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2011年8月19日 (金)

天竜川事故と規制国家ニッポン

817日、天竜川で観光船が転覆し、2人死亡3人不明(18日午後7時現在)という痛ましい事故が起きた。

日本経済新聞は、救命胴衣を大人の多くが着用していなかったことについて、「乗客に着用させるのが運行会社として当然の責任だ」という田川俊一弁護士の談話を掲載した。この事故を受け、国交省の担当者は、「(乗客)全員への着用義務づけも含めて検討する」と話したという。

こういう事故が起きると必ず出てくるのが規制強化論だが、やめた方がよいと思う。

乗客の救命胴衣着用を義務化するとなれば、義務を負うのは乗客ではない。規制の効果を上げるため、「着用させる義務」を船頭が負うことになる。自動車内では運転手がシートベルトを「装着させる義務」を負う(道路交通法71条の32項)のと同じことだ。その結果、事故が起きて救命胴衣未着用の乗客が死亡した場合、「着用させる義務」を履行しなかった船頭(とその雇い主)が、法的責任の少なくとも一部を問われることになる。

すなわち、事故自体は船頭の不可抗力であったとしても(たとえば、乗客が酔って突然川に落ちて死亡した場合でも)、救命胴衣を着用していれば助かった可能性がある限り、船頭(とその雇い主)は義務違反による法的責任を免れない、ということだ。もちろん、今回の事故のことではない。

他方、船頭の指示に従わず救命胴衣を着用しなかった乗客も、一定の責任を免れない。その結果、たとえば賠償金額の何割かがカットされることになる(これを過失相殺という)。

すなわち、乗客から見た場合、事故自体は100%船頭の過失であったとしても、救命胴衣を着用していれば助かった可能性がある限り、賠償金の一部が過失相殺される、ということだ。

誰がそんなこと言うのかって?弁護士が言う。私だって船頭側の依頼を受ければ必ず言う。法律がある以上、主張するのは弁護士の仕事だ。弁護士は、田川俊一弁護士のような、乗客の味方ばかりではない。

つまるところ、救命胴衣着用の義務化は、船頭側にも、乗客側にも、一定のリスクをもたらす。本当にそこまでする必要があるのか、よく考えた方がよい。ラフティングならいざ知らず、本件程度の川下りで、そんなリスクを負わせてまで、義務化する必要があるのか。船頭の小唄を聴き、酒を飲みながら景色を愛でる川下りに、暑苦しくて重たくて、下品なオレンジ色は似合わない。

国交省のお役人には、「救命胴衣着用義務化を検討しないのですか?」と記者に聞かれても、毅然として、「それは国が規制すべき問題ではありません」と答えてほしい。事件→マスコミ→役人→規制強化というループは、ホントにどこかで断ち切らないと、この国はどんどんおかしな方に行ってしまう。

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コメント

子供にも暑いから着せなかったと報道されているが、ヨーロッパの物が日本の規制で売られていないので、「暑い」ライフジャケットしか手に入らない。ヨーロッパ基準のライフジャケットは、小型で性能が良くファッショナブルで安価な物が沢山ある。(子供用も色々えらべる)
規制がライフジャケット着用率低下の一因となっている。他にも航海灯などより安全な物が使えない日本の規制がある。本来安全を保つための規制が、安全性を損なう方向に働いてしまっているのです。

