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2011年5月13日 (金)

原発ロボットに必要なもの

 512日の毎日新聞朝刊『木語(もくご)』は、「(原発の)運転再開が前提なら原子炉事故のためのロボット舞台を電力会社も、消防も、自衛隊も整備すべきだ。(日本は)原発ロボット大国を目指すべきだ」とする金子秀敏専門編集委員の論説『原発ロボットなかった』を掲載した。

 底の浅い見解だと思う。

 「原発事故は起きないから事故発生後のロボットは必要ない」という安全神話が原発ロボット開発を妨げたことは事実だ。だがその信者は滅亡した(現時点では)。今更大新聞に指摘されるほどのことではない。

 問題は、安全神話が滅びれば、そして適切な開発予算が確保されれば、お説のごとく日本はロボット大国になれるのか、という点だろう。その答えはもちろん否、である。

ロボットは防波堤ではないのだ。作っただけでは足りない。常に使い続けなければ、ほどなく無用の長物と化す。だから、常時訓練は当然として、実践の場がどうしても必要だ。だが、ロボットが必須となるほどの事故災害など、そう頻繁に起きるものではない。つまり、実践の場を世界に求めなければならない。米国やフランスは実際そうしている。そのためには、事故災害発生から数日以内に、現場でロボットを稼働できる体勢を整えておかなければならない。最低でもC-130クラスの輸送機が1機、航続距離の長いヘリコプターが1機と人員が必要だし、部品の故障に備えたバックアップ体制も、もちろん必要だ。こういう兵站(ロジスティックス)の整備は、日本人が最も不得意とするところだが。

 その費用は、おそらくロボットの開発費用を上回るだろう。法制度の整備も必要だ。例えば持ち帰り予定の海外持ち出しでさえ、現行制度下では「輸出」にあたり、外為法に基づく経産省の許可を要するが、災害用ロボットがそんな悠長な事前申請をやっているわけにはいかないから、この手続を省略する制度的手当が必要になる。そこまでやって、初めて、米国やフランスのロボットに10年遅れたスタート地点に立つことができる。

 原発ロボット大国を目指すというのは、こういうことだ。そのためにどうしたらよいのか。大新聞が提言すべきなのは、この点だろう。

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コメント

今堀です。またお邪魔します。
「安全神話」にすべての問題あるといわんばかりの主張は、驚くほど多いですね。うちの新聞にもつい先日掲載されていて、かなりがっかりしました。また、ロボット研究者のコメントもそれにすべての問題があるかのような都合の良いコメントが使われていて、読んでいて余計に悲しくなりました。

小林様の論点からはずれますが、
1999年のJCO事故の際に、既存のロボットを改造して事故対策に当たろうとされましたが、稼働実績がないものは使えないとの判断から改造されることはありませんでした。また、当時のクリントン米国大統領からは、米国のロボットを提供しようかという提案を受けていたとのことで、現在の状況はほとんどデジャブーです(原発災害のレベルが当時はレベル3だったので使わずに済んだという以外は)。

その翌年、JCO事故を受け、経産省内で「原子力防災支援システム」開発プロジェクトが立ち上がり、単年度で遠隔操作ロボットが開発されました。各紙が幻のロボットとして取り上げているものです。維持費にかかる予算取りがなされていないとの理由から、その後お蔵入りとなりました。

なんだか似たようなことをずっと繰り返しているわけですが、ここで気になるのは、開発にかかわったロボット研究者たちは、予算があるから作っただけなのか?です。
そのシステムの必要性を強く認識したからこそ開発に取り組んだはずであり、彼らなりの信念(問題意識など)や、それを支えとするパッションを込めて開発に臨んだはずです。これらが当時まったく感じられませんでした。

今回の事故は、電力供給者の責務として東京電力に問題の多くがあるのは事実でしょうが、東電側による安全神話にすべての問題があるかのような言葉を発しているロボット研究者からは信念もパッションも感じられませんし、工学者としても専門家しても正しい姿に思われません。

ロボット研究者に限らず、やはり専門家は一般の国民に比し、様々な情報や知見を備えており、ゆえに「大切なこと」を、自身の信念とパッションをもって伝える義務を負っているはずです。ぜひ、同じことを繰り返さないよう、マスコミなどと協力しつつ、大切なことを伝える努力をしてもらわなければならないと考えます。

もちろん、私も頑張らないといけませんが。

投稿: 今堀 | 2011年5月13日 (金) 12時20分

今掘様
ご指摘のとおりだと思います。学者はファンドを取るのが目的、省庁は予算を消化して来年も獲得するのが目的、では、いつまでも同じことの繰り返しでしょうね。

投稿: 小林正啓 | 2011年5月13日 (金) 17時20分

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