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2008年10月20日 (月)

宮澤節生教授の変節と破綻

青山学院大学法科大学院の宮澤節生教授は,2008年10月3日の東京新聞で,「法科大学院学生の経済的搾取を許さない米国ロースクール制度に倣い,全ての法科大学院で合格率が5割を超えるよう,定員を減らすべきである。例外はすでに最小規模で弁護士過疎地に設立されたものや,夜間コースに限る」と提言した。「経済的搾取」とは不穏な「蟹工船」的用語だが,ここでは司法試験に合格できない学生に学費を浪費させることを意味するようだ。10月20日付日本経済新聞でも,同様の提言が紹介されている。

私は,この提言は変節し破綻していると考える。

法科大学院の制度設計時点における宮澤教授の主張は,「米国ロースクール制度に倣い,厳格な設置基準を充たす法科大学院のみ設立し,司法試験の合格率は7~8割を確保する。当初は150人平均で20校もできれば大成功であろう(1999年8月10日讀賣新聞)。その後,法科大学院が増加した結果,司法試験合格者が年3000人を超えることになっても,上限を設けるべきではない(2000年6月3日日本経済新聞)。」というものだった。つまり,法曹の質は合格者数の制限ではなく,厳格な法科大学院設置基準(法学セミナー2001年10月号)で担保するということだ。基準のポイントは,「法学部以外からも広く多様な人材を集める」という司法制度改革審議会の理念を実現することにある(2002年5月16日讀賣新聞)。

しかし現実は,宮澤教授の主張に反し,法学部出身者枠(既修者コース)を拡大し,法学部兼任教員を広く認めるという,「驚くほど志の低い適格認定基準」(2002年5月16日讀賣新聞)が採用され,法科大学院乱立の一因となる。教授は,この成り行きを苦々しく見ていたに相違ない。上記讀賣新聞で教授は,「司法審の理想を真っ向から否定した」と痛烈に批判した。ここまでは,教授の主張は一貫している。

このような教授の主張からすれば,適切な設置基準を充たさない「志の低い」学校は,法科大学院の資格を返上すべきことになる。

ところが,法科大学院卒業生が受験する第1回司法試験の合格者枠が800人と報道されると,宮澤教授ら首都圏私大教員有志17名は,これでは合格率が3割以下になり,法科大学院制度を崩壊させかねないとして,2004年10月28日,「法科大学院過程修了者の大半が新司法試験に合格」できる合格者数を求める声明を発表した。この声明は,「宮澤教授が中心となってとりまとめた」(Matimulogより)ものであるにもかかわらず,法科大学院の「乱立」も,その原因となった「驚くほど志の低い適格認定基準」のことも,一言も触れられていない。これは,教授の従来の見解からすれば設置を許可されるべきでなかった法科大学院でさえ,一旦設立された以上存続させるということだから,変節との誹りを免れない。

さらに,司法試験合格率の低迷が社会問題となった2007年8月2日の讀賣新聞で宮澤教授は,「合格者数が2010年の3000人以上に増加する見込みのない以上,法科大学院の定員削減が必要だが,小規模校が撤退しても効果が小さいから,全法科大学院が協力して総定員数を4000人程度に削減すべきだ」と主張した。これは都市部大規模校に対する削減案であり,小規模校を優遇する,不平等な提言である。この提言には,適格のない法科大学院は撤退せよとの志もなければ,司法審の理念もない。「法科大学院数や総定員の制限を考えるのは,供給過剰による問題が現れた段階でよい」(1999年8月10日讀賣新聞)との勇ましいご主張はどこへ行ったのか。増員に反対する弁護士に対する「制度的利益を得ているから」(1995年5月8日日経産業新聞),つまり,既得権益に固執しているとの批判は,天に唾するものである。

そして今度は,「法科大学院学生を経済的に搾取するべきではない」と来た。この主張は明らかに破綻している。1~2割しか合格しない下位校を,地方の小規模校や夜間校だからという理由だけで保護し,毎年8~9割の不合格者を出し続けることは,法科大学院生の経済的搾取にあたらないのだろうか。しかも,上位校と下位校の合格率の格差は今後拡大していく。放っておいても上位校の合格率は7割,8割と伸びていくし,下位校の合格率は1割以下に落ちていく。その下位校を存続させることは,明らかに同校法科大学院生の経済的搾取である。要するに教授は,地方小規模下位校の哀れな法科大学院生をダシにして既設校の既得権益を守ろうとしているのだ。

このように変節し破綻している宮澤教授の主張だが,2000年以前から現在まで終始一貫しているところもある。それは,「米国ロースクール制度はこうなっている。だから日本の法科大学院も…」という論法だ。西洋かぶれとの批判もあろうが,私はそう思わない。米国ロースクール制度に関する教授の幅広い知見は,今後も是非,法科大学院改革に役立てて頂きたいと考える。まずは,設置基準を満たさなくなったロースクールは,米国ではどうなるか,教えていただきたいと思う。(小林)

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コメント

本日10月26日の毎日新聞で宮澤教授が寄稿しておられます。
そちらもご一読ください。
基本的には、貴殿論考中に言うところの変節後の主張に沿った内容ですが。

投稿: | 2008年10月26日 (日) 15時48分

ありがとうございます。早速読んで,反論のエントリをと思ったのですが,反論する以前の問題として,あまりに難解で,要約するのがひと苦労です。

投稿: 小林正啓 | 2008年10月26日 (日) 21時45分

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