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2011年5月13日 (金)

竹中平蔵氏の数学のセンスとリスク管理

 菅首相によると、今後30年間に浜岡原発周辺でM8以上の地震が起きる確率は87%なのだそうだ。では、今後1年間にM8以上の地震が起きる確率は何%か。

 そう思ってFACEBOOK上で議論していたら、竹中平蔵氏がTWITTERに「あえて単純計算すると、この1年で起こる確率は2.9」と書いた。

 これはかなり恥ずかしい間違いだろう。竹中氏は87%÷30という計算をしているが、「あえて単純計算をした」と弁解できるレベルの間違いではない。こんな計算をしては一橋大学どころか、県立高校にも入れない。日本を代表する高名な経済学者がこの程度の数学センスというのは、ちょっとがっかりである。弁護士は数学を知らなくてもつとまるが、経済学者は数学ができないとマズイんじゃないのだろうか。

 同様の感想を持った方はネット上多かったと見えて、例えば多田光弘氏は「(1-P)^30=13となるPの値を求めるのが正解」(”^”の記号は累乗)と言っている。これは、例えば、「いびつなサイコロを30回振って、一度でも1の目が出る確率が87 %の場合、1回振った時に1の目が出る確率Pは何%か」という問題の解き方だ。この問題の場合、30回振って一度も1の目がでない確率が13%だから、1回振って1の目がでない確率P30乗が13%になる、と考える。このやり方で解くと、1年にM8以上の地震が起きる確率は、約6.6%になる。

 一見正解のようだが、考えてみると、これも間違いではないか。11回の目の出方が独立していて、前後に影響を与えないサイコロモデルと、地震のモデルは、何かが根本的に違うような気がする。

FACEBOOKで議論につきあってくれた、ある優秀な弁護士は、「1年目に地震が起きて2年目~30年目に地震が起きない確率」「2年目に地震が起きて3年目~30年目に地震が起きない確率」…「30年目に初めて地震が起きる確率」を全て計算して総和が90%である場合、1年目に地震が起きる確率は約7.1%と主張している。こうなると私の頭では追いつけないが、やはり、なんとなく違う気がする。地殻にたまったエネルギーが放出されるという地震の性質上、一度地震が起きたらこの計算は当面(ほぼ100年間は)おしまいになるので、「地震が起きた後の確率」を計算に入れ込む必要は無いと思う。

 長さ30メートルの丸太の一本橋がある。この橋のどこかが1箇所だけ腐っており、上を通ると崩れ落ちる確率が87%とする。では、この橋の端から1メートル渡ったとき、橋が崩れる確率は何%か。地震モデルに近いのは、この「丸太橋モデル」ではないだろうか。で、どう計算するんだ?と聞かれても分からないが。

 リスク管理の問題として考えてみたらどうだろう。この丸太橋の下には、ネットが張ってあって、「安全対策は万全です」との看板がある。だが、同じ看板が立ててあった隣の橋のネットは弱すぎて破れ、谷底に落ちた人が大けがしてしまった。このときあなたは、87%で崩れる30メートルの橋の、最初の1メートルを渡るだろうか。

 竹中平蔵氏はきっと渡るのだろう。私は渡らない。どちらが愚かな人間だろうか。

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コメント

件の優秀な弁護士から早速指摘があり、「上記計算式は一度地震が起きたら後は起こらないことを前提としたものだ」とのことでした。お詫びして追記します。でも、私の理解が追いつかないという点では同じですが。

投稿: 小林正啓 | 2011年5月13日 (金) 17時10分

数学的には面白いのでしょう。しかし、あえて言わずもがなのことを言うと、どのくらいのリスクか把握して意思決定の参考にするという大目的からすれば、2.9も6.6も7.1もたいして変わらないのではとおもいます。

もちろん、計算について熱心に議論する人たちもそんなことはわかってるんでしょうけど、どうしても、計算に熱中することそのものをバカバカしくおもってしまいます。

投稿: 普通の国民 | 2011年5月13日 (金) 22時40分

普通の国民さん、コメントありがとうございます。
まあ確かにオタクの議論に見えなくもありませんが、少なくとも当事者は、このような一見些末な議論を通じて、「30年87%」の信頼性を検証しているわけなので、ご理解いただければと思います(竹中氏はどういう意図か知りませんが)。また、確かに3%でも7%でも一緒じゃん、というご意見もあるでしょうが、地震が起きるまでは毎年87%、という考え方もあることを付言しておきます。

投稿: 小林正啓 | 2011年5月14日 (土) 00時35分

私も付言しますが、私ももちろん、丸太橋をわたりません。

いったんおこったら損害がものすごく大きいことが予測されるとき、それが今年おこる確率が3%でも7%でも87%でも、損害の期待値はやはりものすごく大きいので少なくとも私にとっては同じようなものに感じます。0.000000001%くらいだったら、渡るかどうかちょっと迷います。

なお、「30年87%」の信頼性は、その計算の根拠を地震学者に丁寧に説明してもらわないと、わからないんじゃないかとおもいます。

投稿: 普通の国民 | 2011年5月14日 (土) 01時09分

普通の国民さんは、3%でも橋を渡らないのですね。竹中氏は、3%なら渡るという文脈なので、この感覚は人によって分かれるのだと思います。話は違いますが、スペースシャトルは130回の打ち上げのうち2回墜落している(乗員が死亡する確率1.5%)のですが、それでも私はスペースシャトルに乗りたいと思います。しかし、同じ確率で飛行機が墜落するなら、飛行機には乗りたくありません。つまり、リスクとデメリットのほかに、メリット(向こう岸に渡る、宇宙に行ける、莫大な電力が手に入る)も考慮しなければならない、ということなのでしょうね。

投稿: 小林正啓 | 2011年5月14日 (土) 13時16分

メリットはもちろん大事です。

うまく丁寧に言えないのですが、メリットを追求する際に、「おこりうる事故まで含めてコントロール可能か」が大事な気がしています。それは科学技術的にだけじゃなく、法的、経済的、医学的、心理的、そのほか色々な点で。
スペースシャトル事故は歴史のヒトコマですが、福島原発事故は日本人にコントロールできない歴史そのものになろうとしている気がします。いずれなんらかの形に落ち着くことは落ち着くでしょうが、どう落ち着くのか・・・

投稿: 普通の国民 | 2011年5月16日 (月) 17時10分

 根本的なところで、30年で87%という答えをだした計算方法がわからないと、今後1年間で何%かなんてわからないんじゃないかと思いますが。

投稿: 大阪の弁護士 | 2011年5月16日 (月) 18時51分

こういうページをみつけたので、(ご存知かもしれないとおもいましたが)リンクをはっておきます。
http://d.hatena.ne.jp/oxon/20110512/1305187792

投稿: 普通の国民 | 2011年5月21日 (土) 04時39分

ありがとうございます。地震発生確率とポアソン分布やBPT分布についてはこういうURLもありますね。
http://d.hatena.ne.jp/Okaz/20110512/1305203794
http://stredu.gifu-nct.ac.jp/pukiwiki/index.php?%E5%9C%B0%E9%9C%87%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%82%AF%E8%A7%A3%E6%9E%90%E3%81%AE%E5%9F%BA%E7%A4%8E

投稿: 小林正啓 | 2011年5月22日 (日) 08時17分

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