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2008年10月11日 (土)

「ゆとりローン」破綻回避の秘策?

1011日のTBS系「報道特集NEXT 日本襲う空前の大不況 住宅ローンを返せない人々」で,田丸美寿々キャスターが,マイホームのローンを帳消しにする「秘策」を伝授する不動産業者を紹介していた。

番組によると,その「秘策」というのはこうである。

3500万円のローンをかかえているが,マイホームの市場価格は2200万円しかないため,マイホームを手放しても債務がなくならず,頭を抱えている債務者がいるとする。債務者は,不動産業者に2200万円でマイホームを売却し,代金全額を銀行に返済する。一方不動産業者は,このマイホームを2500万円で,債務者の親戚に転売するのだ。もちろん,多くの親戚は新たにローンを組んでこのマイホームを購入することになる。

12_2 そうすると,元々の債務者は,親戚からこのマイホームを賃借することになる。そこで債務者は,この親戚に家賃を払い,親戚は家賃をローンの返済に充てるわけだ。そして不動産業者は,2200万円で購入したマイホームを,2500万円で転売するわけだから,300万円の儲けになる(もっとも,短期譲渡所得税の負担はあるが)。

「ちょっと待ってくれ。その債務者は,3500万円のローンを負っていたのに,マイホームは2200万円でしか売れなかったわけだから,1300万円のローンが残っているだろう。結局債務者が支払わなければならない金額は同じではないのか?」という疑問を持たれたと思う。実際そのとおりである。しかしそこに「秘策」の「秘策」たるゆえんがある。

3500万円の債権を担保するため,マイホームに抵当権をつけていた銀行には,マイホームが2200万円で売却されることによって,担保のない1300万円の債権が残る。しかし,この債権を持っていても回収の見込みがない。そこで,銀行は債権回収会社(サービサー)に,二束三文でこの債権を売ってしまい,損金として処理する。二束三文とは高くて10万円,私の経験では1000円ということもある。こうやって債権を譲り受けた回収会社としては,債務者に対して1300万円を支払えと請求するわけだが,実際のところ,とても安く譲り受けているので,交渉次第では,100万円で和解できることもある。そうなれば,債務者としては,1300万円だった債務が100万円で帳消しになるうえ,破産してマイホームを失うこともない。法的には所有権は親戚にあるわけだが,以前と変わらず住み続けられるので一挙両得,というわけである。

確かに,一見,魔法のような「秘策」である。しかし,弁護士から見ると,このやり方には,かなり問題がある。

おそらく最大の問題は,この「秘策」は要するに,その親戚に,多大なリスクと負担を負わせるという点だ。この債務者は「家賃」の名目で親戚が新たに背負うローンを支払うわけだが,この「家賃」の支払が滞れば,親戚は身銭を切ってローンの支払いを続ける羽目に陥る。まして,万一この債務者が結局破産した場合,この親戚は「資産隠し」に協力したと疑われ,否認訴訟の被告になる訴訟リスクを負う。また,この親戚は,不動産業者からこのマイホームを2500万円で購入するわけだが,その時点でこのマイホームの市場価値は2200万円だし,銀行は2200万円の物件に対しては1500万円くらいしか貸し付けないから,結局1000万円の身銭を切る必要がある。

これだけのリスクを親戚に負わせる「秘策」に300万円の価値があるのだろうか?かなり疑問といわざるを得ない。

この300万円の儲けは,実質的には「秘策」を伝授したコンサルタント料と,銀行と担保抹消の交渉を行った対価ということなのだろう。そのほかに,将来の債権回収会社との交渉代金も含まれているのかもしれない。しかし,そうだとすると,このやり方は,弁護士以外の者の交渉業務を禁止する弁護士法72条に違反する可能性がとても高い。

それならどうするべきか。一肌脱いでくれる親戚がいるなら,もっと良いやり方がある。ローンの支払いを停止すればよい。

ローンの支払いを停止すれば,銀行はマイホームを競売にかける。競売にかけられたからといって,誰かが競落するまでは,その家に居続けてかまわない。そして,競売される価格は,市場価格よりかなり低いから,2200万円のマイホームなら,せいぜい2000万円だろう。そこで,その親戚が2200万円で入札すれば,ほぼ確実に落札することができる。その後は上の事例と同じである。債権回収会社と交渉して債務を減らせばよい。事情によっては自己破産を選択するべき場合もあろうし,弁護士に依頼した方が良い場合もあろうが,これらの場合でも,300万円のコストがかかることはあり得ない。例えば当事務所なら,弁護士費用が事情により30万円から50万円,実費(管財型破産事件となる場合)が多くて30万円というところだし,これは当事務所が特段に安いというわけではない。なお,破産をすると直ちにマイホームを明け渡さなければならないとお考えなら,それは誤解である。最近では多くの裁判所において,明らかなオーバーローン(不動産の時価よりローン残高が多いこと)の場合,マイホームを明け渡す必要がないという取扱がなされている。

このやり方のリスクとしては,その親戚が入札価格をケチると,マイホームを落札できない可能性があるということ,競売代金は現金決済なので,一瞬のことだが,銀行からお金を借りるときにそのマイホームを担保に入れることができない(別の担保を入れるか,それとも無担保で借りるかしないといけない)という点くらいである。注;下記コメントでご指摘があったとおり,この記述は間違いでした。一定の条件の下で,競落物件を担保に入れてお金を借りることができます。お詫びして訂正致します。)でも,親戚に一肌脱いでもらうのだから,このくらいは覚悟しても良いと思う。

米国のサブプライムローン問題に端を発した世界同時不況は,ゆとりローン返済期間が経過した若い家族を直撃するといわれている。そうなったとき,というより,そうなる前に,是非弁護士に相談してほしい。相談費用が心配なら,事前に電話して確認すればよい。305000円が相場だし,初回の相談なら無料という弁護士も多い(当事務所も無料です)。それでも弁護士の敷居が高いなら,多くの弁護士会では,無料相談をしているから,そちらに行ってほしい。大事なことは,業者に頼む前に,弁護士の意見を聞いてほしいということだ。(小林)

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コメント

競落不動産を担保に借入れをして競売代金を支払うことはできます。民事執行法82条2項。平成16年改正。

投稿: | 2008年10月23日 (木) 14時21分

ご指摘ありがとうございます!

投稿: 小林正啓 | 2008年10月23日 (木) 14時58分

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