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2011年9月 5日 (月)

日米PL訴訟リスク

経産省が旗振れど、次世代ロボット産業が期待ほど発展しない理由の一つに、PL訴訟リスクを指摘する意見がある。事故が起きて、莫大な損害賠償請求訴訟を起こされるリスクのため、メーカーがロボットの開発を渋っているという。そこで経産省は、安全認証基準を定めようとしているが、話がちぐはぐになっていると思う。

わが国でPL法に基づいて提起された訴訟件数の正式な統計はない。平成18年(2006年)に内閣府がまとめた「製造物責任法の運用状況関する実態調査報告書」によると、PLセンターで受け付けた製品事故相談事例は、平成7年(1995年)から平成16年(2004年)までの全相談累計件数で、7747件であり、他方、内閣府が把握したPL訴訟件数は90件である。ここから提訴件数の実数を推測することは困難だが、平成7年(1995年)から平成18年(2006年)までの11年間で、1000件はない、と見て間違いないだろう。一年平均100件ない、ということである。なお、東京海上日動リスクコンサルティング株式会社の調査によれば、平成7年(1995年)7月から平成22年(2010年)423日までに同社が把握したPL訴訟件数は121件であり、このうち、請求金額が1億円を超えたものは28件である。

内閣府の調査によれば、上記90件のうち、一部でも請求額が認められているのは22件(PL法以外の理由により認められたものを加えると29件)であり、認容額が1001万円以上のものは13件あったという。勝訴率は3分の1ということになるが、和解で終わった事件の中には、見舞金ほか、なにがしかの金員支払いで解決したものも多いと思われる。

一方、米国全体のPL訴訟提起件数は、年間10数万件といわれ、連邦地方裁判所に対する提訴件数だけでも年間1万件を超えるといわれている。このうち95%は判決まで行かず終結するとのことだが、その中には、スジ悪で取り下げられたものから、メーカー側が全面的に非を認めて多額の賠償をしたものまで、様々なものがある。

賠償金額について、懲罰的賠償制度のある米国では、近年、上限の設けられる州や事例が一般的になってきたとはいえ、米国司法省司法統計局(Bureau of Justice Statistics調査した結果によれば、平成8年(1996年)度の統計で、懲罰賠償の中央値は46200ドル(1ドル≒約80円として3700万円)、賠償金が認められる判決中、懲罰的賠償が認められる割合は約3割とのことである。

訴訟制度が全然違う両国なので、単純な比較はできないが、どちらの国において訴訟リスクが高いかと言えば、答えは明白である。日本のPLセンターへの相談件数(年平均1000件以下)と、米国におけるPL訴訟提訴件数(年平均10万件以上)を無理矢理比較しただけでも、100倍以上の差がある。もちろん、次世代ロボットに限っても、米国の訴訟リスクが圧倒的に高いことに変わりはない。それなら、米国企業は、訴訟が怖くて、次世代ロボットの開発を渋っているのだろうか?そんなことはない。米国の次世代ロボット技術は、とうに日本を追い越していると言って過言でない。

つまり、訴訟リスクの高さは、米国のロボットメーカを、全く萎縮させていないのである。従って、訴訟リスクが高いから、日本のメーカーがロボット開発を渋っているという見解は、全く根拠がない、ということになる。

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