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2011年1月 7日 (金)

野田聖子議員の出産と高度生殖医療と法律

野田聖子衆議院議員が、他人の卵子により、ご自身のおなかで育んだ男児を出産された。お子様に幸多きことを祈りたい。

著名人が高度生殖医療により出産した事例として、野田議員はタレントの向井亜紀氏と比較されている。どちらも、夫(本稿では事実婚か法律婚かの問題は省略する)が遺伝的な父親であることは共通しているが、向井氏の事例では母親が遺伝的な母親であるのに対して、野田議員の事例ではそうではない。他方、向井氏の事例では、他人が分娩したのに対して、野田議員の事例ではご自身が分娩した。

ところで、医学的には、a)戸籍上の母親が分娩したか否か、b)戸籍上の母親の卵子に由来する子どもか否か、c)戸籍上の母親の夫の精子に由来する子どもか否か、の組み合わせで計8通りがあり得る。

 

戸籍上の母親が分娩したか

戸籍上の母親の卵子に由来する子どもか

戸籍上の母親の夫の精子に由来する子どもか

 

1

 

2

×

 

3

×

野田議員

4

×

×

 

5

×

向井氏

6

×

×

 

7

×

×

 

8

×

×

×

 

この組み合わせを法律的に見てみると、民法と戸籍法が想定しているのは、12784通りの場合だ。いいかえると、「遺伝上の母親」と「分娩した人」が一致していない場合は、想定していない。もう少し厳密に言うと、民法と戸籍法は、「分娩した人は遺伝的な母親だ」と考えていて、「分娩した人が遺伝的に母親でない」場合を想定していない。

では、戸籍実務上の取り扱いはどうなるか。

向井氏の場合には、法務省では、「分娩していない人の子は(たとえ遺伝上の実子であっても)戸籍上の実子とは認められない」という取り扱いとなった。向井氏は司法判断を求めたが、2007年(平成19年)の最高裁判決も、結論として法務省の判断を支持した。判決文は、先進生殖医療技術に対応した「立法による速やかな対応が強く望まれる」としながら、「どのような者の間に実親子関係の成立を認めるかは、その国における身分法秩序の根幹をなす基本原則ないし基本理念にかかわるものであり、実親子関係を定める基準は一義的に明確なものでなければならず、かつ、実親子関係の存否はその基準によって一律に決せられるべきものである」と述べ、現行法制度の下では、向井氏と子どもの間に実親子関係を認めることはできないと判断した。

これに対して、野田議員の場合は、「分娩した人の子は(たとえ遺伝上の実子でなくても)戸籍上の実子と認める」という取り扱いになろう。つまり、野田議員の出生届は、問題なく受理されると予想される。

出生届に関する向井氏と野田議員との取り扱いの違いをどう受け止めるかは、様々な考えがあろう。ただ、向井氏と野田議員のもう一つの違いは、向井氏は民間人であるのに対して、野田議員は立法府の構成員であることだ。しかも、野田議員は2006年(平成18年)12月、代理出産という向井氏の行動を支持し、「(向井氏に対して批判が起きる)理由は、誰が『母』か、法律に明記されていないからなんです。民法の不備です。…速やかに今の時代にあった法律をつくるべきです」と述べている。野田議員は当時から、超党派議員の勉強会を立ち上げていたが、4年後の現時点でも立法措置は執られていない。立法府には、上記最高裁判決に速やかに応える責任がある。

野田議員には、まずはゆっくり休養をしていただき、その後迅速に、実親子関係に関する身分法の検討に取り組んでいただきたいと思う。なにしろ技術的には、単性生殖(クローン)や、同性同士の子どもも視野に入ってきているのだから。

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コメント

             裸の王様
 マスコミと側近は彼女の快挙だけに光を当て、その裏の暴挙を語ろうとしない。たしかに高齢での出産と母性に対する情熱は特筆すべきことであろう。そしてそれは格好のPRとビジネスになる。
 しかし実際彼女のやったことは、議員の身で、若い精子と受精するため同棲を繰り返して、議員職務である養子縁組と代理母問題の国会議論を放棄して、勝手に単独で国内法の外で個人目的を果たした暗い面もある。(医師の勧めで白人卵2回移植、1回500万とのこと)そして無事1/6に無事出産されたがその間、"特殊治療"などでお子さんに対して無理が結果としてなされたかは問題とされない。そしてその特殊性を手記で出版したり、出産後もTVなどで引き続き伝えられている。
 これは確かに大衆の興味を満足させることではあるが、反面声なき子さんの将来のアイデンティティー・自己形成にマイナスにはならないかの疑問も起きる。お子さんはもうプライバシー権があって尊重されなければならない、との疑問も起きる。
 本人もメディアも快挙だけに光を当て、この問題を軽視しているきらいがある。法律顧問、担当医、家族など、どなたか暴走する女王様に服を着させて欲しいところである。

投稿: 憂国烈士 | 2011年3月 9日 (水) 10時50分

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