚が新たに背負うローンを支払うわけだが,この「家賃」の支払が滞れば,親戚は身銭を切ってローンの支払いを続ける羽目に陥る。まして,万一この債務者が結局破産した場合,この親戚は「資産隠し」に協力したと疑われ,否認訴訟の被告になる訴訟リスクを負う。また,この親戚は,不動産業者からこのマイホームを2500万円で購入するわけだが,その時点でこのマイホームの市場価値は2200万円だし,銀行は2200万円の物件に対しては1500万円くらいしか貸し付けないから,結局1000万円の身銭を切る必要がある。

これだけのリスクを親戚に負わせる「秘策」に300万円の価値があるのだろうか?かなり疑問といわざるを得ない。

この300万円の儲けは,実質的には「秘策」を伝授したコンサルタント料と,銀行と担保抹消の交渉を行った対価ということなのだろう。そのほかに,将来の債権回収会社との交渉代金も含まれているのかもしれない。しかし,そうだとすると,このやり方は,弁護士以外の者の交渉業務を禁止する弁護士法72条に違反する可能性がとても高い。

それならどうするべきか。一肌脱いでくれる親戚がいるなら,もっと良いやり方がある。ローンの支払いを停止すればよい。

ローンの支払いを停止すれば,銀行はマイホームを競売にかける。競売にかけられたからといって,誰かが競落するまでは,その家に居続けてかまわない。そして,競売される価格は,市場価格よりかなり低いから,2200万円のマイホームなら,せいぜい2000万円だろう。そこで,その親戚が2200万円で入札すれば,ほぼ確実に落札することができる。その後は上の事例と同じである。債権回収会社と交渉して債務を減らせばよい。事情によっては自己破産を選択するべき場合もあろうし,弁護士に依頼した方が良い場合もあろうが,これらの場合でも,300万円のコストがかかることはあり得ない。例えば当事務所なら,弁護士費用が事情により30万円から50万円,実費(管財型破産事件となる場合)が多くて30万円というところだし,これは当事務所が特段に安いというわけではない。なお,破産をすると直ちにマイホームを明け渡さなければならないとお考えなら,それは誤解である。最近では多くの裁判所において,明らかなオーバーローン(不動産の時価よりローン残高が多いこと)の場合,マイホームを明け渡す必要がないという取扱がなされている。

このやり方のリスクとしては,その親戚が入札価格をケチると,マイホームを落札できない可能性があるということ,競売代金は現金決済なので,一瞬のことだが,銀行からお金を借りるときにそのマイホームを担保に入れることができない(別の担保を入れるか,それとも無担保で借りるかしないといけない)という点くらいである。注;下記コメントでご指摘があったとおり,この記述は間違いでした。一定の条件の下で,競落物件を担保に入れてお金を借りることができます。お詫びして訂正致します。)でも,親戚に一肌脱いでもらうのだから,このくらいは覚悟しても良いと思う。

米国のサブプライムローン問題に端を発した世界同時不況は,ゆとりローン返済期間が経過した若い家族を直撃するといわれている。そうなったとき,というより,そうなる前に,是非弁護士に相談してほしい。相談費用が心配なら,事前に電話して確認すればよい。305000円が相場だし,初回の相談なら無料という弁護士も多い(当事務所も無料です)。それでも弁護士の敷居が高いなら,多くの弁護士会では,無料相談をしているから,そちらに行ってほしい。大事なことは,業者に頼む前に,弁護士の意見を聞いてほしいということだ。(小林)

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2008年10月 8日 (水)

下位法科大学院の運命

日本中の法科大学院が,1カ所に固まって存在し,学費その他在学中のコストに一切差がないと仮定する。もしあなたが,司法試験受験を目指すとするなら,合格率6割の上位校と,合格率1割の下位校のどちらに入学したいと思うだろうか。質問するのが馬鹿馬鹿しいほど,答えは明らかだ。上位校には入学希望者が殺到し,優秀な者だけ選抜される結果,上位校の司法試験合格率はますます上がっていく。

