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2010年3月24日 (水)

心の一燈 回想の大平正芳 その人と外交

41k8vtgo6xl__sl500_aa240__3大平正芳首相は、在任中は「あー、うー」の口癖から「鈍牛」と評されたが、現在は、「戦後きっての知性派」といわれている。大平ほど、在任当時とその後とで評価の転じた首相はいないだろう。逆の意味で転じた首相には小泉純一郎がいるが、その政治姿勢でも、大平と小泉とでは好対照だ。

本書は大平正芳の娘婿にして、大蔵官僚から秘書官、衆議院議員という人生の大半を大平と共に歩んだ森田一による回想録であり、戦後外交史を縦軸に、自民党の派閥抗争や核持込疑惑、沖縄返還密約にまで触れた生々しい内容となっている。

とはいえ、ものすごく重大な政治課題を処理しているにもかかわらず、一見地味に感じるのは、大平の政治姿勢に由来するものだろう。大平は、わかりやすい理想を掲げて革命的に実践する政治手法をとらず、吉田茂、池田勇人、佐藤榮作、田中角栄といった先人の遺産を止揚し次代に引き継ぐことに、自分の役割を見定めていたように見える。福田赳夫との「40日抗争」と呼ばれる死闘を演じながら、「俺が死んだら後を継ぐのは福田だ」と述べたという政治姿勢は、敬虔なクリスチャンであることに由来するのかもしれないし、長男の夭折に影響を受けたのかもしれない。

谷垣禎一や加藤紘一ら現役の政治家に対する歯に衣着せぬ論評は楽しく、日中国交回復や金大中事件、核持込疑惑への対処に見られる危機管理の手法は、大いに参考になるし、今後の日本政治に対する予測は、的確かつ悲観的だ。筆頭の編者でさえ1968年(昭和43年)生まれであり、生で大平首相を記憶しているとは思われないにもかかわらず、膨大な資料を綿密に整理し、父親以上に年の離れた森田一と対等に渡り合って貴重な証言を引き出したスタッフの努力に敬意を払いたい。

閉塞状況が続くとき、人は革命にあこがれを持つ。しかしそういうときにこそ、地味だが重要な仕事を思い出すことが必要だと思う。

 

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