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2011年8月 3日 (水)

統一修習と給費制のあけぼの(1)

弁護士に対する修習は、昭和8年(1933年)の弁護士法改正に基づき、昭和11年(1936年)にはじまった。それまでは、高等文官司法試験(現在の司法試験)に合格すれば、すぐに弁護士になれた(判検事になる者は1年半の修習を経なければならないとされていた)が、弁護士法改正以降、弁護士試補として、司法大臣の管轄の下、1年半の修習を受けることになった。改正弁護士法2条には「左ノ条件ヲ具フル者ハ辯護士タル資格ヲ有ス」とあり、同11号には「帝国臣民ニシテ成年者タルコト」、2号には「辯護士試補トシテ16月以上ノ實務修習及考試ヲ経タルコト」とある。この改正により、あわせて、①弁護士の職務範囲を拡大し、法廷外活動も認める、②女性に対しても弁護士資格を認める、③弁護士会の法人格を認め、地方裁判所検事正から司法大臣の監督下におく、ことが決まった。この改正は、大正11年(1922年)司法省内に設置された弁護士法改正委員会において78回の会議を経、昭和2年(1927年)にまとめた意見書をもとに、司法省にて議案化されたものである。

このころ、弁護士数は明治26年(1893年)の弁護士法制定当時の1600人程度から6000人程度に増えていた。改正理由について、昭和8321日付「官報号外」に記載された、小山松吉大臣の説明によれば、「申すまでもなく弁護士は司法機関の一と致しまして、司法事務の運用上重要なる地位と職責とを有する者でありますが、時運の進捗に伴いまして、司法事務は複雑を加え来たのでありますから、その職責はますます重要性を帯びるに至った」。そこで、弁護士の地位についても、「原則として判事検事と同一に致したのであります。…近時の弁護士事務はかなり複雑でありますから、唯一回の学術試験に合格いたしましたばかりでは、遺憾なくその事務を処理することははなはだ困難であります。ご承知のごとく司法事務の運用を円滑にし、処理の迅速なることを要するには、独り判事検事のみならず、これに関与する弁護士等が、諸般の法律及び手続に熟達いたして居ることを必要とするのでありますから、弁護士試補として實務を修習せしむることと致しました。」とある。

大阪弁護士会友新会によると、昭和12年当時、高等文官司法試験合格者数220230人中、判事検事になる「司法官試補」に採用されるのは、成績優秀な者のみ約半数であった。そのため判事検事が弁護士に対する優越感を持つようになったことから、これに危機感を持った「弁護士会の要求を容れる形で」、上記の弁護士修習制度が設けられることになったという。

もっとも、司法官試補の修習は有給であったのに対し、弁護士試補の修習は無給であり、多くの弁護士試補はアルバイトをしていて、魚の闇をやって摘発された者もいたという。そのため、弁護士修習制度を廃止せよという意見も強く、昭和13年(1938年)の帝国議会議事録を見ると、弁護士修習制度廃止の請願が衆議院に報告されている。

弁護士会がこのような無理を押して、弁護士の修習制度を国に求めた最大の動機は、明治31年(1898年)に生まれた法曹一元論によるものと思われる。なぜなら、弁護士修習の始まった翌々年である昭和13年(1938年)、満を持して提出された法曹一元実現のための法案が貴族院で廃案になった時期とピタリと重なるからだ(『こん日』159頁)。つまり、弁護士に対する修習は、法曹一元法案提出の足がかりであり、法曹一元法案成立の暁には判事検事修習と統一され、有給になる見通しであったのだ。

余談になるが、司法試験は資格試験なのだから、合格する学力がある限り、何人になっても(=増えても減っても)よい筈、という意見がある。しかし、昭和初期に導入された修習制度によって、司法試験(高等文官司法試験)は、単なる資格試験ではなく、研修所への入学試験になったのだから、これ以降、予算や教育施設・人員との関係により、合格人数があらかじめ決められることになった。したがって、この見解は誤りということになる。

2004年、司法修習生に対する給費制の廃止が決定され、本年11月の貸与制への移行が決まっている。日弁連は抵抗しているが成否は不明だ。しかしそもそも、統一修習と給費制はなぜ、どのような理由で開始されたのか。その歴史を紐解いてみたい。

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