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2011年4月22日 (金)

『iPhone』や3G対応の『iPad』は、過去10ヵ月にわたるユーザーの居場所を密かにすべて記録している。

 4月21日のWIREDVISIONは、標記のように報じた。この記録は、iOS内の暗号化されていないファイルとして保存されるため、ハッカーならリモートで進入してデータを盗めるという。

 記事は、「モバイル機器によって常に接続されている社会は、この種のプライバシー懸念が常に生じる社会でもある」とまとめている。

だが私は、「プライバシー」の問題と、「セキュリティ」の問題を分けて考えるべきだと思うし、本件はプライバシーの問題というより、まずセキュリティの問題だと思う。

 携帯電話使用者の位置情報は、いうまでもなくプライバシー情報であり、本人の承諾がない限り、他人が勝手に取得できない。しかし、携帯電話はその機能上当然に、最寄りの基地局を通じて位置情報を電話会社に通知しているのだから、携帯電話使用者の位置情報というプライバシー情報は、その承諾のもと、電話会社に取得されているといえる。また、これらの位置情報がログとして保存されることも、一定の合理性がある限り、同意の範囲内といえる。また、電話会社に送信されず、電話機本体内に保存されたログについては、使用者によるアクセスが可能である限り、まだ使用者側に存在する情報であるから、そもそもプライバシー侵害の問題が発生しない。だから、「密かに」という標記標題は、いささかミスリードだと思う。

 それでは、ハッカーがリモートで侵入してデータを盗める、という問題は何かというと、これはまずセキュリティの問題だ。すなわち、携帯電話会社は、使用者との契約に基づき、位置情報というプライバシー情報を取得できるけれども、この位置情報は、同じ契約上、第三者による不正取得から守られなければならない。いいかえると、携帯電話会社は、プライバシー情報のセキュリティを守る契約上の義務を負う。だから本件の場合、アップル社は、ハッカーによる位置情報の不正取得を阻止する手立てを講じなければならない。これを怠った場合には、アップル社は、自らはプライバシーを侵害していないが、セキュリティを守らなかった、ということになる。結局プライバシーが侵害されるのは一緒だが、態様が違う。

 逆に、「プライバシーは侵害するが、セキュリティは守った」という場合もある。例えば、やや漫画チックだが、ある秘密組織がプライバシー情報を不正に盗んだが、これを厳重に管理して第三者には渡さない、という場合だ。

 なんでこんなややこしいことにこだわるかというと、「プライバシー」と「セキュリティ」を分けないと、議論が混乱するからだ。「セキュリティを守れば、プライバシーが守られる」と誤解している研究者がいる。上記の例から明らかなとおり、セキュリティを守っても、プライバシーが守られるとは限らないのだ。

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