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2009年1月26日 (月)

伊藤ハム事件を振り返る(7)

調査委員会報告書に戻ろう。調査委員会報告書は,報告遅れを指摘したが,より詳細には,検査担当部署から工場長への報告遅れ(9月24日から10月15日までの22日間)と,工場長から本社への報告遅れ(10月15日から22日までの8日間)に二分される。二分されるが,共通点もある。それは,自分の部署で問題を解決した後,上司に報告するという姿勢だ。これが報告遅れの背景にあることは,調査委員会報告書でも指摘されていない。

水質検査担当部署は,異常値に接し,何とか自分の部署で正常値に戻そうと努力したが,2号井戸の処理水のみならず,2号井戸の原水や3号井戸の処理水からも異常値が検出されて手に負えなくなり,工場長に報告したようである。これに対して工場長は,報告を受けた後2度の検査を実施し,異常値が検出されないことを確認してから本社に報告した。報告書によれば,工場長はあわせて保健所へ相談に赴くことを提案したようだが,保健所から公表と自主回収を要請されるとは想定しなかったのではないか。その証拠に,伊藤ハムが事件公表と自主回収を決断したのは,調査委員会報告書によっても,保健所に相談した後である。

一般論として言えば,自分の部署で問題を解決した後に上司に報告するという態度は,責任感の表れとも言えるし,日本人の美徳の一つとさえ言われる。しかし,この態度は同時に責任逃れの行動である。つまり,自分の部署に問題が起きたとき,自力で解決してから報告しないと,責任を問われ,マイナスの評価を受けるため,自力で問題を解決する方を優先するのだ。このままでは,問題解決を後回しにして報告を優先する風土など,生まれるはずもない。

調査報告書を一読して,特に体制の問題について感じることは,「マニュアル整備」「コンプライアンス意識の徹底」といった表面的な言葉に終始し,問題の根本原因にまで踏み込んでいない,という点である。マニュアルは,どんなに整備しても,想定外の事態は発生する。また,マニュアルを詳細に規定するほど,全部を理解し覚えるのが困難になる。コンプライアンス意識の徹底というが,この報告書を読む限り,具体的な場面で何を優先すべきなのかという規準は不明確なままである。

今回の事件は,伊藤ハムにとって,不幸な偶然であった面を有することは否定できないと思う。しかし,大事なのは,個人に責任を取らせたり,表面的な対策を取ったりしてお茶を濁すことではないはずだ。我々は個人に責任を問いがちであるが,個人責任を問うても解決しない問題もある。次に想定外の問題が起こったとき,どのような体制を取っておけば最も適切に対応できるのかという視点が,最も重要である。この視点が,今回の調査報告書に最も欠けている点であったと思う。(小林)

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