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2010年7月12日 (月)

海外工場で工作機械を製造することは規制されているのか?

森精機の米国新工場建設を報じる日経記事(2010年1月22日)

「高精度の工作機械は軍事転用の恐れがあるとして新興国での生産が規制されている。森精機は07年にタイに工場建設を発表したが、外為法の規制によって計画を取りやめた経緯がある。(中略)森精機は、外為法の規制対象外となる米国に工場建設を決めた。」

オークマの台湾工場建設を報じる日経記事(2010年5月8日)

「(外為法)に基づく輸出貿易管理令で、一定以上の性能を持つ機械は新興国での生産・販売が規制されているため、(台湾工場で半製品を生産し)日本で最終的に組み立てる」

同じ新聞社の記事なので、同じ記者が書いたのかもしれないが、この記事は、ある意味で間違いだらけである。

新興国であろうがなかろうが、「外国で工作機械を生産すること」に対しては、外為法上はもちろん、どの法律にも何の規制もない。販売も同様だ。だから、「外為法の規制対象外となる米国」なら工場建設ができるというのも間違い。

外為法は正式名称を「外国為替及び外国貿易法」という。このうち、後半の「外国貿易法」部分が貨物の輸出入等を規制している。しかし規制しているのはあくまで輸出入だから、「外国で工作機械を生産すること」はもともと規制対象外なのだ。

では、なぜこのような記事になるのか?あるいは、外国に工作機械製造工場を建設する日本企業に障害はないのか?というと、おおいにある。というのは、日本企業が外国で工作機械を製造する場合、その部品や、加工用の機械、製品操作用のプログラム等を海外に持ち出す必要がある。その際、貨物の輸出や技術の海外移転が、厳しい規制を受けるのだ。そのために、日本の工作機械メーカーは海外工場の建設がとても困難になっている。つまり、上記の記事は、記述は不正確だが、全体としては間違っていない。ちなみに、米国に部品や技術を持ち出す場合にも、外為法の規制がある。ただ、他国に持ち出す場合に比べて規制が緩いだけだ。

これらの規制は、武器輸出規制と呼ばれる。その是非について、ここでは論じない。ただ、武器輸出規制が必要であるとしても、行き過ぎではないかという視点は持つべきだと思う。国土が狭く資源の乏しいわが国は、工業の国際競争力抜きでの発展はあり得ない。それにもかかわらず、外為法は、ただでさえ高価な日本製品に、コストを付加している。たとえば、海外で半製品を生産して、わざわざ日本に持ち帰って完成させるオークマは、そのコストを価格に転嫁せざるを得ない。再度海外に輸出するなら、さらにコストがかかる。これはいわば輸出障壁だ。

輸出立国ニッポンが、高い輸出障壁を自らに課して、国際競争力を下げているという、とても奇妙な国であることは、あまり知られていないと思う。(小林)

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コメント

非常に興味深いエントリーですね。
日本の工作機械メーカが海外に作った工場では、全部品を作っていないこともあります。

工作機械では「主軸」の精度と耐久性が評価そのものになっている、といっても過言では無いのですが、主軸は部品ユニットとして、工作機械本体に取り付けます。

このために、主軸ユニット以外を海外で作らせて、日本に輸入して、日本で作った主軸ユニットを組み込んで、調整・検査をして日本製の工作機械として再度輸出するといった形態も以前は多くありました。
この場合、海外工場は外注先でしたが・・・・。

また、最近の工作機械は、全て電子制御ですから、これは工作機械メーカーでは作っていません。
この部分こそが、技術的秘密でもあるし、同時に武器製造問題にも直結しています。

こうなると、「工作機械の法的に規制するべき部分はどこなのか?」となりますが、実体はかなり適当です。

極めて有名な、東芝製の工作機械が、当時のソ連に渡って、潜水艦のプロペラ加工に使われた、という事件は上記のような観点で見ると、全くの事実無根のデタラメでした。

純粋に、日米間の外交問題であった、というべきものでした。
同じことが、いつ起きても不思議はありません。

投稿: 酔うぞ | 2010年7月12日 (月) 23時27分

酔うぞさん、コメントありがとうございます!
「こんな日弁連に誰がした?」235頁に記した、日本の司法制度の問題点の一つは、武器輸出規制制度に端的に表れていると思っていますので、このエントリは今後も続けていくつもりです。ご指導御批判をよろしくお願いします。

投稿: 小林正啓 | 2010年7月13日 (火) 07時04分

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