まねきTV判決の調査官解説(Law & Technology51号)を読んでみた
誰でも一つくらい、ひいきのTV番組があると思う。特に、「探偵ナイトスクープ」に対する関西人の思い入れはすごい。これ見たさに、海外赴任を断る関西人はきっといると思う。
「まねきTV」事件とは、事業者がSONYのロケーションフリー(以下LF)を用いて行うサービスだ。具体的には、利用者から入会金3万1500円、月額使用料5040円の支払いを受けて、利用者が所有するLFを事業者事務所に設置し、TVアンテナに接続するとともに、インターネットを介して利用者の手元の端末に接続される。利用者は、端末からインターネット経由でLFに指示することにより、番組を視聴できる。これにより、例えば海外赴任中に日本のテレビ番組を視聴することが可能になる。
ところが、NHKなど放送事業者は、著作権法が放送事業者の専有を認めている「送信可能化権」と「公衆送信権」を侵害すると主張して、訴訟を起こした。
ここで「送信可能化権」とは、「公衆送信装置」に情報を記録する等すること(著作権法2条9の5)である。東京地方裁判所は、LFは利用者が自分で操作して自分にテレビ番組の情報を送る「1対1」の機能しか有しないから「公衆送信装置」にあたらないと判断し、東京高等裁判所も、LFは予め設定された単一の端末宛送信するという「1対1」の送信しか行わないから、「自動公衆送信装置」にあたらないと判断した。
ところが、最高裁判所第三小法廷は、判断を覆した。
すなわち、LFが「自動公衆送信装置」にあたるか否かは、「1対1」で決めるのではなく、「送信者」が「公衆」に送信する装置か否かによって決めるべきだとした。そして、「まねきTV」サービスの「送信者」は、LFを設置してアンテナと接続した事業者であって、利用者自身ではなく、この利用者は、事業者との個人的関係は不要であって、サービス利用契約締結によって誰でもこのサービスを利用できる不特定の者だから、送信者から見て「公衆」にあたるとした。
その結果、LFは自動公衆送信装置であることになり、これを利用した本件サービスは、「送信可能化権」と「公衆送信権」を侵害することになる。
以上数行が、A4で6頁に及ぶ解説の要約だ。間違いがある可能性大だから、鵜呑みにしないように。
結局のところ、地裁・高裁と最高裁の判断を分けたのは第一に、「公衆送信装置」を「1対1」に限るか否か、という価値判断と思われる。特別刑法でもある著作権法は罪刑法定主義に服するから、「公衆」が一人でもよい、という最高裁の解釈は、国民の感覚からは、控えめに言っても、かなり際どいところにある。それを承知で「1対1に限らない」という解釈を取らせた価値感は、「送信可能化を規制の対象となる行為として規定した趣旨、目的は…現に自動公衆送信が行われるに至る前の準備段階の行為を規制することにある」という判決文に表れている。それは、著作権侵害になる行為の芽を広く摘みたいという立法意思の尊重である。
第二は、「送信者」が誰か、という判断である。東京地裁は、LFをリモートで操作する利用者自身が送信者であるとしたが、調査官は、LFにアンテナ等を接続した事業者が送信者であるという。だが、アンテナ等を接続しただけでは、放送電波を含む雑多な電波がLFに届くだけだし、チューナーを操作して番組という著作物の記録を行うのは利用者だし、何より、アンテナを内蔵したLFならどうなるのか、という問題もあるから、調査官の説明は疑問だ。この点最高裁は、「当該装置が受信者からの求めに応じ情報を自動的に送信することができる状態を作り出す行為を行う者」が送信者だと述べており、要するにLFを設置しネットに繋いで起動しておくことで足りるから、認定としては、この方が適切だと思う。
以上要するに、LFを本人や家族、友人が設定して、日本の番組を視聴させてあげることは合法だが、業としてこれを行うことは違法ということなのだろう。確かに、業者はTV番組の魅力に乗じて、殆ど労せずして稼いでいるという評価はあり得るところだろう。だが他方、「まねきTV」が、放送事業者のどのような利益を不正に侵害しているのか、今ひとつ分からないようにも思われる。
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