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2011年4月11日 (月)

主婦の休業損害?

 専業主婦が交通事故に遭って、1日入院して、完治するまで1ヶ月間通院した場合、休業損害を請求できるだろうか。これが典型的な「主婦の休業損害」の問題だ。

 いうまでもなく、専業主婦は給与所得者ではない。だから、休業損害など請求できるわけがない。こういう考え方も成り立つ。実際、昭和49年(1974年)までは、そういう裁判例も普通にあった。

 だが、専業主婦は、ちゃんと働いている。家事炊事育児に親の介護。夫より働いている専業主婦だって少なくなかろう。交通事故で、これらの家事がこなせなかった損害は、本人や家族に発生しているはずだ。専業主婦が給料をもらっていないからといって、休業損害は請求できない、と考えてよいものだろうか。

 というわけで、現在の裁判実務は、専業主婦にも休業損害の請求ができる、という取り扱いをしている。

 そうなると問題となるのは、じゃあ幾ら請求できるのか?ということだ。会社員なら、事故前の給与と事故後の後給与を比較すれば、休業損害を割り出すことができる。だが、専業主婦は給与をもらっていないので、計算できない。

 そこで、裁判実務では基本的に、「賃金センサス」という厚生労働省の統計資料を参考に、休業損害を算定している。この統計は、男女別、産業別、学歴別という詳細な分類になっているのだが、専業主婦の休業損害を計算するときは、産業や学歴を無視して、女性労働者の平均値を取る。ちなみに平成21年は年収3489000円だ。産業や学歴を無視するのは、専業主婦という労働の内容や巧拙が、産業や学歴によって左右されるものではない、という考えなのだろう。正直なところ、専業主婦に休業損害を認めるという裁判実務は、理論的な根拠というより、政策的配慮に基づくものなので、何を基準とすべきかといわれても、よく分からないのだ。

 賃金センサスを基準とするとして、次に、完治までの1ヶ月間に相当する休業損害は、どうやって計算するべきだろうか。一つの考え方は、賃金センサスの1ヶ月分を全額請求するというものだ。しかし、最初の一日は丸一日働けなかっただろうからよしとして、ほぼ完治した一ヶ月目も、その日一日に相当する分全額請求できるのだろうか。

 実は、この問題に関する裁判実務上の基準は特に存在しない。私自身は、次の考え方で計算している。すなわち、事故当日や入院中は、家事が一切できなかっただろうから、その日数に相当する休業損害を100%請求できる。これに対して退院後は、完治した1ヶ月後に向けて徐々に家事ができるようになったはずだから、休業損害もだんだん減らしていく。どのように減らすかといえば、原則として、入院中の100%から、完治した日の0%まで、直線的に休業損害分が減っていくと見なして、休業損害を計算するのだ。つまり、事故時100%、完治時0%という右下がり直線のグラフを描き、X軸Y軸で囲まれる直角三角形の面積を求めることによって、専業主婦の休業損害を算出する。

 この計算方法を冒頭の例に適用すると、3,489,000(円)÷12÷2145,375円が、専業主婦が事故後1ヶ月で完治するまでの休業損害となる。医学的には、直線的に怪我が良くなっていくことなどあり得ないのだろうが、法律実務的には、そこまで斟酌できない。

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