小型船のマーケットは日本は小さすぎるので別の基準を作るのは非効率で特定の業者の保護にしかなっていない。基本的にヨーロッパ基準に合わせるべきと思う。

投稿: | 2011年8月19日 (金) 10時39分

賛成です。

今の日本人は権利ばかり主張して明らかにひ弱になりすぎてる。
助けるべき人は助けなければならないが何でもかんでも保護を求めすぎ・・

投稿: にゃこ | 2011年8月19日 (金) 10時45分

水をなめている意見があるのはびっくりします。自然を軽く見ています。落ちれば今回のようなこともあるだろうしライフジャケットがあれば助かったかもしれない命です。ただの山歩きだから・・・と軽装で山に入り遭難して死亡という記事をよく見ます。氷砂糖1カケラでも助かった命もあったかもしれません。自然を感じ、景色を眺めながら歩く山歩きに、暑苦しくて重たいリュックは似合わない、と思っている人が遭難した場合後悔するんでしょうね。今回当事者達はどう思っていると思いますか?事故を起こすまではライフジャケットなんか船頭の小唄を聴き、酒を飲みながら景色を愛でる川下りに、暑苦しくて重たくて、下品なオレンジ色は似合わないと思っていたかも知れませんが現在は着用を義務にしてくれていれば・・・と思っていると思います。自分に被害が及ばなければ勝手なことを言うのは簡単です。実際死刑反対論者が家族を殺されたとたんに賛成にまわる有名な話がありますしね。プログ主も自分の家族が川下りで事故にあえば同じ文章が書けるか疑問ですね。

投稿: | 2011年8月19日 (金) 11時53分

そうかな・・・、救命胴衣つけることで死ななくて済む人が一人でも増えるなら、なんとかつけてもらうように方策を考えるのがスジじゃないかな?マスコミが救命胴衣を義務化しなかったことに非を求めるのは、そういう幕引きを想像することしか出来ない無能の極みだけれど、だからといってライフジャケットを義務化するな!オレンジ色が下品だとか言うのは論理の飛躍だとおもう。

投稿: 地獄の犬 | 2011年8月19日 (金) 12時39分

私見です。
命よりも大切なものがないと仮定する。
義務化する大目的は少しでも命を守ること。
義務化しない方がよいというのであれば、これと同等以上の命を守る方法の提案が必要ではないでしょうか。

例えば
グルーピング、ラフティング、フィッシング、マリンスポーツは高性能なライフジャケット、
流速の遅く、縦断勾配の低い河川の川下りは低性能な(白・透明等)のライフジャケット
浮き輪の整備とか代替案でもよいでしょう。

投稿: 結 | 2011年8月19日 (金) 12時47分

 「船頭の小唄を聴き、酒を飲みながら景色を愛でる川下りに、暑苦しくて重たくて、下品なオレンジ色は似合わない」とおっしゃってますが、まず、ここの川下りは酒を飲みながらのんびりというものではなさそうです。ブログ主は湖とかの屋形船なんかと同一視してるのではないでしょうか。流れが急になったり渦が巻いたりする場所がありスリリングなのもウリの川下りにおいては、転覆のリスクも一定程度あるわけです。そのような状況で命を守るのに大きな力を発揮するとわかっているライフジャケット着用を義務付けるのは必要だと思います。

 ライフジャケットは「暑苦しくて重たい」ものばかりではありません。オレンジ色とも限りません。ブログ主はものすごく固定観念がありませんか?

 ちなみに、同じ天竜川で川下りを運航している別の会社では、こんなの(↓)を用意してます。
http://tenryu.netbank.co.jp/anzen.html

 普段はペッタンコで、水に触れると自動で膨らむタイプ。そんなに暑苦しそうには見えませんが。デザインを工夫すれば「はっぴ」のように見えなくもない?

投稿: Kuwazo | 2011年8月19日 (金) 14時26分

この記事の主張に対する反対意見が多いことに驚きました。

川下りは日本で恐らく20カ所近くあり、年間何十万人もの人が利用しているのではないでしょうか。川下りでの事故で死者出た例は私には記憶がありません。川下りによる死亡率は交通事故の場合と比較して小さいように思われます。

運営会社については、救命胴衣の設置と乗船の際に客の中に希望者がいた場合着用するよう周知するところまでが義務だと思います。救命胴衣を付けるか否かは乗客の自己責任です。私は、真夏に救命胴衣を付けることを拒否する権利を留保したい。

遊園地の遊具、登山、海水浴、ボート、あらゆるスポーツがリスクを抱えております。それでもそれがやりたい人は後を絶ちません。それはリスクを上回る娯楽であると考えているからです。命を失うリスクがゼロでないと困るひとは、家に籠もっていればいいだけの話です。

投稿: kamokaneyoshi | 2011年8月19日 (金) 17時21分

反論のコメントは主旨からズレてません?
『救命胴衣を着けさせる義務』が必要か?ということでしょ。
『救命胴衣を準備する義務』で十分で、着けるかどうかは自己責任でいいじゃないですか。
『自分の身は自分で守る』という当たり前の事を他(法律や業者)へ丸投げする方が変だと思います。

投稿: RYU | 2011年8月19日 (金) 18時14分

自由の国アメリカではどうなんでしょうか?安全確保はやはり個人の責任が中心では?あまりにも国が規制してしまうと木登りもできなくなるのでは? 

