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2009年7月20日 (月)

「テロリズムの罠」 右巻・左巻 (佐藤優 角川新書)

先日有罪が確定して失職し、「起訴休職中外務事務官」の肩書きが取れてしまった佐藤優氏の随想集。氏がマルクス経済学に傾倒していることは前著「国家の罠」で記されているが、本書は、新自由主義の破綻をマルクス経済学の視点から分析している。

すなわち、マルクスによれば、労働者を搾取することは、資本主義の本能である。しかし、労働者を搾取しすぎると、商品購買力がなくなってしまい、資本主義は自らの首を絞めることになる。東西冷戦の時代、資本主義は、共産主義と対立しつつも、労働者の購買力を支えるために共産主義的政策を取り込むことによって、資本主義を止揚し、発展させてきた。しかし、共産主義諸国が崩壊し、敵を失った資本主義は、本能の赴くまま、新自由主義へと突き進み、大量の絶対的貧困者を作り出した。これらの絶対的貧困者は、寄るべき社会組織を持たず、アトム化しているが、ひとたびカリスマ的リーダーが登場してこれを糾合すると、容易にファシズムを生み出す。ファシズムの行き先は、戦争など、全国民の不幸だ。佐藤氏はこのように述べて、アメリカや日本の将来を憂う。

私はマルクス経済学の素養は全くないが、佐藤優氏に限らず、マルクス経済を語る人は、とてもわかりやすく世界を分析してみせる。あまりに分かりやすすぎるので、天の邪鬼な私は、眉につばをつけずにいられない。全部が間違っているというつもりはないが、政治・経済活動のプレーヤーである個々の人間の、とても人間くさい何かを視点に加える必要があるような気がする。本書の中で著者が、当時の福田首相の退陣を予見できなかったり、オバマ大統領の当選を予見できなかったことは、快刀乱麻のマルクス経済学だけでは足りない何かがあることを示しているのではないか。

また、佐藤優氏は、「年収200万円以下の国民が10000万人を超えるというのは尋常ではない」と繰り返し危機感を煽る。絶対的貧困層が少なからず発生し、喫緊の政治的経済的課題であることは私も同感だが、この数字にはやや疑問がある。日本人のほぼ10人に一人が絶対的貧困層であるという実感に欠けるのだ。

私の尊敬するある人が、この話題についてこう言った。「本当に、年収200万円以下の国民が1000万人以上いるなら、なぜ、自殺者が年3万人しかいないのか?」

いろいろケチをつけたが、本書の基底を流れる著者の憂国の思いには大いに共感できる。(小林)

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