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2008年12月11日 (木)

裁判官・検察官の大幅増員抱き合わせ論について

弁護士だけ大幅に増員して,裁判官・検察官がほとんど増えないのはおかしい,という主張(リンク先のブログに限らないが)がある。

このような主張をする人は,平成14(2002)年に閣議決定された司法制度改革推進計画を知らないのだろうか。知っていて主張するなら一つの見識だが,知らないで主張するなら,愚かである。

確かに,平成13(2003)612日付の司法制度改革審議会意見書には,裁判官・検察官の大幅増員が明記されている。しかし,この審議会は,政府の諮問機関にすぎない。この意見書に基づき,平成14(2002)319日に閣議決定された司法制度改革推進計画が,今次司法改革の正統な設計図である。もとより,閣議決定事項の大半は,司法制度改革審議会意見書と同内容だ。しかし,裁判官と検察官の増員に関しては,微妙に文言が違っている。端的に言うと,裁判官と検察官の「大幅な増員」から「必要な増員」に修正が加えられているのだ。

すなわち,司法制度改革審議会意見書第3章「司法制度を支える法曹の在り方」には,「2 裁判所,検察庁等の人的体制の充実」として,「全体としての法曹人口の増加を図る中で,裁判官,検察官を大幅に増員することが不可欠である」と明記されている。ところが,司法制度改革推進計画の第3章「司法制度を支える体制の充実強化」では,総論こそ,「裁判官,検察官の大幅な増員」を謳っているものの,「2 裁判所,検察庁等の人的体制の充実」には,「(司法制度改革推進)本部の設置期間中においても,裁判官,検察官の必要な増員を行うこととし,所要の措置を講ずる。(法務省)」と定められているのだ。つまり,目標としての大幅増員は維持するものの,当面の増員数は必要な数に留めるとされており,しかも,何をもって必要な数と判断するかは,法務省に委ねられている。また,「(司法制度改革推進)本部の設置期間中において,裁判官,検察官の必要な増員を行うこととし,所要の措置を講ずる。(法務省)」の「も」というのが曲者である。司法制度改革推進本部は平成16(2004)年をもって解散したが,上記「も」は,解散後「も」,「必要な」増員を行うという解釈を可能にしている。

つまり,司法試験合格者数は,必要性も何も前提とされない,数値目標達成だけが定められているが,裁判官と検察官は,必要な範囲での増員となっている。その結果,自動的必然的に弁護士数だけが突出して増加することになる。泣こうが喚こうが,これが閣議決定なのだ。だから,弁護士だけ大幅に増員して,裁判官・検察官が大幅に増えないのはおかしい,という主張は,閣議決定を前提にする限り,成立しえない。

この主張が愚かな点はもう一つある。1990年代の弁護士増員要求に対し,日弁連は,裁判官・検察官の増員と引き替えに弁護士増員を受け入れるという条件闘争を行ったが,この主張は全く支持を得られずに終わった。つまり,この主張は負けパターンである。かつて負けパターンであった作戦を,それを知らずに繰り返すことが,愚かでなくて何であろう。

私は,弁護士大幅増員に反対する立場の弁護士が,裁判官・検察官の増員を求めることは悪い,と言っているのではない。閣議決定事項とはいえ,不磨の大典ではないのだから,撤回を求めることそれ自体は,ありうる選択である。しかし,かつて何があり,なぜこのような閣議決定に至ったかを知らずに,失敗した主張を繰り返すことは,ただの愚行である。

それにしても,さりげなく意見書の文言を修正して閣議決定事項に盛り込んだ法務官僚のしたたかさには,脱帽するほかはない。当時の日弁連執行部にこの程度のしたたかさと見識があれば,と思うのは私だけではあるまい。(小林)

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