投稿: | 2011年8月19日 (金) 18時18分

私もkamokaneyoshiさんと同じ気持ちです。
日本人というのは規制が好きな人種なのかもしれませんね。

こんにゃくゼリーの事故の時にも似たようなことを感じました。

このままでは、交通事故が起きるから車の製造を規制して、
自殺の防止に人間を増やさない(子供を産ませない)という規制が出来るかもしれませんね。

投稿: 堅苦しい国では肩がこる | 2011年8月19日 (金) 21時26分

 多くの川下りでは、ライフジャケットの用意がなされています。
 「川下り業者が、ライフジャケットを用意しているだけでは足りず、乗客に着用を強制しなければ、罰せられる。」のは、私も行き過ぎだと思います。

 コメントをつけた皆さんは、ご自身がタクシーに乗る際、自主的にシートベルトを着用していますか。運転手さんから言われて渋々着用しますか。
 それとも、運転手さんから言われても、無視していませんか。

投稿: なしゅ@東京 | 2011年8月19日 (金) 21時35分

この記事が批判されているのは次の2点。

1点目は単純な事実誤認(ただし法律家としては致命的とも言える)。
「船頭の小唄を聴き、酒を飲みながら景色を愛でる川下り」などでは決してないものだった点。

2点目は上記事実誤認に基づき、判断を誤っている点。
「本件程度の川下りで、そんなリスクを負わせてまで、義務化する必要があるのか。」などと安易に決めつけている点。

タクシーとの比較とかコメントにもおかしなのがありますが、今回のケースで比較すべきなのは今年初めに起きた東京ドームシティアトラクションズの事故でしょうね。
なんでも開始前の安全バーの確認が利用客の苦情でされなくなっていたとか。
レジャーでスリルを追求するのはかまいませんが、安全確保は最大限やっておくべきでしょうね。

投稿: | 2011年8月19日 (金) 22時40分

乗客を乗せることでお金を取り、利益を上げているのだから乗客の安全に最大限配慮するのは当然のことではないでしょうか。

そもそも、その行為がどれほど危険かわかっていない人間を乗せるのだから、その企業が「着用させる義務」を負うのは当然です。
俺は趣味でヨットに乗り、レースに出たりします。
俺はヨットの危険性も、海の危険性も理解しているから、俺はヨットの事故で死んだら俺の責任です。
それらの知識がない乗客を、ましてや老人や子供を乗せるのであれば、企業は最大限配慮すべきです。
仮に、飲酒などで着用を拒否した場合には、乗船を拒否すべきです。
人の命を預かるということは、それほど重要なことです。
ちなみに、今では圧縮ボンベ付きの肩にかけるベルトのようなライフジャケットもありますし、ウェストポーチやベルトのように、押しに巻きつけるフロートもあります。

投稿: カズ | 2011年8月19日 (金) 22時51分

少し別の観点からコメントします。筆者の趣旨はよく分かります。
しかし、ライフジャケットが下品なオレンジ色のものしかないかのような言い回しに抵抗を覚えます。少し調べれば、このタイプのライフジャケットの他、ポーチ型など簡易なものがあることが分かります。無論、簡易型を装着していても、溺れる可能性はあり、同様の事故や問題がなくなることはないでしょう。私が提議したいことは、弁護士という社会的地位や影響力、そして、そもそも根本的に「正義」を成す聖職という存在であるならば、物事の実務的な落としどころを探るべく、もう少し周辺関連事項を調べてから論じるべきではありませんか? やはり命に纏わる話です。その姿勢(プロセス)の無さに軽率さを感じました。

