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2011年1月19日 (水)

法科大学院と「老人国家ニッポン」

 昨年67日の日本教育新聞は、「教職大学院を(教員養成制度の)中核に据えたい」という鈴木寛文部科学副大臣の発言を紹介した。同年1228日のNHKは、中教審部会が教員免許取得に教職大学院等での修士課程を義務づける方向で検討に入ったと報じた。要するに、教師になりたい人は、大学院を出ないとダメになるらしい。
 教育改革は専門外だが、「これって10年前の法科大学院導入経緯と同じじゃないか?」というのは、少なくとも「
こん日」の読者なら当然持つ感想だろう。

 従前の教員養成制度も問題山積だろうが、だからといって、教育期間を2年延長すれば解決するほど甘いはずがない。大学にとっては、2年分の学費を余計に稼げることに意味があろう。「酔うぞの遠めがね」氏は端的に、法科大学院も教職大学院も、「大学業界のための制度」と喝破している。

 教職大学院は、いわゆる専門職大学院の一つだ。法科大学院は、その嚆矢だった。石井美和氏は、「法科大学院が専門職大学院制度を牽引する役割を果たしてきた」と述べる。法科大学院に続いて、経営専門職大学院や技術経営専門職大学院等の専門職大学院が雨後のタケノコのように創設され、また、大学院重点化計画によって多数の修士取得者が誕生した。しかしポスドクの「高学歴ワーキングプア」問題等、様々な社会問題を生み、おそらくどれ一つとして、成功と評価されていない。
 失敗した制度なら大学院に行かず、社会人になればよい、と言えればよいが、そうもいかない。大学卒業生の就職内定率は就職氷河期といわれた2004年を下回った。社会に出ても職がない以上、専門職大学院に行くことは、親の金を当てにできる若者にとって魅力的な選択肢になりつつあるはずだ。
 こうして文部科学省は、何につけ教育期間の延長を提案し、国家はこれを実行してきた。政権政党が替わっても、この傾向は変わらない。なぜだろう。

 法科大学院問題は、法曹人口あるいは司法制度の問題だと思われている。しかし、こうして見ると、もっと大きな視点で捉える必要がある。大学業界や、文部科学省の利益に限った問題ではないような気がしてくる。

 「ちきりん」さん風に解説すると、こうなる。
 少子高齢社会の日本には、大量の老人を養う余裕がない。いずれ年金も払えなくなるから、働いてもらうしかない。しかし少子化と不況とグローバル化のあおりで国内労働市場は縮小の一途だから、老人に働いてもらう以上、割を食って職に就けないのは若者だ。だが、多数の(特に知識階級の)無職の若者を放り出すことは、社会不安や
国家転覆の原因になる。だから彼らを、大学院という名の象牙の塔に押し込めておこう。学費は、就業年齢が延びた親に負担してもらえばよい。何?大学院を出たけど仕事がないって?甘えるな。それはその専門職コースを選んだキミの責任だ。国家に文句を言われても困る。そんじゃーね。

 これが「老人国家ニッポン」の国家意思であり、この意思を受けて、大学院(大学)隆盛の時代がやってきたのだ。その先鞭をつけたのが法科大学院であるなら、法科大学院制度と戦うことは、「老人国家ニッポン」そのものと戦うことになる。

 こう考えてくると、例えば質の議論がすれ違う理由も分かってくる。大学院制度にとって質の維持向上は二の次で、重要なのは、教育期間を延ばすこと、そのものだからだ。

 それから念のため言っておくけど、この「国家意思」は支配者とか支配階級とか、まして個人の意思ではない。そんな階級闘争史観や陰謀史観を、私は取らない。

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コメント

>> 多数の(特に知識階級の)無職の若者を放り出すことは、社会不安や国家転覆の原因になる。だから彼らを、大学院という名の象牙の塔に押し込めておこう。学費は、就業年齢が延びた親に負担してもらえばよい。何?大学院を出たけど仕事がないって?甘えるな。それはその専門職コースを選んだキミの責任だ。国家に文句を言われても困る。そんじゃーね

と、あるのですが、「大学院まで行って職がない」という者が溢れるほうが、より一層社会不安や国家転覆の原因になると言えるのではないでしょうか。とりわけ彼らは「難関大学」出身者で、無名大学出身者よりは、就職氷河期であっても、学部新卒段階で就職活動をしていれば、良い結果が得られたものと思われます。であるからこそ、彼らの就職がままならなくなればなるほど、制度への怨恨、さらには「老人国家ニッポン」への反発が強くなるのではないでしょうか。
社会不安、国家転覆を防ぐために、大学院を拡充するという説明にはどうも違和感を覚えるのですが、先生はどうお考えでしょうか。

投稿: 鈴木 | 2011年1月21日 (金) 01時39分

>>少子化と不況とグローバル化のあおりで国内労働市場は縮小の一途だから、老人に働いてもらう以上、割を食って職に就けないのは若者だ。

職に就けない若者が多数出ることは社会不安につながる。一方、国内で新たな雇用の受け皿となる産業を育成することも困難。そこで、資格試験(司法試験、公認会計士試験等)のハードルを下げて、合格者を増やすことで、若者の雇用を増やそう。

『何?弁護士資格を得たけど仕事がないって?年収300万円もいかない?甘えるな。それは資格にあぐらをかいているキミの責任だ。国家に文句を言われても困る。そんじゃーね。』

これが「老人国家ニッポン」の国家意思であり、この意思を受けて、新司法試験合格者年間3000人の時代がやってくるのだ。

こう考えてくると、例えば「潜在的需要の存否」の議論がすれ違う理由も分かってくる。法曹人口増員派にとって需要の有無は二の次で、重要なのは、就労人数を増やすこと、そのものだからだ。


投稿: 鈴木 | 2011年1月21日 (金) 01時58分

鈴木様、コメントありがとうございます。ご疑問については、そもそもかなり適当ベースのエントリなのでたいした答えもできませんが、大学院大学制度が問題の根本解決にならないことや、先送りに過ぎないことは、たぶんみんな分かっていることです。ただ、「ないよりまし」という考えと、大学の利益が合致した結果じゃないでしょうか。

投稿: 小林正啓 | 2011年1月21日 (金) 07時29分

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