« 事故米事件を反省するなら(2) | トップページ | 事故米事件を反省するなら(4) »

2009年3月13日 (金)

事故米事件を反省するなら(3)

事故米事件は,農水省から見れば,工業用糊等に用途を限定して払い下げたのに,三笠フーズらがこれに違反したという,契約違反行為に過ぎない。この事件の社会的影響に比べ,この極端なアンバランスは,事故米穀の払い下げ制度そのものに欠陥が存在することを示唆している。

事故米穀払い下げの根拠となったのは,「物品(事業用)の事故処理要領」という内部通知だ。これによれば,基準値を超える農薬に汚染された米穀であっても,米菓や酒の原料として売却してよい。しかし,そのようなことをすれば,食品衛生法違反となる。いうまでもなく,内部通知より法律が上位だから,法律に違反する部分は無効である。よって,「物品(事故品)の事故処理要領」は,食品衛生法に反する限りで無効だ。だから,事故米穀の払い下げを行う担当官は,自らの行為が食品衛生法その他の法律に違反するのではないか,という視点を持つことが必要だった。これが,「法律による行政」の考え方であり,農水省の担当者は,この考え方を実践していなかったと思われる。

「そんなことはない。実務上は工業用糊等に用途を限定したのだから,やるべきことはやっている」との反論が聞こえてきそうだ。しかし,用途限定は,担当官が裁量に基づいて権限を行使したのに過ぎない。ここには,「用途を限定すれば業者は転用しないだろう」という上から目線しかなく,「権限を行使しなければ自分が法的責任を問われる」という,法を敬う発想はない。これは大きな違いである。

事故米穀の払い下げが最初に問題となったであろう昭和40年代後半,農林省の担当官は,「物品(事業用)の事故処理要領」に従って処理することだけを考え,より上位の法律に違反するか否かを考えなかった。これが,事故米穀の不正規流通を招いた制度的欠陥であり,そもそもの原因である。言い換えると,このとき農水省は,「内部通知による行政」のみ行い,「法律による行政」を怠ったのだ。

もちろん,農水省が,「物品(事業用)の事故処理要領」の問題点に気付くチャンスは,その後何度もあった。保管前から汚染されていたが,保管開始後の基準変更により販売できなくなったコメは,文言上「事故品」にあたらないのだから,「物品(事故品)の事故処理要領」を適用することに躊躇があって当然だった。また,カドミウム汚染米や臭素汚染米については,独自の処理要領が設けられていったのだから,それ以外の汚染されたコメについても,独自の処理要領を設けるべしという発想が出て当然だった。平成5年(1993年)には緊急輸入のタイ米の残留農薬が大きく懸念されていたし,平成16年(2004年)4月には,ミニマムアクセス米からカビ毒のアフラトキシンが検出されており,外国産米の農薬問題は大きく報道されていたから,このとき,独自の処理要領を設けるという発想を持つことは可能だった。平成16年(2004年)以降,農水省は毎年「食の安全・安心のための政策大綱工程表」を発表しており,その策定に際して事故米穀の処理手順を見直すこともできた。

このように,「物品(事業用)の事故処理要領」の問題点に気付くチャンスは何回もあったにもかかわらず,悪しき前例主義により,すべてスルーされてしまったと思われる。(小林)

|

« 事故米事件を反省するなら(2) | トップページ | 事故米事件を反省するなら(4) »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/192469/44144188

この記事へのトラックバック一覧です: 事故米事件を反省するなら(3):

« 事故米事件を反省するなら(2) | トップページ | 事故米事件を反省するなら(4) »