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2011年7月 7日 (木)

司法にハンディキャップをつけた人たち(7)

憲法は、法律を解釈し適用する最終的な権限を、裁判所に独占させた。これが「司法権の独立」である。司法の独立は、裁判所の権限を強めるものであるが、憲法は、どの程度強く、司法の独立を保障したのだろう。

あまり知られていないことだが、現行憲法の立法、行政、司法の章を、明治憲法のそれと比べてみると、とても単純だが、すごく興味深いことが分かる。立法と行政の章は、ガラガラポンして一から作り直してあるが、それと比べると、司法の章は、あまり改訂されていないのだ。その詳細は省略するが、立法府に関する現行憲法規定は、明治憲法と似ても似つかぬものになっており、行政府に関する規定は、数こそ大幅に増えたものの(明治憲法下で天皇の権限だったものが引っ越してきたため)、規定の大半は、内閣を監督し、権限を抑制する内容だ。これに対して司法に関する規定は、明治憲法下の規定がほぼそのまま残っており、これにいくつかの条文が付け足され、権限が大幅に強化されている。司法の章に限っていうならば、現行憲法は、明治憲法を承継し発展させているのだ。

もうひとつ、これもあまり知られていないことだが、いわゆるマッカーサー草案と比べ、大変興味深いことがある。現行憲法上新設された司法の権限として「違憲立法審査権」があるが、マッカーサー草案上は、最高裁判所が憲法違反の判決を出した場合、その全部についてではないが、立法府が三分の二以上の多数で議決すれば、違憲判決を覆せる、という規定(73条)があった。もちろん現憲法にはそのような規定はない。つまり、現行憲法上の司法の権限は、マッカーサー草案より、さらに強化されているのである(下記ご参照)。

現行憲法の制定者が、エコひいきに思えるほど、明治憲法下の司法制度を温存しその権限を強化した理由は、普通に考えて、二つだと思う。

一つ目は、明治憲法下の裁判所が、それなりにちゃんと仕事をしており、そして、軍国主義化や自由の弾圧や、他国侵略・開戦等について、積極的な役割を果たさなかった、と評価されたことである。

二つ目は、一つ目の裏返しだが、明治憲法下の裁判所が、国政においてとても地味で内気であり、立法や行政に対するチェック機能をほとんど果たさなかった、と評価されたことである。

この二つの評価のもと、憲法制定者は、司法をあからさまにエコひいきすることに決めたと考えられる。特別裁判所の禁止と行政終審裁判所を禁止し(762項)、違憲立法審査権を付与し(81条)、裁判官の独立を明記し(761項、3項)、裁判所と裁判官の独立を制度上確保するため、最高裁判所の規則制定権(77条)、裁判官の身分保障(796項、78条、8012項)を定めた。身分保障の強さといったら、国会議員より強いくらいである。

                           記

(マッカーサー草案)

第七十三条

最高法院ハ最終裁判所ナリ法律、命令、規則又ハ官憲ノ行為ノ憲法上合法ナリヤ否ヤノ決定カ問題ト為リタルトキハ憲法第三章ニ基ク又ハ関連スル有ラユル場合ニ於テハ最高法院ノ判決ヲ以テ最終トス法律、命令、規則又ハ官憲ノ行為ノ憲法上合法ナリヤ否ヤノ決定カ問題ト為リタル其ノ他有ラユル場合ニ於テハ国会ハ最高法院ノ判決ヲ再審スルコトヲ得

再審ニ附スルコトヲ得ル最高法院ノ判決ハ国会議員全員ノ三分ノ二ノ賛成ヲ以テノミ之ヲ破棄スルコトヲ得国会ハ最高法院ノ判決ノ再審ニ関スル手続規則ヲ制定スヘシ

日本国憲法

第八十一条  最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。

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