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2010年8月14日 (土)

「企業の弁護士役割観は変わりつつあるのか」福井康太、福井祐介

標記論文は、本年3月に発表されたものだが、言及したブログ等はないようなのでご紹介したい。PDFでダウンロードできるから、是非本文にあたっていただきたい。

同論文は、司法改革の柱である「人的基盤の拡充」に関して、(弁護士に対する社会的需要は多くないと)する最近の異論は「裏付けのない『思い込み』に基づいた批評」であるから、実態調査が必要であるとして、次の3つのアンケートを行い、これを分析・解釈して一定の提言を行っている。

  全国の企業2000社(回答数320

  大阪弁護士会の弁護士1500人(回答数194

  全国の企業内弁護士259人(回答数68

 第一に、回答企業のうち顧問弁護士がいるのは約半数、弁護士を雇用している企業が2.2%となっている。企業の意識としては、企業外弁護士に対するニーズとしては「応訴対応」「紛争解決のための交渉」「訴訟提起」といった「対外的紛争解決業務」が上位であり、その後に「法令調査」「契約書作成」等「予防法務業務」が、さらに下位に「海外取引に関わる契約書の作成」「M&Aへの対応」「国内取引に関わる契約書の作成」「セクシャル・ハラスメントへの対応」等「予防法務的側面も含んだマネジメント業務」が来る。著者はこれらのマネジメント業務は「企業の間接部門において重要な位置を占め、今後の動向が大いに注目される」という。

 また、組織内弁護士に対する現時点のイメージとしても、「依然として従来型の弁護士に近い高度専門職としての姿であり、また求められる能力・資質についても、企業組織への深いコミットメントはあまり期待されてはいない」と総括している。

第二に、大阪弁護士会員からの回答に基づく分析としては、企業相手に行う業務の上位は「応訴対応」「契約書審査」「紛争解決のための交渉」「損害賠償訴訟提起」となっており、企業の業務ニーズと完全に一致している。

これに対して、第三の組織内弁護士からの回答によれば、業務の上位に来るのは「契約書の審査」「国内取引に関する契約書の作成」「法令調査」「コンプライアンス業務」であり、事後的紛争解決を主とする一般弁護士に比べ、予防・事前処理業務が上位に来ているという。ただ、組織内弁護士は組織外の弁護士に比べ、「役割満足」度が低く、これは「組織人」でなければならないこととの「役割的葛藤」が原因ではないかと分析している。

以上に基づく提言として、著者らは、「人的基盤の拡充」にあたっての課題として、訴訟・事後的紛争解決という従来型弁護士役割イメージのステレオタイプから、企業等の意識を解き放ち、組織人としての弁護士像を企業に普及させていく必要がある、もちろん弁護士自身の意識改革も必要と主張している。

論評は最小限に留めたい。

本論文は、弁護士に対する社会的需要は多くないとする異論を「実態調査のない『思い込み』」と非難しておきながら、自ら行った実態調査によって、その異論を実証してしまったという、極めて皮肉な内容である。かなりひいき目に言って、将来の弁護士ニーズに関する新たな役割の萌芽は見られるが、その芽は(著者自身認めるように)、現時点ではとても小さい。また、アンケート回答企業320社中、2.2%の企業(=7社)が組織内弁護士を雇用していると回答しているが、わが国の企業数は従業員数21人以上の企業だけでも66万社以上あり、その2.2%は14500人を超えることからすれば、現実の企業内弁護士数(500人くらい?)と比べた場合、このアンケートの回答企業はかなり偏っており、その分、著者らの指摘する「希望の芽」の実体は小さくなる。さらにいえば、このような実態調査が司法改革制度設計後10年目にして初めて行われたことは、司法制度改革設計自体が根拠のない「思い込み」によってなされたと、裏面から実証したことになる。

冒頭の大風呂敷とは全然違う実態が判明したにもかかわらず、何重もの仮定に基づく希望的提言で論文をまとめざるを得なかったのは、スポンサーである「法曹の新職域グランドデザイン構築」に配慮したものと思われる。しかし、法哲学とか法社会学とかの看板を背負う以上は、スポンサーの意向に追従するのはやめた方がよいと思う。

学者さんといえども、「組織人」であることを免れないということであろうか。

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