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2011年9月 6日 (火)

統一修習と給費制のあけぼの(10)

弁護士会の悲願であった法曹一元は、占領下の司法制度改革過程において、どう扱われたのだろうか。

法曹一元は、すでに述べたとおり、昭和20年(1945年)の司法制度改革審議会において採否が議論され、弁護士委員の強硬な主張にもかかわらず積極的賛成者がなく、直ちに採用することは見送られた。しかし将来の有力な選択肢としては残存し、その旨の附帯決議がなされている。その後、政府内部で、法曹一元の採否について議論がなされた記録は見当たらないが、弁護士会としては当然、将来の法曹一元以降に向けた足がかりを確保したいと思っていただろう。

しかし、昭和21年(1946年)88日の司法制度審議会第12回第一小委員会の席上、佐藤藤佐委員が「予備判事制度」の採用を提案した。曰く、「予備判事は裁判の実務に携わるものでありますから、将来裁判官を任用するについて、裁判の経験のない判事補助等より採用するよりも予備判事より採用する方が好成績を収めるでありましょうし、特に刑事事件の増加が著しき予想に対処する為にも、この予備判事の活用がどうしても必要になってくると思います」。

議長が促しても、特に異議発言なく、予備判事制度の採用が決まった。

これについて、幹事として参加していた内藤頼博判事は、「大した議論もなく要綱(案)の別案によったのであるが、ここにいわゆる法曹一元の構想を採ることなく、『判事補』の制度を設けることになった」と記している。

判事補制度の採用により、判事は判事補から採用されることになり、判事補は司法研修所の卒業生から採用されることになった。こうして、裁判所法上、判事を弁護士から採用するという法曹一元制度を採用しないことが確定したのである。

佐藤藤佐とは、「さとうのりすけ」と読むのだろうか(「トウスケ」とのご指摘があったので追記します)。漢字の回文という珍しい名前だが、WIKIPEDIA等によると、当時の司法省刑事局長であり、後の法務府法務総裁官房長、昭和25年(1950年)に検事総長に就任し、昭和29年(1954年)の造船疑獄事件では、犬養健(いぬかいたける)法相の指揮権発動にあって自由党幹事長佐藤栄作の逮捕にはいたらなかった、とある。要するに司法省の幹部官僚であり、法曹一元に反感を持っていたことは間違いないと思われるが、当時、憲法草案上、すでに司法権の独立は確定しているから、この発言に政治的意図はないかもしれない。また、このとき、弁護士委員らによる積極的な異議がなかった理由もよく分からない。予備判事(判事補)制度の採用が法曹一元の否定に直結することに気づかなかったのかもしれないし、当面法曹一元を採用しない以上、やむを得ないと思っていたのかもしれない。当時から裁判所法案の起草にかかわっていたと思われる内藤頼博のメモには「大した議論もなく」とあり、議論が起きなかったことに対する疑問ないし不満が見て取れる。

このように、詳細は不明であるが、いずれにせよこのとき、制定当初の裁判所法が法曹一元を採用しないことが確定した。そして、平成10年(1998年)に復活した法曹一元論は、判事補制度の廃止とワンセットで主張されることになり、平成12年(2000年)の司法制度改革審議会の席上、中坊公平もと弁護士の孤軍奮闘にかかわらず、判事補制度を廃止しないことが決まって、日弁連の法曹一元論は3度目の挫折を迎えたのである。

余談だが、以上の経緯を記した畔上英治もと判事『裁判所法等制定当時の思い出』(自由と正義378号)によると、上記佐藤藤佐刑事局長の発言は、「裁判官は初任から責任のある裁判実務に就き、先輩裁判官から実務をとおして種々学びとって成長するのであるから、司法試験を経て所定の修習後は直ちに裁判を担当させるべきである。」というものであり、これに対して「驚くべきことに弁護士委員をも含む多くの賛成者が現れた。…そして、やがて同局長意見が大勢を占め、現行判事補制度が出現したのである」とある。これは、私が参照した内藤頼博の記録と全然違う。畔上元判事は文脈上、内藤頼博の記録を参照した上で全然違うことを言っているので、どちらを信用するかは悩ましいが、内藤頼博の記録は会議中に作成されたのに対し、畔上もと判事の記述はその40年後であること、畔上元判事自身、「正確な歴史的経過は(内藤頼博作成の)『終戦後の司法制度改革の経緯』に譲る」と述べていることから、内藤頼博の記録を採用することとした。ちなみに後藤富士子弁護士は、『官僚司法を変える』(現代人文社)において、畔上もと判事の文章に基づいて判事補制度採用の経緯を論じているが、内藤頼博作成の資料は参照されたのだろうか。

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