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2011年12月20日 (火)

従軍慰安婦問題と日韓の司法制度

訪日した李明博(イ・ミョンバク)大統領は1218日、野田首相に対し、いわゆる従軍慰安婦問題の解決を要求し、解決済みとする野田首相との議論は平行線に終わった。

各紙の解説によると、李大統領の強硬姿勢は、「(慰安婦問題を解決しようとしない)政府の不作為は憲法違反」とした韓国憲法裁判所の判決に基づくものだという。

憲法裁判所の制度は、韓国在均(シンジェグン)弁護士によると、1988年に制定された現行憲法によって施行された。韓国の憲法裁判所は、①違憲法律審判、②弾劾審判、③政党解散審判、④権限争議審判、⑤憲法訴願審判を担当するという。

①違憲法律審判権は、日本の裁判所が持つ違憲立法審査権と同じで、特定の法律が憲法違反であるとして、無効にする権限であり、②弾劾審判は、大統領を初めとする政府高官を、国会の訴追に基づき弾劾する権限、③政党解散審判は、民主的基本秩序に反する政党の解散を命ずる権限、④権限争議審判は、国家機関相互間や、国家機関と地方自治体間の紛争を解決する権限である。

従軍慰安婦問題で憲法裁判所に申し立てられたのは、⑤の憲法訴願審判だ。これは、「公権力の行使または不行使によって…国民の基本権が侵害されている場合に、国民が憲法裁判所に対して自分の基本権の救済を要求する制度」であり、この訴えに基づき、憲法裁判所は、公権力の行使を取りやめさせたり、違憲の確認をしたりできる。制度発足以来、1998430日まで3607件の憲法訴願が受け付けられ、このうち、国民の訴えを受け入れて権利を救済したのは159件という。国民側の勝訴率にして4.4%である。

国立国会図書館海外立法情報課藤原夏人レポートによると、2011830日、韓国憲法裁判所は、いわゆる従軍慰安婦と原爆被害者をそれぞれの請求人とする2つの憲法訴願審判において、両審判共に、裁判官9人中6(違憲)対3(却下)の意見により、「(1965年の日韓協定)の解釈をめぐる争いについて、韓国政府がそれを解決するための手続を履行しないこと」が違憲であるとする決定を下した。

この判決を受け、韓国政府は、日本側への積極的な働きかけを行う意思を表明したと、レポートは結んでいる。つまり、韓国憲法裁判所の決定は三権分立原理に基づき、行政府を拘束した。行政府の長である李大統領の強硬姿勢は、この憲法裁判所の決定に基づくものであり、韓国の法制度からすれば、当然のことになる。

さて、日本に憲法裁判所はないから、国民がいきなり最高裁判所に訴えを起こすことはできないが、憲法上、日本の裁判所にも、違憲立法審査権と三権分立が保障されている。だから、日本国民も、裁判所に対して、政府の作為または不作為が憲法違反であると訴えることは可能だし、裁判所がこれに応えて違憲判決を書くことも可能だし、それが確定すれば、政府を拘束するはずだ。

すなわち、たとえて言うなら、従軍慰安婦問題に関する韓国最高裁判所の決定は、日本の最高裁判所が、北方領土問題の解決に及び腰の日本政府の態度は、かつて択捉島の住民だった日本国民の基本的人権を侵害し違憲であると判決することであり、あるいは、北朝鮮による日本人拉致問題に及び腰の日本政府の態度は、拉致され戻って来られない日本人の基本的人権を侵害し違憲であると判決することであり、あるいは、普天間基地の問題の解決に及び腰の日本政府の態度は、基地周辺住民の基本的人権を侵害し違憲であると判決することである。

韓国の憲法裁判所は、わずか4.4%だが、そのような判決を書いてきた。では、日本の裁判所は、1%でも、このような判決を書くだろうか。万一書いたとして、日本の首相は、李大統領のように、きっぱりと判決に従うだろうか。

断っておくが、私は、従軍慰安婦問題に関する韓国憲法裁判所の決定それ自体に賛否を表明するつもりはない。北方領土、拉致、基地問題も同様だ。

私が問題にしたいのは、制度に多少の違いこそあれ、司法の違憲審査権と、三権分立による司法権の優位が、同じく保障された両国制度を比較したとき、どちらの国の制度が憲法に忠実に、憲法上より健全に機能しているのか、という点である。

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