ススキノ・中州とイギリスの暴動と街頭防犯カメラ
8月20日の毎日新聞は、警察庁が歓楽街の犯罪抑止効果検証を目的に、札幌市のススキノと福岡市の中州に防犯カメラを約40台ずつ設置すると報じた。カメラによる犯罪抑止効果を検証し、今後の設置・運用の参考にするという。記事は、歓迎する商店主らと戸惑う観光客、反対する武藤糾明弁護士のコメントをそれぞれ載せている。
街頭防犯カメラの犯罪抑止効果については以前検討したことがあるが、そう単純な問題でないことだけは間違いない。歓楽街の犯罪というと、スリや置き引き、酔っ払いの喧嘩などが思い浮かぶが、こういった犯罪への抑止効果は無いし、あってもすぐ、元に戻る。他方、侵入盗(空き巣)への抑止効果はある。ただこれは、カメラ自体の抑止効果というより、「カメラを設置した」というニュースが、プロの泥棒に「シマを変える」効果をもたらすから、と考えられるし、しばらくすると効果がなくなる。また、違法な客引きや違法風俗店を排除する効果は、新宿歌舞伎町の街頭防犯カメラの効果としても報告されている。これは、違法滞在の外国人がカメラに写るのを嫌ったためと推測される。新参者に縄張りを脅かされる既存商店主が繁華街の街頭防犯カメラを歓迎するのは、当然なのだ。
不法滞在外国人が減れば、その地域では彼らによる犯罪は減るだろうから、犯罪抑止効果はあるといえる。だが、彼らも仕事のために日本にいるのだから、カメラのない場所で商売を続けるだろうし、ある種の「犯罪母集団」を狙い撃ちして街頭監視カメラを設置する政策は、とてもセンシティブな問題をはらむ。
また、歓楽街は怖すぎても困るが、ある程度の猥雑さや危険な匂いも必要だと思うし、「理想的な歓楽街」を街頭防犯カメラによって維持することの是非は、論じられてしかるべきだと思う。
ところで、街頭防犯カメラ大国といえばイギリスだ。そのイギリスでは8月初旬、全国で暴動が発生した。鈴木一人北海道教授の分析によれば、暴動の主体は、低階級で社会的に排除され、地元のギャングや愚連隊との接触が多い10代の若者―要するにゴロツキとかチンピラとかいうたぐい―である。彼らは街中に街頭防犯カメラがあることを百も承知で、堂々と店舗を襲い、自動車に火をつけ、一般市民に暴力を振るった。つまり街頭防犯カメラには、暴動を抑止する効果が全く無かったことになる。また、暴徒がSNSを使って暴動場所に集合したため警察の対応が後手に回ったとも報じられたが、見方を変えれば、ロンドンだけで数百万台とも言われる街頭防犯カメラでは、暴徒の動向を把握できなかったことを意味する。
ではイギリスで街頭防犯カメラが無用の長物だったかといえば、そんなことはない。イギリス政府はカメラに録画された画像をもとに暴徒を検挙し、8月20日までに3300人以上が逮捕されたという。また、街頭防犯カメラとは直接関係ないが、Facebookで暴動をあおったとして、20歳と22歳の男性に4年の実刑判決が下されたと報じられている。一体どういう裁判制度がこんな短期の判決を可能にしたのか、弁護人が活動できたのか、興味は尽きないが、その是非は別として、防犯カメラの画像をもとに検挙された多数の若者に迅速に重罰が科されれば、再度の暴動発生に対し、それなりの抑止効果をもたらすだろう。ただ、今後暴動多発地域(おそらくイコール低所得者街)の街頭防犯カメラ設置台数が飛躍的に増えたとき、もともと階層社会と言われる英国社会にどのような影響を及ぼすかは懸念される。
イギリスの例からいえることは、街頭防犯カメラは、その運用方法と一体となって、初めて犯罪抑止効果をもたらしうる、ということだ。いいかえれば、設置するだけで、犯罪を抑止するほど甘くない、ということでもある。広大なススキノにたった40台程度の設置では、何とでも解釈できるデータが出てくるだけだろう。検討すべきことは、街頭防犯カメラと刑事司法運用との関係をどうするか、という方策であり、わが国にその必要があるのか、という価値判断だと思う。
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