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2009年4月13日 (月)

「クラウドの衝撃」(東洋経済新聞社)

野村総研の城田真琴氏が著したクラウドコンピューティングの概説書である。「わずか5台のコンピュータが世界を席巻する。このパラダイムシフトに対応できなければ、新時代を生き抜くことはできない。」とはずいぶん大袈裟な宣伝文句だが、「クラウドコンピューティング」が、Web2.0に続く流行語になる可能性は十分あるらしい。

クラウドとは雲のことである。インターネットを図で表すとき、モコモコと雲のような絵を描くことが多い。インターネットは本来、複雑なネットワーク網と膨大なコンピュータ群によって構成されるが、それをいちいち書くと煩雑なので、モコモコで誤魔化すわけだ。

クラウドコンピューティングとは、このモコモコをモコモコと認め、ユーザーがインターネット網の向こう岸にあるコンピュータを意識せずに、色々なサービスを利用できるようにする技術である。別に未来の技術ではなく、アマゾンやグーグル、楽天などを利用するユーザーは、既にクラウドコンピューティングを利用している。

本書は、現在普及しつつあるこの技術が、近い将来一般的になり、一般市民や企業は、もはや高価で大きなコンピュータを自宅や会社に置くことなく、インターネットを通じて生活やビジネスができる世の中になる、と予言している。

それはそれで結構な話だが、法律家としてこの話を聞くとき、プライバシー情報やセキュリティは一体どうなるのか、という疑問を持たずにはいられない。膨大なコンピュータ群をクラウドと総称したところで、具体的なデータ保管やその処理は、どこかのサーバーやコンピュータで行われているのだから、そのサーバーやコンピュータがどの国に置かれているかで、適用法律やプライバシー情報の保護内容が変わってくる。プライバシーやセキュリティの保護が曖昧になってくるというリスクもある。

本書もそのあたりは意識しており、EU(欧州連合)は「データ保護指令」の中でEU内の住民の個人データに関して、十分なレベルの保護が行われていない第3国へのデータ移動を禁止していることや、カナダの公的機関が米国の愛国者法の適用を懸念して、米国内のサーバーの利用を禁止していること、各国でプライバシーやセキュリティの懸念が高まっていることに触れている。

日本政府もクラウドコンピューティングへの関心を高めており、「霞ヶ関クラウド」とか、「ICTニューディール」とか、言い始めている。これらのトレンドの中で、プライバシーやセキュリティは、再び、インターネットとどう付き合うか、という問題を突きつけられることになるのだろう。(小林)

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