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2011年10月 4日 (火)

司法修習と給費制のあけぼの(15)

戦後司法制度改革において、弁護士志望者を含めた司法修習生への給費制については、大蔵省が異議を述べ、内藤頼博・畔上英治ら当時の若手判事が反論を行い、これを退けていた。

ところが、日弁連発行の『日弁連二十年』の記述は、一部事実認識が異なり、一部ニュアンスが異なる。

すなわち、「(給費制については)当然のこととして受け入れられ、誰も異論を唱えていない」と記載され、また、本稿が内藤頼博の言として記載した内容が、そのまま、法制局の言として記載されているのだ(135頁)。

しかし、前半すなわち「給費制について誰も異論を唱えていない」との下りについては、少なくとも畔上英治判事が異論があったと証言している。尤もこの証言は1998年のものだから、『日弁連二十年』がこの証言それ自体を参照できなかったことはやむを得ないが、異論がなかったなら、「法制局の説明」なるものが残っているのは不自然、と考えないといけない。

しかもその「法制局の説明」なる文章が、内藤頼博が自署『戦後司法制度改革の経過』に、法制局に対する「注釈的な説明」として記した文章と一言一句同じというのも、腑に落ちないことである。もちろん、内藤頼博の説明に満足した法制局が、大蔵省等に対して、右ならえで説明した可能性は否定できない。だが、そうだとしても、一言一句同じというのは不自然だし、そもそも、そのような説明が残っているとすれば、説明を必要とする指摘があったからであり、「誰も異論を唱えていない」という『日弁連二十年』の記述にほころびが生じることになる。

これ以外にも、『日弁連二十年』には納得のいかない記述がある。それは、戦後導入することになった統一修習について、「連合軍司令部もこれに対し、相当な疑問を表明しながらも修正までは要求していない」と記述した点(134頁)だ。

これは、昭和211127日、裁判所法案に関する内藤頼博らとGHQとの第二次会談の記録に基づいていると思われる。当時、占領下にあった日本は、裁判所法の改正案について、GHQの承認を必要としたので、これを得るための会談であった。

この席でGHQのブレークモアは、「判事・検事・弁護士志望の別があるのに同じ修習を行う必要があるのか」「収集期間2年は弁護士志望者には長すぎないか」といった質問を発しており、『弁護士二十年』はこれをもって、「連合軍司令部(GHQ)も(統一修習制度)に対し、相当な疑問を表明」と記述したと思われる。

だが、この会議に出席していた広田判事の覚書によれば、このやりとりの後着席したオプラーは、「これに反し原案(裁判所法案)を支持した」とある。仮に両方の意見がGHQとしての意見であるとするなら、ブレークモアの上司であるオプラーの意見の方がGHQの意見になるので、『日弁連二十年』の記述は間違いということになる。

もっとも、私自身は、ブレークモアの発言もオプラーの発言も、どちらも個人としての発言であって、GHQとしての公式見解ではない、と考えている。というのは、記録上、彼らは個人的な見解と組織としての見解を区別しており、組織としての見解であるときには、明確にそうと断って発言しているからだ。これは、オプラーやブレークモアの方針というより、欧米人として当たり前の態度ではないかと思う。

トーマス・ブレークモアは、1915年米国に生まれ、戦前に東京帝国大学法学部に留学した後、米国で弁護士資格を取得し、戦後、GHQのスタッフとして来日した。後にGHQを辞し、1949年に外国人向け司法試験に合格して日本の弁護士資格を取得しブレークモア法律事務所を創設した人物である。フライフィッシングを日本にもたらした人物でもあるらしい(トーマスブレークモア記念社団毛鉤専用釣場というものがある)。

GHQとしての見解でないとしても、このときブレークモアがなぜ、統一修習に異論を唱えたか、は興味深い問題である。おそらく、法曹一元を導入しないことが決まった以上、統一修習をしたり、弁護士志望者に判事や検事の仕事を勉強したりさせなくてもよいのでは、という、合理的かつドライに割り切った見解だったのではないか。いいかえれば、統一修習制度の持つ、過渡的で中途半端な性格を、この米国人弁護士は見抜いていたともいえる。

さらにいいかえれば、ある意味合理的なブレークモアの指摘に反論し、統一修習制度を守った内藤頼博らには、将来の法曹一元導入に向けた、確たる希望があったということになる。

それにしても、『日弁連二十年』の記述は何なのだろうか。執筆者も引用元も分からないので、何ともいえないが、単純な事実誤認を犯している可能性は否定できない。

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