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2009年6月11日 (木)

株主はなぜエライのか?

日本経済新聞の「大機小機」は,匿名ならではの鋭い切り口がウリなのだろうが,稀に,とてもレベルの低いコラムを掲載することがある。

611日の「株主による企業統治を疑う」という大層な表題でコラムを書いた「猪突」氏は,「なぜ上場企業の株主にこれほどまでに大きな権限が与えられているのだろうか,という素朴な疑問」から始まり,「会社の様々な利害関係集団の中でも貢献が目立たないのが株主である。にもかかわらず企業統治に関し過大ともいえる大きな権限が与えられている理由は」株主が会社の所有者であるという「法技術的な解答」や,会社債権者よりリスクが高いという「まっとうな答え」でも説得力が無く,結局「歴史的な経緯でこうなった」のに過ぎないのだろうと言う。

過大か否かはさておき,株主は企業統治に関して大きな権限を持つ。株主総会には経営陣の任免権があり,黒字の会社を潰すことだってできる。その根拠は何か。株主は出資者だからである。「猪突」氏は知らないようだが,こんなことは基本の基本である。出資者とは,起業するときや事業を拡張するとき,起業家の器や事業の将来性に賭けて資本を提供した人だ。つまり会社の生みの親であり育ての親である。芸能人のパトロン,相撲取りのタニマチである。「会社に対する貢献が目立たない」とは何事だろう。こういう手合いを俗に「恩知らず」という。

こういう批判記事を書くとピントのずれた反論をする人がいるからあらかじめお断りしておくが,私は,株主の権限を制限するべきだというコラムの主旨に対して賛成も反対もしない。私が言いたいのは,猪突猛進も結構だが,大層な主張をする前に,基本の基本くらい勉強しないとダメだ,ということである。(小林)

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コメント

いつも楽しく勉強させていただいております。
しかしながら、今回の先生のご意見には、違和感を覚えざるを得ません。
「起業家の器や事業の将来性に賭けて資本を提供した人」「会社の生みの親であり育ての親」といえるのは、創業時や拡張時にリスクをとりながら資金を貸した人にも言えることです。従業員として、自分の人生をささげた人にも言えることです。
そのような人達に比べて、何故株主だけが特別扱いなのかというのが、筆者の主張ではないでしょうか。
そのような問題提起に対して、株主に「出資者」というレッテルを貼ることで、何かを説明したことになるとは思えないのです。

投稿: 匿名氏 | 2009年6月13日 (土) 05時05分

コメントありがとうございます。
とりあえず三点申し上げます。
第一に,私が批判しているのは,「猪突」氏が「株主に過大な権利が認められる」理由が「歴史的経緯」以外に無い,と主張している点に対してです。仮に,「猪突」氏の主張が,「株主に権利が認められる理由はあるけれども,他の利害関係人より優遇されるのは納得いかない」ということであれば,批判はしません。しかし,「猪突」氏は明らかに,株主が権利を持つ理由が無いと書いています。株主の権利の根拠は,ごく初歩的な会社法の教科書に書いてあることであり(だからレッテル貼りでも何でもありません),「猪突」氏の地位なら,この程度の知識がなければ完全に落第です。だから私は,不勉強だと批判しているのです。
第二に,これも教科書の受け売りですが,株式会社においては,創業時の株主と,その株式を譲り受けた株主は,完全に同等に扱われなければなりません。平たくいうと,「会社の生みの親」の地位を,その後の株主は引き継ぐのです。会社は,創業者であろうが,その株式譲受人であろうが,同列に重視しなければいけないのです。創業者株主であるか,創業者からの譲受人であるか,という理由で株主を差別することは,会社法上許されません。
なぜでしょうか。創業者かそれ以外かで株主が差別されるということは,創業者の立場で考えると,自分の株を譲渡するだけでその価値が下がる,ということを意味します。株主には,株式を譲渡するほかには投下資本を一気に回収する方法はありませんから,譲渡するだけで価値が下がる,ということは,創業者にとって,投資そのものを躊躇させるリスクになります。投資家が投資そのものを躊躇したら,広く資本を結集して起業するという株式会社のメリットが大きく損なわれることになります。だから,会社法上,創業者かそれ以外かで,株主が差別することは許されないのです。
第三に,株主のリスクと,債権者(従業員も含む)のリスクは質が違うという点です。どう違うかというと,会社は債権者に対しては,「債務を履行する」という約束をしていますが,株主に対しては,この約束をしていません。約束をしていない以上,投下資本が回収できなくなっても,会社は株主に賠償義務を負いません。
以上を踏まえた上でなら,株主とそれ以外の利害関係人をどのように取り扱うべきかという議論は,多いになさったら結構だと思います。なお,私の稚拙な解説より,ごく基本的な教科書をお読みになることをお勧めします。

投稿: 小林正啓 | 2009年6月13日 (土) 09時33分

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