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2009年1月16日 (金)

伊藤ハム事件を振り返る(4)

調査委員会報告書についての感想だが,原因究明については,不満は残るが,やむを得ないというべきなのだろう。実験室ではない現実世界で過去に起き,現在起きていない出来事を科学的に完全に説明することは,実際のところ,とても難しい。重要なのは,科学的に説明できないからといって,可能性を排除するのではなく,想定できない事故でも必ず起こる,という認識を前提とした危機管理体制を構築することであろう。

このような観点で本件を見るとき,まず指摘されるべきは,水質検査体制の不備である。担当課長は異常値を聞いたが,「塩化シアンについての正確な知識に乏しく,当該事実の重大性について認識を欠いた」ため,報告が遅れたという。しかし,シアンと聞けば,素人でも,青酸カリを連想するほどの毒物である。知識の不正確さ故に不必要な過剰対応をしたというのなら分かるが,事態の重大性に気付かなかったというのは,信じがたい常識欠如というほかはない。これが事実であるなら,問題は,このような能力の人物を水質検査担当課長に据えた人事か,あるいはこの部署に水質検査権限を配分したことにこそある。ちなみに,水質検査担当部署は東京工場の管理部の下にある「ES課」である。「ES課というのは何の略ですか?」と伊藤ハムに電話して聞いたところ,「さあ,私らもESESと言っていまして,何の略かは存じません。当社では機械の保守などを担当しています。」という牧歌的な答えが返ってきた。一般的にはESというのはEmployee Satisfaction(従業員満足)の略で,我が国では作業環境の整備を受け持つ部署のようだ。食の安全という観点からすれば,このような部署に水質検査権限を付与すること自体が間違っているし,仮に管理権限を付与するなら,水質に関する基本的な知識を与えなければいけない。報告書から推定されることは,ES課は,水質検査権限を受け持っていたが,異常な検査結果がでることは想定していなかったようだ。これは,危機管理体制構築以前の問題である。伊藤ハム東京工場には,別に品質管理室が存在するのだから,品質管理室こそ,水質検査を受け持つべきである。

つまり,調査委員会報告書が指摘した「報告遅れ」も確かに問題だが,大事なことは,長いルートを情報がスムースに流れるようにすることではない。ルートそのものをできるだけ短くすることなのだ。今回,水質管理部門がES課ではなく,品質管理室であったなら,事態の展開は変わっていたはずだし,変わっていなければいけない。(小林)

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コメント

Employer Satisfaction(従業員満足)
初めて聞く言葉ですが、"Employer"ですから「従業員」ではなく、「使用者」又は「雇用者」じゃないかしら。
それとも""Employee" Satisfaction""の間違いですか。

投稿: | 2009年1月16日 (金) 08時54分

ご指摘のとおり,綴りの間違いでしたので訂正しました。拙い英語力がばれてしまいましたね。ご指摘ありがとうございました。今後ともよろしくお願い致します。

投稿: 小林正啓 | 2009年1月16日 (金) 09時59分

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