新司法試験も3年目を迎え,法科大学院の序列がはっきりしてきた。将来に向けて,この序列は必ず拡大し,最後は固定化する。決して平準化することはない。なぜなら,優秀な者ほど,上位校を目指すからだ。

もちろん,序列が拡大し固定化するといっても,縦一列にはならない(縦一列とは,例えば1位の一橋法科大学院における最下位の学生でも,2位の慶應大学法科大学院のトップの学生より上位,という状態を意味する)。地域的な事情や,受験日程の巧妙な設定や,学費の問題や,学生の嗜好(たとえば,「この教授の講義を受けたい」とか),教授陣の努力等の要素が加わるからである。だから,全体的には,ピラミッド型となるだろう。とはいえ,全体として,法科大学院の序列化が進行し,最後に固定化することは,歴史が証明している。

かつて共通一次制度実施後の大学がそうであった。歴史は繰り返すのである。しかし,法科大学院の序列化は,共通一次制度実施のときに比べ,より顕著に進行することになろう。なぜなら,法科大学院学生の目標は,一つしかないからだ。

このまま放っておいても,数年後には,上位校の合格率は9割を超える。他方,下位校の合格率は1割を切り,1学年一人合格するか否かとなる。そうなれば,下位法科大学院は生き残れない。というより,そうなることが明らかである以上,現時点でも,「お前はすでに死んでいる」状態である。

この考え方で行くと,上位何校が生き残るのだろう。合格者数年3000人を前提としても,上位20~25校が限度となる。

だからこそ下位校は上位校の定数減を求めているわけだが,これは不可能と考える。そうだとすると,下位校生き残りの途は,とても限られてくる。すなわち,目標が一つしかないという現況を改めることだ。

そのやり方は具体的には2つある。一つは,司法試験合格以外の目標(たとえば,公務員試験合格など)を設定することである。もう一つは,司法試験合格のレベルを,法科大学院毎,または,地方毎別々に設定することである。地方で司法試験合格レベルをバラバラにすると,その帰結として,例えば大阪の司法試験に合格した弁護士は,京都地裁で仕事ができないことにもなりうるが。もちろん,その是非当否は全然別問題である。

不思議なのは,法科大学院の制度設計に携わった方々は,この展開を予想しなかったのか,という点だ。共通一次実施直後の成り行きを体験している筆者の世代から見るなら,予想しなかったとすれば,それはとても愚かしいことに思える。(小林)

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2008年10月 7日 (火)

法科大学院統廃合に関する昨今の新聞記事

 筆者としていろいろ意見もあるが,時間もないので今日はご紹介に止めます。

「森英介法相は101日,『(司法試験合格者の)数を増やせばよいというのではなく,受験生の質を上げなければならない。大学に強制はできないが,法科大学院が統合・再編されないと,(20103000人の政府目標は)達成はできないと思う』と述べた」(2008102日日本経済新聞)

「最近の司法修習生は実力にばらつきがあり,下位層が増加している。『疑わしきは被告人の利益に』など基本原則さえ理解していないか,表面的な知識だけで,理解が十分でないため,事案の適切な分析検討ができない者が相当数含まれているのではないか」と最高裁報告書(2008105日共同通信)

「法科大学院は乱立状態であり,今年の合格率は33%と,当初の狙いとかけ離れている。実績がふるわない大学院が淘汰されるのは自然であり,不可避である。20103000人の政府目標は堅持されるべきなのに,このままでは,有能な人材が法曹界に進むのを敬遠し,質の維持は一層困難になる。」(2008106日読売新聞社説)

「合格率78割の目論見が外れた要因は,法科大学院の乱立と過大な入学定員にある。中教審の意見書により,文科省は失策を認めた。法科大学院は大胆な再編と撤退を考える時期である。」(2008105日日本経済新聞社説)

