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2010年4月27日 (火)

宇都宮新会長は「ペースダウン」と「トーンダウン」

日弁連会長選挙に主流派から立候補して敗れた山本武嗣弁護士が、日経ビジネス45日号「敗軍の将、兵を語る」で「それでも弁護士の増員を」という寄稿を行っている。

一言でいって、ちぐはぐな日弁連主流派を象徴する文章だと思う。

山本弁護士は、「弁護士を増やす意義は、国際競争を勝ち抜くことにあります。」と述べる。なるほど。正論だろう。それなら、国際競争に勝ち抜くために司法はどうすべし、と仰るのかと思って読み進めてみると、「潜在的なニーズはあります。例えば、仕事を依頼したくても、経済的に弁護士費用を支払えずに、泣き寝入りをしている人々がいます」だそうな。

困窮している人を救済することや、扶助予算の増額が必要だという主張は分かる。これも正論だ。でも、国際競争を勝ち抜くことと、いったいどういう関係があるというのだ?

つまり山本弁護士の文章は、部品の一個一個は正論だが、つなげて書くとちぐはぐだ。企業の代理人として書いた準備書面に、労働者の代理人として書いた準備書面の文章を、間違えてコピペしてしまったようなものだ。そのため全体としては支離滅裂、説得力ゼロである。

このことは、第一に、この半年間、山本候補を支えてきた日弁連主流派が、企業系(国際競争に勝ち抜く!)と人権系(貧困者救済!)に分裂したまま、双方の主張のすりあわせを怠ったことを意味している。第二に、山本弁護士が、分裂した主流派のレクチャーを鵜呑みにしているだけで、法曹人口問題を、自分の頭できちんと考えたことがないことを意味している。

これでは、選挙に負けて良かったと言われても仕方ないだろう。とても残念である。

一方、勝利した宇都宮日弁連新会長は、会務執行方針を発表した。最大の争点だった法曹人口問題は最初から14番目に格下げとなり、「法曹養成・法曹人口のあり方について検討を深め、市民の理解の得られる政策を提起する」と、すごく穏当な表現に落ち着いた。会務執行方針は、山本候補のマニフェストと区別がつかない。

さらに、419日の日本記者クラブでの記者会見では、法曹人口ペースダウンを」と述べ、人数については明言を避けた。あのー、「ペースダウン」は宮﨑誠前会長の公約なんですけど。会長就任1ヶ月であることは大目に見ないといけないが、主張が山本候補→宮﨑前会長と遡っていくようでは、「トーンダウン」とのそしりは免れないだろう。これが、「公約違反」との非難に変化するまでの時間は長くはない。

畑中鐵丸弁護士が、ビジネス法務5月号に、「混迷極める日弁連会長選と今後の法曹人口問題の行方」と題する寄稿をしている。さすがに「東京大学在学中に司法試験と国家公務員上級試験に合格した」というだけあって、間違いは多々あれど、ポイントはついていると思う。間違いとしては、すでに指摘されているとおり(私も本に書いたが)、法曹人口増員論は「突如出現した」ものではないし、宇都宮弁護士を「過払い金返還請求事件を『簡単で儲かるプラクティス』として確立された実績」の持ち主と評価することは誤りだし、とても失礼だと思う。

しかし、弁護士の急増は一種の訴訟社会化を招くという指摘は正しいと思う。畑中弁護士は労働審判事件を挙げているが、他にも、事件の急増が予想される領域がいくつかある。私は数年前から、大阪弁護士会の業務改革委員会で同じ主張をしてきたが、ほぼ無視されてきた。しかし、最近風向きが変わってきたと思う。これからの弁護士会は、訴訟の増加を支援する方向に動き出すだろう。

訴訟社会化といっても、すぐアメリカ並みになると怖れる必要はない。制度が全然違うから、日本の弁護士がどんなに増えて、どんなにがんばっても、アメリカ並みの訴訟社会になる可能性はゼロだ。しかも、一定の訴訟社会化は、国民の意思でもある。それが「法の支配」という司法改革のスローガンの意味するところなのだから。

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コメント

 私が気になっているのは、
 給費制の廃止と貸与制の導入については裁判所法改正法が成立し、もはや施行日を待つだけという状態であるのに、
「貸与制を阻止する(闘い?)」という、法律で決まっていることを、日弁連が「阻止」するという表現と
「給費制の維持」という、何もしないでいれば給費制は維持されるという誤った印象を与える表現
を使っている新執行部のセンスです。