投稿: ぱたりろ | 2011年8月19日 (金) 22時57分

>暑苦しくて重たくて、下品なオレンジ色

追加すれば、使い捨てを採用しない限り、「清潔感に欠け臭い」も入ります。
結局、規制によって、市場を潰すことに繋がります。
公園からは、どんどん面白い遊具が撤去され、BSEにしろ、ダイオキシンにしろ、一昨年の新型インフルエンザにしろ、とても先進国とは思えない馬鹿騒ぎです。

小林さんの意見に賛成すると同時に、世間に広まることを期待します。


投稿: 兼六園 | 2011年8月20日 (土) 02時52分

もう1点あった。

「下品なオレンジ色」

ライフジャケットの機能を考えればこんなバカなことは言えないはずなのに・・・。

投稿: | 2011年8月20日 (土) 09時06分

法律家の先生の中にも私と同様の意見をお持ちの方がいらっしゃることに安堵を覚えました。
本来グループのメンバーが全て賢明で争うことがなければそのグループにルールなどなにも要らない訳ですが、複数の人間が存在するとどうしてもいさかいが起こるのは動物のさがでしょうか。
ルールや規則、押し付けのマナーやら習慣因習等など文化が発達して道理をわきまえた人間が増えるに従って減るべきものが逆に増えていく現状はなんとも矛盾を感じるばかりです。

投稿: ターさん13号 | 2011年8月20日 (土) 09時40分

私は、規制に反対の立場です。
ですが、消費者保護の名のもとに、いわゆる「こんにゃくゼリー」の規制がなされた時と同様、この手の規制を求めるのは、弁護士の消費者問題を取り扱っている方であるという点も、認識してほしいものです。

イデオロギー的に、小泉政権時代の規制緩和・新自由主義的思想への反発として論じる向きもたまにありますが、消費者を過保護にすることは、本当の消費者志向ではないことに、早く気付くべきです。

今回の件も、行政規制を働かせることがなくとも、おそらく乗客からの契約上の安全配慮義務違反を理由に債務不履行責任を追及する訴訟が生まれることでしょう。
そうすれば行政規制などあろうが、なかろうが、結果的には義務づけとなんら変わりません。
自然の中で乗り物に乗るという時点で、一定の危険を引き受けているということを踏まえるべきだと思っています。

なお、コメントの中に、東京ドームアトラクションとの比較もありましたが、人工的に危険な状態を作出する場合の責任と、自然界における危険な状態を同列に論じるべきではないと思っています。
ただその場合においても、一定の(潜在的な)危険のある乗り物に乗っているということによる、危険の引き受けを考慮すべきだと思います。

そういったこともなく、とにかく消費者は安全が100%、ということを求め続けるとすれば、社会的なコストとして認識されることになるので、諸外国と比べた高コスト体質は改善されないでしょうし、新規ビジネスなどは開花しにくくなると思います。

ま、それでも「安全だ!」といわれれば、そもそも価値観の相違になるので、議論の余地はなさそうですが。

投稿: 場末の手習い | 2011年8月20日 (土) 21時55分

そもそも観光で川下りに参加する客が、船が転覆して遭難するなどということを考えるものでしょうか。安全であることを前提に客は乗っていると思います。運営会社側は、少なくとも客が乗船前には川下りの危険性を十分に説明し、安全措置(救命胴衣着用など)を施すべきだと思います。今回の事故のようなことが
起こり得ることを事前に知らされれば、ライフジャケットの色など気にならないと思いますが。

投稿: | 2011年8月21日 (日) 01時20分

この手の事故については、起きる確率がどれくらい高いのかも問題だ。

これまでなかったことを考えると、上流ダムの放流による増水で起きた事故ではないのか?

現代の日本人は原点を忘れてバーチャル世界に遊びおんぶにだっこの気持ちが強すぎる。
自分で自分の身を守れない者は死ぬ。生き残るものは試練を潜り抜けたものだけだ。
政府の規制は最小限であるべきだ。
政府に規制を求めれば、それを管理する組織ができて天下り役人を増やすだけだ。
マスメディアが、国民に向けて自分の身は自分で守るように訴えてよい。

投稿: 恩田川 鴨次郎 | 2011年9月 2日 (金) 10時29分

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