「裁判員制度開始,被疑者国選弁護制度の対象拡大,法テラス登録弁護士の増加,遍在解消,企業コンプライアンス遵守や地域NPO支援,企業や地方自治体内部弁護士など,法の支配を社会の隅々まで行き渡らせるという司法改革の理念を実現するためには,法科大学院における教育体制に見直しが急がれる。そうでないと,『3000人増員』への風当たりが,さらに強まる可能性がある。」(2008914日京都新聞社説)

「(鹿児島大学法科大学院の)采女科長は,『地方の司法の実情を理解し,それらを踏まえて判断できる法曹育成が必要。大都市圏に集中している大規模校の定員を減らし,全国でバランスよく育成する体制が望ましい』と(文科省の方針転換を)批判する。」(2008929日南日本新聞)

「大出良知・東京経済大教授は『実情を知る者の間では法科大学院が着実に成果を上げ始めているという認識が広がっている。もう少し時間をかけて実情をしっかり見極めるべき』と指摘。『社会の隅々にまで法律家の援助の手が届くよう、法律家の数と質を確保するために創設されたのが法科大学院。紆余曲折はあるだろうが、熊本大など地方の大学が果たす役割は大きい』とエールを送る。」(2008919日熊本日日新聞)

「法科大学院の都市部集中は,弁護士過疎解消のための法曹増員という司法改革の趣旨に逆行する。受験回数制限の見直しも検討する必要がある」(2008919日山梨日日新聞社説)

「日本の法科大学院もアメリカに倣い,入学者の過半数が法曹になれる程度の定員に止めるべく,全体としての定員削減がまったなしの課題である。」(2008103日東京新聞『核心』での宮澤節生青山学院法科大学院教授の発言)

「未修コースの合格率が既修コースに比べ2割低かったが,これは丸暗記・反射スピード勝負の短答式試験の比重が高かったからであり,思考力を問う論文式試験の比重を高くすれば,未修コースの合格率は上がる。問題のある法科大学院は退場すべきだが,その規準は合格率ではなく,どんな教育をしているのかに求めるべき」(2008103日東京新聞『核心』での久保利英明弁護士・大宮法科大学院教授の発言) (小林)

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2008年10月 5日 (日)

次世代ロボットと知的財産戦略

10月3日,(財)大阪市都市工学情報センター主催の,「新たなビジネスチャンスの創出の促進に向けた知財管理・活用方策に関する懇談会」に出席した。出席者は筆者のほか,遠山勉・三品岩男両弁理士,ヴイストンの大和信夫社長,近畿経済産業局の阪谷敏明特許室室長補佐である。会議の趣旨としては,知的財産を活用して関西における次世代ロボット産業を振興するにはどうしたらよいか,ということらしい。また,梅田北ヤードの再開発もからんでいるようだ。

特許権をはじめとする知的財産権を活用して,次世代ロボット産業の振興に役立てようという発想はずいぶん前からある。しかし実は,筆者自身は,この考え方には,あまり賛成できない。たぶん,順番が違うと思う。

次世代ロボットと並んで日本の重点育成産業に指定されたものにバイオとナノ・テクノロジーがある。この二つは,それ自体が知的財産の固まりのようなものであって,これらの産業を育成するためには,特定の技術を知的財産として保護し,しかる後に,これを製品化・産業化するというプロセスが必要だ。

これに比べて,次世代ロボットと知的財産の関係は少し違うと思う。次世代ロボットはいわば総合技術であり,バイオやナノよりも,自動車やロケットと近い。どれだけ最先端の技術を使うかではなく,枯れて信頼性のある技術をどう組み合わせるかが産業競争力の中核になる。

この総合技術というのは,最先端の技術を揃えただけでは実現しない。例えば中国が有人宇宙飛行を実現しており,日本人は「技術力は日本が上」と負け惜しみを言う。しかし,個々の技術力と,総合技術力は違うのだ。同じことはロシアの宇宙技術や軍事技術にも当てはまる。今の日本人の総合技術力では,どんなに最先端の技術を持ち寄っても,有人宇宙飛行は実現できない。

