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2011年3月 9日 (水)

ワタシはすでに死んでいる

 

 非難ごうごうとなっている日弁連の「法曹養成制度の改善に関する緊急提言(案)」を入手して読んでみた。この時期に提言を行うのは、海渡事務総長(伝聞)によれば、「法務省が設置し3月中にも開催される法曹養成制度検討フォーラムに臨む際に丸腰で出て行ったのでは相手にされない。内容も大方の賛同を得られるものにしてある。どうかご承認を」ということだそうだ。

読んでみて、起案者の悲しみが伝わってくる文章だと思った。

 提言は表向き、評判芳しくない法科大学院制度の防衛に主眼を置いている。だからごうごうの非難も、法科大学院制度に集中している。だが、法科大学院は、日弁連が総会決議で明確に支持し推進してきた制度だから、理事会決議しか経ない今回の提言が、総会決議の枠を出られないのは、会内民主主義のルール上当然だ。もし日弁連として法科大学院制度を否定するなら、総会で決議しないとダメである。

 しかし、この提言を起案者が本心から書いたかというと、そうは思われない。起案者は、とても悲しかったと思う。

 例えば提言は、法科大学院定員の大幅削減を主張している。その理由は、「定員削減は、密度の濃い、きめ細かな授業を可能にし、教育の質を維持・向上することに資する」からとある。ゆとり学級じゃあるまいし。それに、全国レベルの定員削減と、クラス人数の削減は別問題だ。「入学定員が縮小され、司法試験合格率が上がれば、多様で優秀な法曹志望者の入学を促進」するとの理由に至っては、何でそうなるのか、さっぱり分からない。

 法科大学院の定員数は2005年の5825名から、2011年の4571名にまで削減される見通しだ。しかし、提言が明記するとおり、2010年の入学者は4122人で、翌年の定員数を450名も下回っている。つまり実際の志願者減が定員削減の遙かに先を行っている。この全入状態で、「4000人からさらなる削減をした」ところで、多様性はともかく、優秀さがどうやって確保されるのだ?

 法科大学院制度は、少なくとも日弁連が想定した意味においては、すでに死んでいる。この提案の起案者は、そのことを、よく分かっている。分かっているが、立場上、そう書けない。だから、こんな馬鹿げた理由しか挙げないのだと思う。

 先日のNHKスペシャル「日本人はなぜ戦争へと向かったのか」は、対米開戦決断の経緯をこう総括していた。日本のトップリーダーは、東条英機など軍人を含め、誰もが、勝ち目がないと分かっていた。分かっていながら、立場上、言い出せなかった。「猫鈴」のあげく、会議は常に最大公約数的結論で問題の先送り。対米開戦の決断すら、石油が底をつくまでの間に解決の糸口が見つかるかもしれないという、問題の先送りに他ならなかった…。

 バブル崩壊後、リーダー不在のまま迷走する日本が第二の敗戦と言われて久しい。日弁連もまた、「大方の賛同が得られる」最大公約数的な文章を書きながら、何度目かの敗戦に向かおうとしている。

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コメント

http://www.houkeijyuku.com/admission/treatment/index.html

弁護士向けのこんな塾がありますが、どのように思われますか?

投稿: たけ | 2011年3月13日 (日) 10時52分

 誰もが「王様はハダカだ!」と思っていながら、口に出せない状況を「はだかの王様」と呼びます。
 しかし、王様も家来も、詐欺師の洋服屋が現れて「これは素晴らしい衣装ですよ。」と勧められていなければ、さすがに、はだかでパレードはしないはずです。
 この寓話では、詐欺師の洋服屋が極めて重要な役割を果たしています。
 イソップの洋服屋は故意犯ですが、日弁連に巣食う洋服屋はどうでしょうか。

投稿: なしゅ@東京 | 2011年3月17日 (木) 20時08分

書いた方は,きっと,ロースクール制度が死んでいることをおわかりになりながら,ロースクールを断固として守りたい勢力に配慮して,書いたのだと私も思いました。確かに弁護士会にはロースクールを断固として守りたい勢力がいるのは私もわかっていますが,かといって,ロースクール制度をやめるのはもはや弁護士の力だけでは無理だと私は考えています。先生はいかが思われますか?

投稿: 菅本 | 2011年3月31日 (木) 19時49分

「こん日」にも書いたとおり、かつて日弁連は法曹人口を決める権限を有していました(3分の1だけど)が、99年までに失いました。法曹養成制度を変革する権限も、今はありません。先輩方が触れない「不都合な真実」です。権限を失いつつ、「法曹一元」の見果てぬ夢を持ち地方の法科大学院を守ろうとする弁護士は、法科大学院と文科省に利用されるでしょうね。

投稿: 小林正啓 | 2011年3月31日 (木) 22時27分

ありがとうございます。私も「こん日」を読んで、弁護士が地方の法科大学院を守ろうとしてもしなくても、結局は弁護士会はロースクール制度をどうこうする権限を有していないのでもはやどうにもならないのではないかと思っているところです。とすれば、この緊急提言も、それほど意味のないもの、となってしまうのかもしれません。

投稿: 菅本 | 2011年4月 3日 (日) 10時27分

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