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2009年6月 5日 (金)

「新左翼の遺産」大嶽秀夫著

「新左翼」に関連する本を片っ端から読んだ。なぜか幻冬舎刊が多いが、ご紹介するのは東京大学出版会である。小泉元首相をはじめ、現代日本の舵取りを担う世代が新左翼の遺産を引き継いでいるというのが主旨である。

新左翼とは、共産党・社会党など既成左翼(旧左翼)を批判し、既成左翼よりさらに左に位置する原理的共産主義運動であり、日本では、60年安保から70年安保前後に青春を迎えた「団塊の世代」がこれを担った。平たく言うと、60年安保で共産主義同盟(ブント)の一員として国会議事堂敷地に突入した際死亡した樺美智子に世代的共感を持った当時の若者である。

新左翼勢力はその直接行動主義から「過激派」と呼ばれ、内紛と分裂を繰り返し、1972年の浅間山荘事件を境に衰退していく。

それだけならそれで終わりだ。新左翼はその行動(事件)によって歴史に残ったが、これが新左翼と言える思想体系は何も遺さなかった。しかし、思想といえるほど体系的ではない何か、「気分」とも「風潮」とも言うべき何かが、政治的立場の違いを問わず、団塊の世代を中心に遺された。大嶽秀夫は、これを「新左翼の遺産」という。

その気分とは、例えば理想主義、殉教精神、反権威主義、反パターナリズムであり、弱者や被差別者に対する偏愛と自己否定(加害者意識・自虐史観)、強烈な直接民主主義志向とエリート意識であって、これらが矛盾をはらみながら混じり合ったものである。なにしろ「思想」ではなく「気分」なので、自己矛盾があっても平気なのだ。そして新左翼の遺産は、具体的には、(団塊の世代の)子供らへの丸刈り強制・制服強制反対運動、マイノリティ(ゲイ・レズビアン)擁護、男女平等運動やDV、パワハラ、セクハラ、アカハラ否定運動に結びついていく。

大嶽秀夫はまた、小泉内閣は、一面で新自由主義(ネオ・リベラリズム)的であるが、これが同時に、新左翼の遺産を受け継いだ政権であり、これは例えば、男女共同参画社会の目標化や司法改革(裁判に対する国民参加)などにあらわれているという。そういえば、小泉元首相には、ハンセン氏病患者に対する劇的な対応や、一種の理想主義、革命指向等、新左翼的という説明が可能な行動や思考がとても多いことに気付く。もちろん、小泉だけでなく、この世代の知識人には、政治的立場を問わず、新左翼的「気分」に支配された人がとても多い。特に、福井秀夫など、かなり極端な新自由主義者は、新左翼に分類した方が分かりやすい。

「団塊の世代」は、ここ10年ほど社会の主役として活動し、多くは定年を迎えて引退しつつあるが、社会のリーダー格となった「団塊の世代」は、今後10年は日本の舵取りとして生き残るだろう。ということは、現代社会を読み解くキーワードとして「新左翼」は欠かせないことになる。「いまさら」新左翼を取り上げた大嶽秀夫の問題意識はおそらくこの辺にある。

私の問題意識もとても近い。1998年ころ以降、突如盛り上がった「司法改革」を推進した弁護士たちは、「団塊の世代」であって,「新左翼の遺産」を受け継いでおり,青臭い理想主義、反パターナリズム、直接民主主義、革命指向、エリート意識という「気分」に支配されていたというのが今の私の考えである。そしてこれらの弁護士たちは、ここ数年間、各弁護士会の会長を担う世代となり、今後数年間の弁護士会を支配していくであろう。彼らの行動パターンを読み解くには、新左翼的「気分」への理解が不可欠であると思う。(小林)

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コメント

 新左翼の遺産,私も読み始めました。
 「司法改革と新旧左翼」ですが,面白い見方ですけど,この件に関する私の意見は違います。いわゆる「司法改革」なるものを推進してきた勢力は,旧左翼,端的に言えば,共産党系弁護士じゃないでしょうか?
 僕が単位会の副会長をやったのが西暦2000年で,当会でも「裁判員ミュージカル」みたいな珍妙な集会をやりました。副会長として日弁連の内情を垣間見て,旧左翼が大嫌いになり,それ以降,新左翼に急接近していったというのが,私のスタンスです。
 直近の日弁連総会(ホテルオークラ)に出席しましたが,執行部擁護で発言していた人たちも・・・・(危ない話題なので,後略)。
 党派的所属としての「新・旧」に関しては,上記のとおり異論がありますが,いわゆる「司法改革」が始まってから,今日に至るまで,単位会の会長を務めたり,日弁連執行部を支えた人々の「気分」は,確かに先生ご指摘の面がありますね。結局,世代論の問題になるような気がします。
 「新人類」と呼ばれる我々の世代から見ると,団塊の世代のおじさんの「気分」は,ついて行けませんね。
 小林先生と私とは,年齢も期もほとんど一緒ですよね。

投稿: Barl-Karth | 2009年6月23日 (火) 17時45分

いつもコメントありがとうございます。
追って多少触れる予定ですが、司法改革に熱狂した左翼勢力は、一部は共産党系、一部は新左翼系であり、数的には共産党系が多い、というのが私の認識です。ただ、共産党系左翼か新左翼系左翼かという分類は、司法改革を論じる上ではそれほど重要な視点ではないのでは?、とも思っています(新左翼の弁護士はご不満かもしれませんが)。大事なのは、ご指摘のとおり、新左翼的「気分」であり、この点は今後もご指導をいただきつつ、考えていきたいと思います。

投稿: 小林正啓 | 2009年6月23日 (火) 23時52分

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