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2011年12月27日 (火)

東工大イラン人入学拒否事件について(2)

東工大イラン人入学拒否事件に関連する外為法の条文は、251項「特定技術を特定国の非居住者に提供することを目的とする取引を行おうとする居住者は、政令で定めるところにより、当該取引について、経済産業大臣の許可を受けなければならない」である。問題となった原子炉工学研究所の取り扱う技術が政令の定める「特定技術」に該当するとするなら、問題は、当該イラン人が「特定国の非居住者」に該当するか、という点になる。

この「特定国」には外国為替令171項により、イランも含まれる。では、本件イラン人は「非居住者」なのだろうか。

外為法第6条によると、「非居住者」とは、「居住者以外の自然人及び法人」〈16号〉だ。そこで「居住者」の定義規定を見ると、15号が「本邦内に住所又は居所を有する自然人及び本邦内に主たる事務所を有する法人」と定めるから、本件のイラン人が「本邦内に住所又は居所を有する」かが問題となる。

しかし、外為法には、住所や居所の定義規定はない。その代わり、「居住者又は非居住者の区別が明白でない場合については、財務大臣の定めるところによる」(62項)と定めがある。ところが、居住者非居住者の区別を定める財務省令(大蔵省令を含む)はない。そこで一般法を見ると、民法は、「各人の生活の本拠をその者の住所とする」(22条)「住所が知れない場合には、居所を住所とみなす」(231項)と定める。この規定と、外為法第6条をあわせて読むと、「生活の本拠」が日本にある者は、国籍を問わず「居住者」になるし、そうでない者は「非居住者」となる。本件イラン人は、平成15年に来日し、平成20年に難民認定を受けて、平成22年に東工大に入学申請をしたというのだから、「生活の本拠」は日本にあるのだろう。そうだとすると、本件イラン人は「居住者」にあたる。だから、「特定国の非居住者」に対する技術情報提供を禁止する外為法の規定は、本件イラン人には適用されない。したがって、東工大が本件イラン人の入学を拒否する理由はない、ということになる。

ちなみに、経済産業省の発行する「安全保障貿易に係る機微技術管理ガイダンス(大学・研究機関用)改訂版」によると、「居住性の判断については、『外国為替法令の解釈及び運用について(蔵国第4672号昭和55年11月29日)』において定められています」(38ページ)とある。これによると、外国人の場合、原則は非居住者となるが、本邦に入国後6ヶ月以上経過するに至った者は、居住者として取り扱うとある。したがって、本件イラン人が、平成15年に来日して以来、国内に生活の本拠を持っていたのであれば、当然、「本邦に入国後6ヶ月以上経過するに至った者」に該当するから、「居住者」に当たるので、やはり、外為法は適用されず、東工大が本件イラン人の入学を拒否する理由はない、ということになる。

つまり本件の場合、「居住者・非居住者」を区分する基準を民法に求めても、大蔵省通達に求めても、結論は同じだ。ただ、注意してほしいのは、裁判所は、法律や政省令には拘束されるが、行政通達には拘束されない。だから、大蔵省通達は、裁判所の解釈の参考になるだけだ。

東工大が本件イラン人を入学させるにあたり、背後関係を調査することは許されるだろうし、一定以上怪しい点があれば、それを理由に入学を拒否することもできるだろうが、特に問題がないのに、イラン国籍であるとの一事をもって、入学を拒否したというのであれば、国籍を理由とする不合理な差別であるとの批判は免れないから、憲法に違反するとした東京地裁判決は、結論において正しい、と考えられる。

ではなぜ、東工大は、入学させるのに何の法的問題もない本件イラン人の入学を拒否したのだろうか。

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コメント

いつも拝見させていただいております。ta-kunです。
まだ続きがあるようなのでこのタイミングで質問していいのか微妙ですが( ̄Д ̄;;
憲法には「全ての国民に対して・・・」という文言から始まりますが、この難民認定を受けたイラン人の方は国民になるのでしょうか?
色々調べてみると、国民=国籍保有者らしいですが、となると、国籍を保有するには憲法第10条及び国籍法によって法務省に認定される必要があると思うのですが・・・。
それとも居住者=国民と解釈してもいいのでしょうか?

難民条約及び外務省のパンフレットを見ても特に書いてないと思うのですがいかがでしょうか?

予想ですが、国籍扱いを不当として裁判を起こしたということは国籍はイランにあるのでしょうね。。

もしよろしければご教授ください。

投稿: ta-kun | 2011年12月27日 (火) 12時11分

判例上、在留外国人にも憲法上の人権が保障されるとされています。未確認ですが、教育基本法上の「国民」も同様だと思います。理屈としては、憲法上の人権は「天賦人権」といって、人が人である故に有する権利であり、国籍によって与えられるものではないからです。但し、外国人であることを理由とする合理的な差別は許容されます。

投稿: 小林正啓 | 2011年12月29日 (木) 07時42分

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