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2011年4月 8日 (金)

「虐殺器官」伊藤計劃(2007年 ハヤカワ文庫)

911後、世界中の危険人物を暗殺する特殊任務を遂行していた米軍大尉グラヴィス・シェパードは、途上国での内戦や大量虐殺の際必ず暗躍する謎の人物ジョン・ポールの暗殺を命じられた。バイオテクノロジーの発達により、少年兵を躊躇なく殺戮できる薬品を打ち、手足をもがれても痛みを感じず戦闘を継続する兵士と、人類が持つ自らを虐殺に駆り立てる脳内組織「虐殺器官」を発見した言語学者の間に、奇妙な友情が芽生える。2006年小松左京賞最終候補。「ベストSF2007」国内篇第1位。「ゼロ世代ベストSF1位。

2009年に34歳で夭折した作者は、全身に転移するガンと闘い、次々と臓器を失っていく自らの肉体を「逆どろろ状態」と嗤いながら、「死に意味はあるのか」「肉体は滅びても、残るものはあるのか」を問い続け、読者を釘付けにする。

昨年11月、倒れて数日の間、私は「臨死」にはほど遠いものの、死にかなり近いところにいた。このとき私にとって、死とは娘に再会できないことと完全に同義であり(妻には再会できていた)、それ以上の意味はなかった。私の意識は、記憶のアーカイブから娘の画像を勝手に拾い集め始めていたが、私自身は、「これが走馬燈ってやつかなあ」と思いながら、この画像収集作業を意識のごく一部に封じ込めることに、おおむね成功していた。この数日間、専ら考えていたのは、事件延期の段取りであり、キャンセルする講演主催者への詫び方であり、締め切りを10日後に控えた雑誌(エコノミスト臨時増刊『弁護士・会計士の憂鬱』)原稿の構想だった。つまるところ、私には死の意味を問う能力も余裕もなかったのであり、これはある意味でとても幸せなことだった。

 グロテスクな死体描写や殺戮描写が繰り返されるが、耐性のある人には一読に値すると思う。解説の引用する著者の母親の言葉が胸を打つ。彼女は、息子の魂が肉体を離れて存在することを、何の疑いも迷いもなく確信している。

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