次世代街頭監視カメラシステムについて
2002年,新宿歌舞伎町に街頭監視カメラシステムが導入されたことを皮切りに,渋谷,池袋など,東京都内の繁華街を中心とする数カ所に,警視庁の運営する街頭監視カメラシステムが導入された。
現在,このシステムを全国に普及させることが検討されている。ここで検討されている次世代街頭監視カメラシステムとして想定されているものは,次のようなものと推測される。
まず,カメラの台数と密度は飛躍的に増える。おそらく一地域あたり数百台のカメラが設置されるだろう。そして,このカメラが撮影した映像は,警察署のモニター室で集中管理される。
もっとも,数百台から数千台のカメラの映像を,モニター室で一括管理することは,予算の上からも,モニターを監視する警察官の負担からも,限界がある。そこで導入されるのは,異常行動の自動検知システムだ。このシステムには,予め異常行動をインプットしておき,これに該当すると判断される映像をピックアップする方式もあるが,これでは事前にインプットする異常行動が膨大なものになり,コンピューターの能力上処理できない。そこで,各カメラに接続されたコンピューターが,「通常行動」を自動学習して,「通常行動」から逸脱する映像を異常行動と判断するシステムが導入されることになる。そして,「異常行動」が検出されたら警報が発令され,その画像のみモニターに拡大表示され,犯罪性の有無等を担当警察官が判断することになろう。また,個々のカメラが撮影した画像は,メモリー又はハードディスクに一定期間保存されるが,再生されない限り,人間の目に触れないまま,自動的に上書きされ抹消される。セキュリティやプライバシー保護のために,画像は全部が暗号化されるか,容貌だけ暗号化される可能性もある。また,指名手配画像データと顔認証システムを組み合わせて,自動的に指名手配犯を検出するシステムも導入されるかもしれない。
このようなシステムは,理論的にはすべて実現可能だ。ただ,現実に信頼性のあるシステムとして設置運用するためには,技術的に,いくつかの問題をクリアーする必要があるだろう。たとえば,カメラの解像度は飛躍的に向上しているが,数百台以上のカメラの高解像度動画像を遅滞なく伝達するネットワークの確保や,短期間とはいえ膨大な量の動画を保存する記憶媒体の問題などである。そして,システム運用上最も重要な技術上の問題は,「異常行動の自動検知システム」が使い物になるかどうか,という点だ。酔っぱらいの喧嘩は自動検出できても,置き引きやスリを自動検出できないシステムならば,高額の予算を投じることは許されないだろう。かといって,敏感に設定しすぎると,モニター監視員の能力を超えて警報が発令されることになるし,これを鈍感に設定しすぎると,検出するべき犯罪行為が漏れてしまうことになる。
法律的には問題がないのだろうか。筆者の考えでは,録画についての取扱が上記のとおりである限り,これを明白に違法と断じる法律上の根拠は,現時点では存在しない。法律的に平たく言い直せば,このような「次世代街頭監視カメラシステム」は,数百人の生身の警察官が街頭に立って周辺を警戒していることと変わらない。生身の警察官を立たせて違法でないならば,代わりにカメラを設置しても違法でない,という理屈が,一応成り立つ。
もっとも,「違法と断じる法律上の根拠が現時点では存在しない」ということと,「違法でない」ということとは別問題だ。このような次世代街頭監視カメラシステムは,旧来の法理論が予測していなかったシステムであり,新しい技術,新しいシステムが導入されれば,これに応じた法理論が構築される。狭い地域に数百人の生身の警察官が24時間立ちっぱなし,という社会は法律的に許されるのか,これに代わって機械が監視の役目を担ったとき,法的には違法性が増すのか減るのか,といった検討が必要になる。(小林)
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