では日本人に総合技術力が無いかというと,決してそんなことはない。自動車産業がよい例である。

では,次世代ロボット産業の育成と知財戦略の,あるべき関係とは,どのようなものか。それは,既にある知的財産を次世代ロボットに役立てようと言う発想ではなく,次世代ロボットを開発する中で醸成された技術をいち早く知的財産として保護してやるということだと思う。

いま,大阪の中小企業は,多くの技術やノウハウを持っている。ただ,それらはそれだけでは,特許が取れるほど熟成していない。次世代ロボットの製品化を実現する中で,これらの技術やノウハウは洗練され,特許が取れるほど熟成していくだろう。これらを知的財産として保護すれば,大阪の中小企業にとって,次世代ロボット製作に自社の技術やノウハウを投入する大きな動機になる。そしてそのためには,熟成していないアイデアや技術を一定範囲に公開しても,他社に盗まれない安心感を与えてあげることが必要だ。このような仕組みをうまく作れば,それは,次世代ロボット産業の育成に役立つし,知的財産戦略としても,有用性のあるものになると考える。平たく言い換えれば,次世代ロボットに必要なのは,知的財産→ロボットという発想ではなく,ロボット→知的財産という発想である。(小林)

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2008年10月 3日 (金)

旧司法試験は,岩山の禅寺?

先日,ある法科大学院の教授とお話しする機会があり,その中で,法科大学院教育の現状に関する教授のお言葉に,とても感銘を受けたのでご紹介をしたい(たぶん教授は立場上,この話を公にできないだろうし)。以下で「君」とあるのは,筆者のことである。

「君らの時代の司法試験は,たとえて言うと,険しい岩山のてっぺんに禅寺が建っているようなものです。若い修行僧(つまり受験生ですね)は禅寺にたどり着こうと,必死に岩山をよじ登るわけですが,その間に,脱落したり,死んだりする者も相当数います。そして,すさまじい修行を経て禅寺の山門をくぐる頃には,ほとんど悟りがひらけているので,あとはお経をちょこちょこっと教えてあげれば,一人前のお坊さんとして通用するわけです。これが君らの時代の司法試験。

このやり方で試験に受かってきた君らは,みなそれなりの人材です。しかし,このやり方には無駄も多い。悟りを開くまで時間がかかりすぎるし,脱落して努力を無駄にする人も多い。本当に死ぬ人だっている。そこで,君らがどうやって悟りを開いたかを科学的に分析して体系化し,これを組織的に教育すれば,もっと効率的に人材を育成できるのではないか。これが法科大学院の発想だったわけです。

しかし残念ながら,この発想が実現できているとはとても思えない。悟りをどうやってひらいたかを分析して体系化することもできていない(だって君ら自身だって,自分がどうやって悟りを開いたか,分からないでしょう?)し,ましてや,学生に教えてあげることもできていない。勢い,教育は受験指導と知識偏重になってしまっているし,学生にも,悟りを開こうとする意志など全くない。

もちろん,法科大学院制度も軌道に乗れば,ある程度の人材を養成できるでしょう。しかし,法科大学院の教育制度で育った法律家は,おそらくその精神構造において,君らと決定的に違う人間になると思う。君らは法科大学院制度に反対したり,法律家の質がどうこうと言っているが,君らの懸念するところの本質は,質の問題ではないと思う。むしろ,共に命がけで岩山をよじ登ってきたという経験を共有する中で,君らが培い,継承してきた,とても本質的な何かが,法科大学院生に受け継がれていないということに,君らは危機感を持っているのだと思います。」

ちなみに,ここで「悟り」というのはたとえ話であり,筆者ら旧司法試験合格組が本当に悟りをひらいたわけではないから念のため。(小林)

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