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2011年11月17日 (木)

株主は、もっと怒るべきだ

株式会社は、資本を最も安全かつ多額に集める仕組みであり、資本主義国家の経済的核心だ。株主は、出した金を失う以上のリスクを負わないから、安心して出資できる。企業からみると、借り入れと違い、返さなくてよい資金が手に入る。まして、上場すれば、市場を通じて効率的に資金を調達できる。日本経済が再浮上するためには、株式市場を通じ外資を日本の株式会社に流入させることが、どうしても必要だ。だから、日本の株式市場は、以前に増して、国内外の投資家にとって魅力的なものにならなければいけない。

ところが、会社法が改正されてから、上場を廃止し、一般株主を追い出す株式会社が跡を絶たない。会社法の改正により、株式公開買付(TOB)を使い、「手切れ金」を渡して強制的に株を取り上げる「マネジメント・バイアウト=MBO」が容易になったためだ。金融ジャーナリストの伊藤歩氏によると、会社法が施行された200651日以降、MBOにより上場を廃止した会社は178社。追い出された株主は延べ110万人に及ぶ。178社の多くは、上場会社の中でも「勝ち組」に属する優良企業だ。しかも、「手切れ金」が多くの場合、不当に安く算定されている上、これを裁判で争うことが極めて困難ときている。小泉首相時代、「貯蓄から投資へ」のかけ声の下に株を買った一般投資家の資金は、MBOの結果、半分戻ってこないことも珍しくない。国際的に見ても、会社法施行後の日本は、ヨーロッパほど株主保護制度が手厚くなく、米国ほど訴訟による救済が容易でなく、結果として世界一、株主に厳しくなっている。こうして、国内外の投資家から見て、わが国の株式市場は、どんどん魅力を失っている。

こんなことが許されてよいのだろうか。わが国の市場経済は、延べ4400万人の一般投資家によって支えられているのだ。株主は、もっと誇りを持ち、もっと怒るべきだと思う。

上場を廃止して一般株主を追い出す企業は、効率的な企業運営や再編のためには、「物言う株主」は邪魔だと考えている。だが、MBOにより一般株主に対して支払われる金の原資は多くの場合、借入金だ。だから、上場を廃止する企業にとって、口うるさいだけの素人株主を追い出すことは、入れ替わりに、容赦なく高配当を求めるプロの投資家・金融業者を呼び込むことである。つまりMBOをしたからといって、企業は自由になれない。銀行と証券会社、そしてMBO専門弁護士が儲かるだけだ。ところが現在、この問題を正面から指摘し、法廷闘争を挑んでいるのは予備校講師の山口くらいであり、追い出される投資家はもちろん、上場を廃止する企業側も、MBOの欺瞞性に気づいていないという。

伊藤歩著『TOB阻止完全対策マニュアル』(財界展望社)は、現在日本の株式市場が抱える重大な制度的欠陥を暴き、TOBを阻止する具体的方法を指南する、おそらく唯一の書だ。200頁を超えるが、とても読みやすい。会社法の問題点を知るばかりでなく、わが国の市場経済の将来を占う上でも、必読の文献だと思う。

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