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2011年7月 8日 (金)

『日本国憲法制定の過程』有斐閣

「司法にハンディキャップをつけた人たち」の連載を始めた後、標記書籍の存在を知った。著者は高柳賢三、大友一郎、田中英夫の3氏。以下は、司法に関する該当箇所の要約であり、太字の部分は原文そのままである。

1.  はじめに

憲法の司法の章を起案した中心人物は民政局の軍服を着たロイヤーのラウエルと見受けられる。この章は、国民の基本的人権の保障を確実ならしめるため、司法権を拡大、強化し、確固、独立の司法部を樹立することをめざし、このことに最も意を用いて起草されているといってよい。それは、GHQ内部においても、司法権が余りに強く、独立的に過ぎ、政府の他のすべての部門を支配する司法的寡頭制をもたらすものではないか、と問題にされたほどであったが、これに対して起草者からは、司法はこれまでの日本では無力な存在であったのにかんがみ、その権限を意識的に高めているという説明がなされた。

2.  司法権、裁判所

草案が日本政府に示された後、冒頭の「「強力で独立の司法部は国民の権利の防塁であるから」という文言が削られたが、この文言は、「司法」についての起草者の基本的な考えを表わすものとして記憶にとどめられるべきものである。

3.  特別裁判所の禁止、行政機関の終審的裁判の禁止

GHQの第一次試案は、特別裁判所とともに、行政裁判所は禁止すると規定していた。これが司法的寡頭制をもたらすと批判されたため、第二次試案では、行政裁判所の設置を認めつつ、終審を禁止した。

GHQの想定する行政裁判所とは、明治憲法におけるような一個のものではなく、事件の類型に応じて設けるものを考えているのであり、また特別裁判所としては、特定の事件について設けられるような、まさに通常でないものを考えているとものとみられる。

4.  裁判官の独立

この部分については、GHQ第一次試案、第二次試案とも特に議論なく日本側でも特に修正は加えられなかった。

5.  最高裁判所の規則制定権

最高裁判所の規則制定権は、第一次試案から規定されており、司法的寡頭制をもたらすと内部からも批判されたところだが、維持された。起草者は、最高裁判所規則は行政府からの独立を確保するためのものであり、立法より優位であるとまでは考えていなかったようであるが、詰めて議論された形跡は見られない。

最高裁判所の規則制定権に関する草案は、日本政府に提示されてから、「弁護士の資格賦与」に関する事項とあったのが、「弁護士」に関する事項という広い表現の文言となった。日本側では、「資格賦与(admission)」という言葉をどのように表すかが困難であったことから、「ソノ他司法事務処理ニ必要ナ」事項の中に含ませるものとしたのであったが、それが斥けられて、このような包括的な表現の規定となった

また、「検察官は、裁判所の成員(officer of the court)であり」という文言が、日本側によって、「裁判所の職員」と受け取られたことから、削除され、「(検察官は)最高裁判所の定める規則に従わなければならない」とだけ規定されることになった。

6.  裁判官の身分保障

GHQの第一次試案では、裁判官の弾劾についての規定がなく、それが司法的寡頭制をもたらすと批判されたことから、第二次試案では、国会の弾劾による罷免が規定された。なお、日本政府側は、裁判所による罷免を提案したが、総司令部は拒否し、懲戒事由にあたる罷免は、すべて国会の弾劾に待つべきであるとされた

7.  裁判官の選任方法

裁判官は任命によるものとすべきか選挙によるものとすべきか、またその場合の分限(任期)をどのように定めるべきかが、起草にあたって大きな問題とされた。第一次試案では任命制・終身官と規定されたが、司法的寡頭制ができると批判され、これに対して、裁判官が一定の任期をもって選挙されるのでは、威厳もなく独立性のないものになろうという反論がなされ、妥協の産物として、下級裁判所裁判官は任命制・10年任期となり、最高裁判所裁判官は任命制、10年ごとの国民審査が定められた。

なお、ラウレルの初見として、会談したほとんどすべての日本の法律家は、司法に関する悪弊の多くは、下級裁判所の裁判官が選挙色であれば除去されると考えている。アメリカに見られる選挙による裁判官が望ましいかどうかについては、意見の一致を見ていない、と記している。

8.  違憲立法審査権

最高裁判所にどの程度において違憲立法審査権を与えることとすべきか検討されたが、裁判所が、具体的な争訟を待たずに立法を違憲であるとして拒否する権限を持つとするのではなく具体的事件において憲法の解釈問題が生じたときには立法に対し完全な審査権を有するとすることは、さしつかえないとの結論に至った。

GHQ草案における違憲審査権は、国会が権利章典の規定に関する判決以外の一切の判決を再審査する権限を与えるものであった。これは、米国憲法のあり方とも異なるものであったが、当時、ニュー・ディール立法に対し最高裁判所が保守的態度を取ったため混乱が生じた経緯に鑑み、考え出された規定である。

ところが、この案を示された日本政府が、「三権分立の主義を貫くならば、最高裁判所で決定されたものをその後で国会の審査に付すというのはおかしい。最終的にはすべて最高裁判所で審査されるということで徹底すべきではないか」と意見を述べたところ、あっさりと、日本側の意見のようにしようということになった

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