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2011年3月31日 (木)

原子炉事故用ロボットはベクレル羊の夢を見るのか?

「東日本大震災の発生後、人が入れない高濃度被曝(ひばく)エリアで放射線測定を行うロボットをはじめ、日本の最先端技術を駆使した『レスキューロボット』が現地に送り込まれた。しかし、現場の混乱や受け入れ態勢の不備などの要因で活躍の場が与えられず、いまだにスタンバイ状態が続いている」(319日産経新聞)

日本のレスキューロボットは、阪神大震災から16年経ったにもかかわらず、全く役に立たなかった。次世代ロボットに関わる者としては悔しいけれど、この事実は銘記しなければならない。地震から20日経つのに、国際レスキュースステム研究機構(IRS)のホームペーには何の記事もない。これもひどい話だ。

「受け入れ体制の不備」と記事は言うが、間違っている。災害現場は混乱しているのが常であり、受け入れ体制など存在しないことをロボット開発の前提とすべきだからだ。だから正確には、どんな現場でも活用できる運用体制の不備、いいかえれば、貧困な運用体制でも活用できる技術の不備が原因だと思う。つまり、レスキューロボットはシンプルでなければならない。スタッフ抜きで、ロボット本体とキットさえ送りつければ現地の初心者でも操作・修理できるものであることが理想だ。高度で繊細な技術は不要どころか、有害である。

阪神大震災から16年目にしてこの低レベルであることの大きな原因は、災害がそう頻繁に起きるものでない以上、実証実験の機会が限られる、ということだろう。本気でレスキューロボットを実用化するためには、災害発生後48時間以内に世界中にレスキューロボットを派遣する体制を常備する必要がある。外為法による輸出管理も、運用上の手当が必要だ。

「(フランスの)アレバ社は28日、原発事故用にフランスで開発された作業用ロボットの提供を申し出たところ、東京電力が断ったと明らかにした」(329日読売新聞)

東電が拒否した理由は分からない。単なる意地かもしれないし、そのロボットが役に立つ状況でないのかもしれないし、フランス人スタッフ用ワインが放射能に汚染されてしまったのかもしれない。

ただ、この世界有数の原子炉メーカーは、放射能で人間が作業できない環境を想定して、すなわち、原子炉格納容器が損壊する事態を想定してロボットを開発していたこと、そして、外国で作業させても恥をかかない(とフランス政府が判断する)程度にそのロボットを成熟させていたことは、日本人としてとても悔しいけれど、銘記しておかなければならない。だって我らが東電は、「そんな事故は起きるはずがない」という前提で、万一起きた場合の対策など、何も考えていなかったのだから。

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コメント

フィリップ・K・ディックを知らない方には分からないタイトル。
弁護士でディックを読む方はいるのでしょうか。

投稿: ALGERNON | 2011年4月 1日 (金) 11時23分

小林様、ご無沙汰しています。
「受け入れ体制の不備」というフレーズは本当によく耳にしますね。確かに事実ではありますが、主因はレスキュー隊員が自身の命を託せる資機材になっていないからで、機能面でまだまだ未成熟です。それ以前に、津波災害や原発災害を想定した仕様になっていないため、想定外だらけの現場に持ち込んでも動かないでしょう。

では、なぜ2002年から文科省で大きな国プロが立ち上げられたにもかかわらず、その後、レスキューロボットの開発が進展しなかったのかというと、要は災害救助用途では儲からないからで、最近の国の財政状況を考慮すると、この手の開発に予算が投資されるとは考えにくいです。なんせ、いまは生活支援ロボットが主題ですから(これが儲かるかが疑われる怪しい開発は多いですが)。

きわめて非日常的なシステムでありながら、日常的な技術のアップデートを支える開発企業が収益を上げるという、相矛盾するような産業構造を形成しなければ、震災から時間が経過すればまたレスキューロボの存在を忘れられるでしょうし、それを考えなければならないと考えます。そのカギは、IRSというLinuxのオープンソースコミュニティような組織を、どのように活用していくかにあると考えます。

詳細は、別の機会に解説できればと思いますが、少なくとも受け入れ体制の不備という表層的な問題や、政府や行政に問題の多くがあるといわんばかりの論調は世論をミスリードする危険があり、気を付けなければならないと考えます。

投稿: 今堀 | 2011年4月11日 (月) 18時47分

今堀様、コメントありがとうございます。
次世代ロボットのブレークスルーがまだかまだかといってもう何年も経ちましたが、何か根本的な問題があるような気がします。そのあたり、是非お話しする機会をいただきたいと思います。

投稿: 小林正啓 | 2011年4月11日 (月) 21時52分

今堀です。たびたび失礼いたします。
ロボットによる倒壊家屋の瓦礫探査について、ご教示願いたく再度、書き込みをいたします。RooBOの会員さんにも参考になる話題と考え、あえてブログ上に質問させていただきました。

先月、京都大学の松野先生が青森県と岩手県でレスキューロボットによる調査活動を展開されました。八戸工大では、松野先生が非常勤講師をされていることもあり、探査への許可が得られ、一部天井が倒壊した体育館の調査を実施できました。

一方、岩手県野田村での倒壊施設の調査では、現場の消防隊は利用したいとの声を上げたものの、村側から施設所有者の許可を得てほしいとの要請を受け、連絡がとれなかったために調査の実施を断念されました。

この場合、倒壊家屋といえども、また、消防隊員が使いたいと言ったとしても、正規の消防隊員ではない者が施設所有者の了解を得ないまま瓦礫内に立ち入ったり撮影したりすると、どのような罪に問われるのでしょうか。施設所有者に代わり行政側が許可を出すことも可能のように思われますが、この場合は大前提として、そのように条例を定めておくことが求められるのでしょうか。
倒壊家屋の撤去については、政府が3月25日に指針をまとめ、被災自治体に通達することで、所有者の許可を得なくても撤去可能となりましたが・・・。

勝手に瓦礫内を探索した歳に、どのような罪に問われるのかをご教示いただけると幸いです。

投稿: 今堀 | 2011年4月18日 (月) 14時57分

消防隊員や自衛隊員が災害現場において捜索・救助活動を行うとき、家屋に侵入する行為は、形式的には住居侵入罪に該当するものの、正当業務行為として違法性が阻却され、結論として適法と評価されるものと考えます。これら正当業務行為を行う者の指示命令に従って行為する民間人については、同様に考えて良いと思います。
これに対して、消防隊員や自衛隊員等の指示を受けず、民間人が勝手に捜索・救助活動を行うことは、緊急事態であったり、緊急避難が成立する場合でなければ、難しいかもしれません。現実問題としても、民間人による勝手な捜索を認めてしまうと、外形的には泥棒と区別がつかなくなってしまうことが危惧されます。

投稿: 小林正啓 | 2011年4月18日 (月) 22時48分

今堀です。
小林様、ご丁寧なご回答ありがとうございます。
本日より、国際レスキューシステム研究機構の研究者と現役消防隊員の方が、東北地方でボランティアで水中ロボによる行方不明者の探索をされています。

新潟中越地震を体験された研究者が在席しており、質問しました問題を踏まえると、何らかの要請を受けたうえで、ボランティアでないと活動できないと判断した結果、このような制約のある行動をとられています。

活動を終える週明けには、研究者をはじめとするスタッフの方と会いますので、小林先生のご見解を伝えたいと考えております。ありがとうございました。

投稿: 今堀 | 2011年4月19日 (火) 21時42分

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