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2011年7月29日 (金)

改正民法は国際準拠法になるのか

729日の日本経済新聞に、太田穰弁護士が民法改正に向けた論考を掲載した。民法改正は、国際取引においてわが国がイニシアティブを取るため不可欠だと、具体例を挙げて主張される。一般論としては「ふむふむ」と納得したのだが、「具体例」なるものに引っかかってしまった。

その具体例とは、「日本企業がフィリピン企業に日本製品を輸出した際、『第三国法に準拠した契約が公平』と言われてカリフォルニア州法を準拠法にした契約を締結したところ、後に、製品欠陥があるとして6000万円もの損害賠償請求を受けた。日本企業が契約書の免責条項を主張したら、『カリフォルニア州の判例上無効』と反論され、調べてみたらその通り。日本企業は500万円近い法律調査費用を支払った上に賠償に応じざるを得なくなった」というものである。

お気の毒な話だが、問題は、ご主張の民法改正によってこの悲劇が回避できるのか、具体例に則して言えば、民法が改正されていれば、カリフォルニア州法ではなく日本法に準拠できたのかという点だと思う。

いうまでもなく、国際契約の準拠法は第一に、当事者の力関係によって決まる。上記具体例では、おそらくフィリピン企業の力が強かったと思われるから、民法改正の有無を問わず、日本法が準拠法とされることはなかっただろう。第二に、仮に当事者の力関係が均衡していたり、三国以上間の契約である場合には、公平かつ一般的(=グローバルな)準拠法が選定される。日本民法をこのレベルに高めるとの志は買いたい。だが、その志は現実的だろうか。

先の具体例に戻ろう。フィリピン企業がカリフォルニア州法を準拠法としたのは、免責条項が無効と知っていたからと思われる。もし、この点に関して、カリフォルニア州法が日本の現行民法よりグローバルスタンダードであるならば、改正民法は、瑕疵担保(PL)責任における免責条項特約を無効と定めなければならない。だが、そんな改正が、産業界の反対を押し切ってなし得るのだろうか。

改正民法のグローバルスタンダード化を阻む最大の障害は、わが国の司法制度だろう。ある国の法律が国際的な信用を獲得するには、その国の司法制度が国際的な信用を獲得しなければならない。上記の例に則して言えば、PL訴訟が年間10件起きている国(日本)と、その1万倍起きている国(米国)とがあるときに、製品輸入をする国が、どちらの国の司法制度を信用するかは明白だ。日本法に準拠したのでは、司法救済を期待できないからだ。その意味で、日本の司法制度は、国際的な信用を獲得できないと思う。

明治政府が「円」のローマ字表記を“EN”ではなく“YEN”としたのは、発音しやすくして、円の国際流通を意図したからと言われている。当時最先端のドイツ法を輸入したのも、欧米列強に対抗する意図に並び、アジアの国際取引でイニシアティブを取りたいという志があったからだろう。私は「司馬史観」は嫌いなのだが、明治のエリートの志の高さは認めなければならない。現代のわが国のエリートが、同じ志を持つなら、太田弁護士の望みは成就するだろうが、はたしてどうか。

それにしても、「カリフォルニアではPL免責条項は無効」程度の法律調査で「500万円近い法律調査費用」を稼いだカリフォルニア(たぶん)の法律事務所は、オイシイ商売をしているなあ、と思う。確かに、日本法が国際準拠法になれば、日本の渉外事務所は、外国からの調査依頼で、がっぽり儲けることができるだろう。

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コメント

あ、そこ、私も引っかかりました。太田先生の論旨にはかなり賛同できるのですが。

投稿: 大杉謙一 | 2011年7月29日 (金) 16時24分

私も、小林先生と同感です。おかしな点を仰ると思い、ブログに書こうと思っていましたが、先生がより論理的かつ分かりやすく書いて下さったので助かりました。それにしても、カリフォルニア州法を準拠法としながら、それくらいのリスク調査もしていないのであれば、弁護過誤かもしれませんね。
なにより、たったそれだけの法律調査で500万円もふんだくれるんだから、アメリカの法律事務所はぼったくりですね。日本の町弁さんの事務所なら、せいぜい10万円くらいじゃないでしょうか(笑)。

投稿: 坂野真一 | 2011年8月 1日 (月) 18時24分

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