 廃止が決まった赤字ローカル線だって「存続を!」というスローガンを使ってるんじゃないでしょうか。

投稿: なしゅ@東京 | 2010年4月27日 (火) 17時34分

ガス抜きよ。が・す・ぬ・き。

投稿: とおりすがり | 2010年4月28日 (水) 13時04分

>宇都宮弁護士を「過払い金返還請求事件を『簡単で儲かるプラクティス』として確立された実績」の持ち主と評価することは誤りだし、とても失礼だと思う。

たしかに宇都宮弁護士は金もうけのためにやったわけではないですけど、結果的に収益性の高い分野になったことで一般化したのも事実ですよね。同氏はその現状を疑問視しているようですが、債務者を救済する仕組みが市場化することで広まったのは本来望ましいことだと思います。もちろん、グレーゾーン金利という半端なものはなくすべきですが、収益性の低いままでは、一部の弁護士がボランティア的にやるだけになってしまい、大半の債務者は放置されてしまいます。

ちなみに、アメリカにも債務整理専門事務所はあって、新聞などで広告しています。本人が望んだ結果かはともかくとして、日本でも債務整理という仕事が市場ベースに乗るようになった(一般化した)ことは望ましいことだと思います。

困っている人からお金を得るということ自体を疑問視するなら、交通事故の被害者も離婚の当事者も先物取引詐欺の被害者もみんな困っているから相談に来るわけで、弁護士業というもの自体への疑問につながりかねず、なかなか難しい議論だと言わざるを得ません。

投稿: sate | 2010年4月29日 (木) 01時34分

sateさん、コメントありがとうございます。
2年ほど前、大阪弁護士会の業務改革委員会として、一種の投資被害者を集めて訴訟を提起する「ビジネスモデル」のアイデアを消費者保護委員会に諮ったところ、消費者族の弁護士から、「消費者被害事件でビジネスをしようとはいかがなものか」と暗に(私にとってはあからさまに)非難されました。その消費者族の弁護士が宇都宮候補を支持しているか否かは分かりませんが。

投稿: 小林正啓 | 2010年4月29日 (木) 08時39分

 はじめまして。先生の投稿を興味深く拝見させて頂いております。

 さて、私は選挙中は宇都宮先生を指示していましたが、おそらくは宇都宮会長は法曹人口に関し、消極的減少派に分類できるのではないでしょうか。もともと、法曹人口を中心争点にするのは消極的でしたし、1500人と言う数字もかなり後半戦で出たような気がします。公約に掲げている以上、実行はするとは思いますが、書いてあるとおりなのだと思います(個人的にはもっと中心争点にすべきとは思いますが、一番上にいっていいかというと国民への理解と言う点では疑問に思います)。恐らく、前記修習の復活→研修所の容量で1500人程度しか合格者を輩出できないという戦略ではないかと。
 私自身は最低でも1500人程度にすべきと思っていますが、給費性問題を扱うのはそれはそれでいいと思います。恐らくですが、会員の大多数が宇都宮会長を支持したのは、これほどの人権派弁護士が汚れ役を買ってでも法曹人口問題に取り組んでくれれば、司法改革の潮目が変わるのではないかと言う期待感です。最初に法曹人口問題をもってきたところで、世論の反発を食うのは目に見えてきていますから(恐らく、法務省も表立っては味方しないと思います)、比較的人権的と捉えやすい部分の潮目を変えて、その上で本丸の法曹人口に行くのがいいのではと思います。
 宇都宮会長が法曹人口に消極的だったとしても、やらざるを得ない問題だと思います。というのは、宇都宮会長が過去の執行部と異なる最大の長所は消費者系という実働部隊を抱えている点です。その意味で貸金業法、敗訴者負担、割賦販売法・特定商取引法改正を戦ってきた実働部隊が存在し、この路線は国会議員や連合系、貧困系とのパイプが存在します。この実働部隊の相当数は法曹人口削減派ですから、支持母体の相当数が削減である以上、取り組まないわけには行かないと思います(本気で取り組まないなどと言い出したら支持を失うでしょうし)。

