仮釈放者に電子足輪
6月1日の読売新聞によると、法務省は、GPSを使って仮釈放者の行動を把握する仕組みの検討を始めた。当面の対象は性犯罪者であるという。
電子監視については、すでにご紹介したところであり、法務省はもう数年前から、前向きな検討を開始している。今回報道されたことの意義は、「検討を始めた」というより、検討が大詰めに入ったことを意味するのだろう。もっとも、今回の大型補正予算の余波の一つに過ぎないかもしれないが。
この問題を考えるにあたって持つべき視点は、3つはあると思う。
一つ目は被装着者の人権の問題だ。上記の電子監視は言うまでもなく、被装着者の行動の自由を侵害する。ただ、仮釈放中の者は、もともと刑務所に収容されても文句を言えない立場だから、刑務所の外で暮らせる代わりに電子足輪を付けさせられても、やはり文句は言えない。しかし、仮釈放者への電子監視が認められれば、次は前歴者(特に小児性愛傾向者)の電子監視立法が検討の俎上に載せられるだろう。日弁連は反対するだろうが、ただ反対するだけでは阻止は難しいと思う。少なくとも特定の犯罪については、本人にはどうしようもない「ビョーキ」の側面が強いことが、科学的にも明らかになりつつあるからだ。弁護士としての私の経験で言えば、男の痴漢と女の万引は、かなりの確率で「ビョーキ」である。
二つ目は刑事政策上の問題だ。電子監視は、被監視者を危険な動物と同視する政策である。言い換えれば、本人の努力による更生をはじめから期待していない(すくなくとも、そのように被監視者に思わせる)。このような刑事政策上の考え方は、昔からあるが、実際のところ、とてもコストがかかることが分かっている。人間は、「刑務所」という物理的な隔離装置を開発して長いが、技術の進歩は、電子的な社会隔離を可能にした。しかし、その功罪はまだ分からない。また、社会内更生を考える場合、共同浴場に行けなくなるなどといった日本独特の問題も考慮する必要があろう。
平成18年に法務省で行われた「更生保護のあり方を考える有識者会議」の第15回会議では、佐伯仁志東京大学教授と堀野紀弁護士が、上記二つの視点からだと思われるが、電子監視の導入に消極の意見を述べている。
三つめの視点は、電子監視のリスクだ。特に日本の場合、法務省が電子監視の導入に熱心なのは、刑務所が溢れかけていることに関係があるだろう。電子監視を導入する代わり、簡単に仮出所が認められるようになったとき、法務省は本当に仮出所者を監視できるのか。もし、被監視者が法務相の目を盗んで犯罪を行った場合、法務省が「管理責任」ならぬ「監視責任」を問われるおそれはないのか。
法務省が一番気にすることになるのは、案外、この三つめの視点かもしれない。(小林)
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