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2011年8月16日 (火)

「自由と正義」のヘンテコ特集について

お盆はブログを休むつもりだったが、8月号の「自由と正義」の特集「司法制度改革をめぐる今日的課題」が余りにヘンテコなので、書くことにした。

特集は、「日弁連が行った司法改革提言と今日の課題」(河津博史弁護士)、「ロマンとしての法曹一元論」(飯考行弘前大学人文学部准教授)、「裁判員制度と刑事司法改革課題の現状」(宮村啓太弁護士)、「民事法律扶助と司法アクセス」(打越さく良弁護士)という4本の記事からなる。

全体として、1999年(平成11年)に日弁連が公表した司法制度改革の基本方針である「司法改革ビジョン」と「司法改革実現に向けての基本的提言」に基づき、これらの到達点を考察するものであり、大ざっぱにまとめれば、「理念礼賛、成果賞賛、課題もあるよ」という、ある意味、当たり障りのない内容だ。

しかし、これは相当ヘンテコな企画である。

なぜなら第一に、1999年から11年目とは区切りが悪すぎる。10年目や15年目なら分かるが、なぜ11年目なのか。

第二に、執筆した弁護士が全員、第二東京弁護士会員だ。日弁連が公表した見解に関する特集なのに、なぜ、執筆者が一つの弁護士会に偏っているのだ。

第三に、執筆者が若い。最も古株の河津弁護士さえ1999年(平成11年)登録であり、他の二名は上記ビジョン以降の弁護士登録だ。当時を知る者は多いのに、なぜ、若手だけが、理念礼賛の提灯記事を書くのか。

第三に、執筆弁護士が全員二弁なのに、大宮法科大学院大学への言及が全く無い。また、司法修習制度や給費制をめぐる問題については、ひと言も触れていない。

第四に、なぜいま法曹一元なのか。飯准教授は、法曹一元論の歴史を概観した上で、1990年代に日弁連が唱えた法曹一元論には現実性が乏しく、2000年(平成12年)の司法制度改革においても挫折したが、その理念の高尚さを高く評価し、「裁判員制度、日本司法支援センター、法曹人口増員や裁判迅速化などの実現に寄与し」、その原動力になった点で「壮大なロマンとしての意義」があったと結んでいる。ちなみに、飯准教授は、2000年(平成12年)の日弁連司法改革実現本部室嘱託を努めた。

ここで1999年(平成11年)を簡単に復習しておこう。それ以前、弁護士人口増員の「抵抗勢力」であった日弁連は、既得権擁護の業界エゴと世論の総スカンを食い、組織存亡の危機に瀕していた。ところが、1997年末、矢口洪一もと最高裁判所長官が法曹一元論を提唱するとこれに飛びつき、手のひらを返したように、法曹人口の飛躍的増加等、大胆な改革を主張し始める。1999年は、その姿勢を内外に宣言した年だった。そして、いわゆる司法改革路線の最右翼として最も過激だったのが二弁である。

1999年(平成11年)1021日(12日の間違いとの指摘もある)、第二東京弁護士会は、法科大学院制度の導入と司法研修所の廃止等を特徴とする「法科大学院(ロースクール)問題に関する提言」を行った。この意見書は会長名で発表されているが、その内容から推して、法曹養成二弁センター(委員長飯田隆、副委員長遠藤直哉各弁護士)が中心になって作成したものと思われる。

この意見書に対しては、その直後、当時の司法研修所民事弁護教官、刑事弁護教官全員が連名で意見書ないし申入書を発表した。特に民事弁護教官による意見書は、「『二弁提言』における司法研修所廃止論とその論拠は、…余りに独善的で偏狭な議論である」という激烈な批判であった。これに対しては山岸良太第二東京弁護士会副会長(当時)から、「法曹一元を真に目指す方向性…からも、弁護士側からの決意表明として、司法研修所廃止を提言せざるを得ない」とする再反論がなされた。

二弁は、この提言を撤回していないはずだ。

ネタばらしには遅すぎるだろうが、二弁は来年の日弁連会長選挙に向けて、候補者擁立を企図している。今回の特集は、選挙目的の持込企画と見て間違いない。持ち込んだのは、執筆した若手でなく、もっとエライ先輩弁護士である。10年目程度の弁護士は、忙しくて「自由と正義」の記事など書きたくないし、自分で持ち込んだ企画なら、もっとトンがった文章を書く。もちろん、二弁も一枚岩ではないから予断を許さないが、今回の特集が二弁候補の基本的スタンスになる可能性は高いと思われる。

かつて、ある国々は、一人の思想家が構想した理想国家建設に邁進し、飢えた国民には、理想は正しいがその過程にはひずみもある、と説明して不満を抑圧し、結局破綻して、指導者は投獄され、あるいは銃殺された。二弁の偉い先生方は、ブル弁が多いようだから、この国々のことを、余りご存じないかもしれない。

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コメント

私も、法曹一元について「壮大なロマンとしての意義」と嘯く飯論文を読んで
小林先生の『こん日』=「なぜ日弁連は敗北したのか」
を連想しました(勿論逆説的にですが)。

この期に及んで「壮大なロマン」とは笑えます。
大宮ローの挫折にも一切触れてませんし・・・
まるで「黒歴史」扱いですね

投稿: 私もブル弁になりたい・・・ | 2011年8月17日 (水) 17時47分

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