 最後に、私は中道派ですが、一回政権交代があってよかったと思う部分は、司法改革を再考しようとするとロースクールをどうするんだという問題が絡んでしまうことです。ロースクールに熱狂したのは弁護士会に他ならないので旧主流派からすると、ロースクールに冷淡にはなれないのだと思います。ロースクール絶対反対とまではいいませんが、ロースクールにしがらみがあると司法改革は再検討できないと思います。ロースクールの人たちからすれば、弁護士会の法曹人口再点検ははしごをはずされたようなものと言う実感なのは当然でしょうし。

投稿: 某弁 | 2010年5月 6日 (木) 13時25分

>貸金業法、敗訴者負担、割賦販売法・特定商取引法改正を戦ってきた実働部隊が存在し、この路線は国会議員や連合系、貧困系とのパイプが存在します

反面、経済界、保守系の議員、市場主義的を擁護する一部マスコミとの間では水と油の面がありますね。中産層の共感も得にくいでしょう。はっきりいって、上に書かれているような法改正についても経済界や政界の改革推進の勢力はかなりフラストレーションがたまっているようで、そろそろ政界では反撃が始まるのではないでしょうか。

同時に、消費者運動系に反発を感じる弁護士も多く、弁護士界内部での基盤も強固とはいえないと思います。企業法務に熱心な弁護士たちはよく消費者運動寄りの裁判例などを「裁判所が政治的に下した判決だ。社会主義的な解釈である」などと批判していて、本音では消費者運動に共感どころか反発を感じているケースも多いようです。

敢えて言わせていただくと、一般社会では少数派の市民運動系勢力が弁護士会、日弁連を通して政治的に動いていることに、強制加入団体の会員として違和感を感じている弁護士も多いのですね。

これまではうまくいったとしても、それは世間的にイメージの悪い“サラ金”を規制するような話だったからで、最近言われているような労働規制の強化などになると、影響が大きいですから、一般の経営者や経済団体、中産層からの反発も強くなり、あるところで、“なぜ強制加入団体がそんな活動しているの? おかしくない?”という声が内外から強まり、日弁連への批判が高まって、他の件(法曹人口など)でも日弁連の発言力が削がれる結果にもなりかねません。

また、政界における左派勢力の後退も気になるところです。民主党政権の支持率が低迷し、鳩山政権も長くはないと思われます。宇都宮弁護士は民主党や社民党など左派系の政治家とのパイプは太いですが、保守系や改革派とは考え方が水と油ですから、政権が変わると一気にパイプを失うのではないでしょうか。

会長選挙の際、民主党政権の今が法曹界を変えるチャンスだということを宇都宮陣営はおっしゃっていましたが、逆にいえば、民主党政権が崩壊すれば、八方ふさがりになるとも考えられます。

ましてや、弁護士業界の内部でも市場主義的な業務方法を歓迎する人たちと昔からの職人的な業務を絶対視する勢力との対立もあり、増員についても国際競争に勝つために不可欠という主張と弁護士に競争は合わないという考えとの対立があり、昔のように弁護士といえばこうだ、というような理念で一枚岩に固まることがきわめて難しくなってきています。

また、増員問題では宇都宮氏支持だけども弁護士自治に関しては弁護士会の左派支配が不安だから監督権を外部機関に移してほしいというような意見もときどき聞きます。こういう話はタブーだったはずなのに、最近は良く聞くようになりました。

旧主流派が二つの勢力の合体だという話はよく聞きますが、宇都宮派も左派系と、非左派だが急激な改革についていけないと感じて支持している勢力の二つに分かれている感じがします。

話を戻すと、現状は、日弁連が特定の方向に強く運動すればするほど、内部から反発が強まりかねないという難しい状況にあるわけで、かつてのように“日弁連の意見は弁護士の総意だ。政府は弁護士の声を聞くべき”とは言えなくなってきていますね。

>1500人と言う数字もかなり後半戦で出たような気がします。公約に掲げている以上、実行はするとは思いますが、

日弁連に決定権はないので、ここでいう実行とは、政府に対して、1500人にしてください、と要求することではないでしょうか。政府側が、検討はする、と答えて、“3000人の予定だったが1500人という意見もあり間を取って2000人にした”ということでも日弁連の意見を聞いたことになり、宇都宮氏も公約通り要求はしたこととなり、双方の顔を立てることになります。

そして、宇都宮陣営は“旧主流派のままだったら2500人になったかもしれない。1500人という数値を出したから政府は譲歩した”といい、旧主流派は“いや、2000人は宮崎会長時代の数値だ”と反論する。こういう結果になりそうな気がします。

投稿: sate | 2010年5月 8日 (土) 11時29分

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