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2009年7月27日 (月)

ライフログとプライバシー問題の法的切り分け(試論1)

ライフログビジネスに注目が集まっているらしい。先日私が参加した「ライフログ・サミット」も、高い入場料なのに満員で、すごい熱気だった。

ライフログとは、直訳すれば「生活(life)の記録(log)」である。現代のネットワーク社会では、人は意識的無意識的に、情報の断片をネットワークにまき散らしながら生活している。そのほとんどはゴミのように無価値であるが、これらをコンピューターで統合し,価値のあるサービスを生み出すことができる。これが、ライフログビジネスである。アマゾンドットコムなどが、「この商品を買った方はこんな商品も買っています」と教えてくれるのは、ライフログビジネスの一つである。将来は、SUICAなどのICカード利用履歴を抽象化して統合することによって、東京中の人間の移動状況を刻一刻パソコンの画面に表示する、なんてことが可能になるかもしれない。この画面を見れば、いつ、どこにサービスや広告や営業マンやタクシーを投入すればよいかが手に取るように分かる。そうなれば、莫大な経済的価値が発生することになる。

ところで、ライフログビジネスの振興に障害となりうるのが、プライバシーの問題だ。私が「ライフログ・サミット」に招聘されたのも、プライバシー問題をどう考えるか、という趣旨である。有り体に言って、この問題を考えている法律家(学者を含めて)は、少なくとも日本には、ほとんどいないと思う。私のような小魚が「サミット」などという大層な会合に呼ばれたのがその証拠だ。私自身、恥ずかしながら、呼ばれて初めてこの問題を考えてみたような次第である。そこで、試論ではあるが、このように切り分けて考えてみたらよいのでは?というご提案をして、ご批判を仰ぎたい。

プライバシーの観点からライフログを考えた場合、ごく単純に言って、二つの切り口が考えられる。

一つ目は、自分のライフログが、自分に返ってくるのか、それとも、他人に渡されるのか、という切り口だ。便宜上、前者を「自己回帰型」、後者を「外部提供型」と名付ける。プライバシーとの関係で言うと、言うまでもなく、外部提供型の方が、プライバシーの問題を生じやすい。

二つ目は、自分のライフログが、単一の端末から発せられたものか、それとも、複数の端末から発せられたものか、という切り口だ。これも便宜上、前者を「単一端末型」、後者を「端末横断型」と名付ける。単一の端末とは、例えば一つの携帯電話を指す。ただ、注意していただきたいのは、機械が一つでも、端末が複数になる場合があることだ。例えば、1台のパソコンでアマゾンと楽天のサイトにアクセスする場合、端末は二つと考える。これは、機械は一つでも、アクセスしている事業体が二つある場合には、端末は二つと考えることを意味する。逆に、アクセスする事業体は一つでも、機械が二つあれば、端末は二つと考える。例えば、NTTと契約している人が携帯電話を二台持ち歩いている場合、事業体は一つだが、端末は二つとなる。ややこしくて申し訳ないが、このように考える理由は追って説明したい。プライバシーとの関係では、「端末横断型」の方が、「単一端末型」に比べ、問題を生じやすい。

さて、「自己回帰型と外部提供型」と「単一端末型と端末横断型」という二つの切り口を組み合わせると、4通りのマトリックスが完成する。このマトリックスに基づいて、ライフログサービスとプライバシーとの関係を考えてみる。

単一端末型

端末横断型

自己回帰型

A

C

外部提供型

B

D

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コメント

 鋭い分析を興味深く拝見させていただいています。
>有り体に言って、この問題を考えている法律家(学者を含めて)は、少なくとも日本には、ほとんどいないと思う。

 いないわけではないのですが、残念ながらレベルが低いですね。ちなみに「プライバシー=自己情報コントロール権」説を信奉している法律家・学者は日本だけの現象です。
(http://www.infosocio.org/Vol2No3.pdf 情報社会学会誌「自己情報コントロール権説の批判的位置考察」などを参照乞う)
他に、市販本としては拙著「サイバー監視社会」(電気通信振興会)、「個人情報「過」保護が日本を破壊する」(ソフトバンク新書)、「情報化時代のプライバシー研究」(NTT出版社)などをご参照ください。  青柳武彦(学術博士・国際大学客員教授)

投稿: 青柳武彦 | 2009年7月30日 (木) 15時40分

コメントありがとうございます。ご著書は拝読しております。今後ともご指導ご批判よろしくお願いいたします。

投稿: 小林正啓 | 2009年7月30日 (木) 20時46分

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