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2011年2月 2日 (水)

歴史をねじ曲げようとする人たち

 司法試験合格者数年3000人という増員が国レベルで決定されたきっかけは、1994年(平成6年)1221日の日弁連臨時総会でなされた、「司法試験合格者数を今後5年間年800人とする」という決議だ。この決議は、当時「1500人か、1000人か」という議論をしていた法曹養成制度等改革協議会からみれば、まるで問題外だった。日弁連は、「ギルド社会の既得権益擁護」という、世論の猛反発を呼び、法曹人口問題の決定権者たる地位を失うことになった。
 ところで、日弁連の未来を決定したこの決議は、執行部案でも、反執行部案でもない。総会の後半に会場から発議され、実質的議論が全く無いまま採決された「関連決議」である。とても不思議なことには、この日、執行部案・反執行部案を巡って真っ二つに割れていたにもかかわらず、この関連決議案は圧倒的多数で可決された。なぜこのような不思議なことになったかといえば、ある種の「陰謀」があったからだ。これが、「こん日」94頁以下に記した私の見解である。

 これに対して、例えば福岡弁護士会元会長の永尾廣久弁護士は、「陰謀論には与しない」という立場だ。

 陰謀はあったのか、無かったのか。この問題に関して、稲田寛日弁連事務総長(当時)が、回顧録『一見落着、再び』(中央大学出版部。以下稲田書という)を著した。

 ところが、稲田書の該当部分には、看過できない誤謬がある。それは、議事の順番だ。

 稲田書216頁には、総会当日、執行部案・反執行部案について採決があり、64で執行部案が可決された「その後、(中略)双方の立場を調整する案(注;上記関連決議案のこと)が辻誠元日弁連会長により発議され、圧倒的多数の賛成により可決された」とある。

 しかしこれは、議事録に反している。

 すなわち、議事録によれば、議事の実際の順番は、①関連決議案発議→②執行部・反執行部案採決→③関連決議案採決、である。これを稲田書は、②執行部・反執行部案採決→①関連決議案発議→③関連決議案採決、と入れ替えているのだ。
 些細と思うかもしれない。しかしこの違いは重要だ。なぜなら、議事録の場合、「陰謀」の成立する余地がある。これに対して稲田書の場合、この「陰謀」を否定することになるからだ。

 やや詳細に説明しよう。「こん日」で描いた「陰謀」のシナリオはこうだ。
 総会直前、辻弁護士側から土屋公献執行部に対して、「執行部側が関連決議案に賛成するなら、数百票が執行部案を支持する」との提案がなされ、執行部側がこれを了承する、という「密約」が交わされた。とはいえ、辻弁護士側からみれば、執行部側が関連決議案に賛成する保証がないのに、執行部案に投票することはできない。すなわち、関連決議案発議の前に、執行部・反執行部案の採決をしてもらっては困るのだ。だから、関連決議案を執行部・反執行部案より先に採決してもらうのが一番だが、関連決議案を本案より先に採決するわけにも行かない。そこで、執行部・反執行部案の採決より前に関連決議案を発議した上、関連決議案を支持するとの言質を、土屋公献会長から取り付けておく必要がある。

 果たして、議事録によれば、総会はこのシナリオ通り進行した。これに対して稲田書の順番なら、このシナリオは成立しない。いいかえれば、稲田書は、「こん日」の陰謀論を否定するために、議事録に記載された議事の順番を故意に入れ替えた疑いがある。

 永尾廣久弁護士は、稲田書を紹介して、「この本を読んでも、この総会で陰謀があったなどとはとても思えません。(中略)陰謀論は単なるタメにする議論にすぎず、根拠はない」と述べる。しかし、その前提となる稲田書が事実と異なるなら、永尾弁護士の主張も砂上の楼閣だ。

 なぜこの人たちは、こうしてまで、歴史をねじ曲げようとするのだろう。確実に言えることは、彼らには、歴史をねじ曲げてでも守りたい、何か大切なものがある、ということだ。

 ご参考までに、議事録に記録された議事の順番を、議事録該当ページととともに記しておく。

1.執行部案朗読(5
2.
反執行部案朗読(6
3.
質疑・意見(666
4.
関連決議案発議(66
5.
討論終局(82
6.
土屋会長の意見(82
7.
執行部案採決(83
8.
反執行部案採決(84
9.
関連決議案採決(89

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コメント

 丙案は平成8年の試験から導入されており、それ以前には「試行」などされていません。
 永尾氏自身も平成6年の総会には出席していなかったと訂正されているように、同氏は事実関係を確認調査せずに主張されるきらいがあるようです。

投稿: 大阪の弁護士 | 2011年2月 2日 (水) 12時14分

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