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2011年12月21日 (水)

交通事故訴訟10年で5割増の謎

交通損害賠償における実務の現状』(判例タイムズ1346号)で、興味深い記述に当たった。交通事故訴訟件数が増えているというのだ。

東京地裁の中西茂判事によると、平成22年度における東京地裁の新受件数は1485件で10年前の1.5倍。簡易裁判所からの控訴事件が増えているという。大阪地裁の田中敦判事によると、平成22年の新受件数は1091件で5年前の1.2倍。簡易裁判所の控訴事件の増え方は、この5年で約2倍の68件という。

交通事故の訴訟件数が10年で5割増えたというのだが、総務省統計局の資料によると、平成12年の93万件余から平成21年の73万件余へと、この10年間、交通事故数は減少している。死者数は11千人余から5千人弱へと半減、負傷者数も115万人余から91万人余へと漸減している。つまり、事故数・被害者数とも2割程度減少しているのに、訴訟件数は5割増しになっているのだ。これは、なぜだろう。

人身自動車事故で、訴訟にまで発展するのは、重大事故すなわち、死亡事故や、後遺障害がのこる事故である場合が多い。このうち、死亡事故が減少していることは上記の通りだが、後遺障害認定数は、平成17年の58千人余から平成21年の67千人弱へと漸増している(自動車保険データにみる交通事故の実態(2009年度日本損害保険協会)。だから、後遺障害認定者数の増加が、訴訟件数増加の一因であるとの仮説は成り立つ。だが、訴訟件数が5割増しにもなる根拠としては、いかにも弱い。

また、増加率で注目されるのは、簡易裁判所からの控訴事件の増加(10年間で倍増)である。簡易裁判所は、140万円以下の事件を管轄するので、係属する交通事故事件の多くは、物損事故と推測される。物損事故訴訟で、多く争われるのは過失割合だ。そして、過失割合は、当事者の納得を得られにくい。不思議なことに、金額で妥協できても、過失割合で妥協できない当事者はとても多い。簡易裁判所の交通事故事案は判決の割合が高い(=当事者が和解に応じない)という両裁判官の指摘も、多くが物損事故であることを示唆している。

弁護士としての経験に照らしても、金額が少ない割には、物損事故は揉めやすい。また、当事者がお互い相手の非を主張して譲らないため、保険会社の示談担当者がさじを投げる例が多い。最近の自動車保険には、弁護士費用特約付きが多いから、本来弁護士費用倒れになってしまう事件でも、気軽に弁護士に依頼することができる。こうして、物損事故が訴訟化する件数が激増している、と考えられる。

もっとも、激増と言ったところで、大阪地裁では5年で倍増の68件、というのだから、全事件数1091件に比べたら、極めて少ない。したがって、物損紛争の増加も、交通事故訴訟件数が10年で5割増えていることの原因としては、弱いことになる。

こうしてみると、交通事故数、被害者数、後遺障害者数、物損紛争の増加、いずれも、交通事故訴訟がこの10年で5割増えた原因ではない、ということになる。

ところで、この10年間に、1.68倍になったものがある。それは弁護士の数だ。日弁連の統計によると、平成12年の全国の弁護士数は17126人で、平成22年のそれは28789名。Googleで「交通事故」を検索すると、法律事務所の広告が目白押しである。もちろん、これだけで、弁護士数の増加と交通事故訴訟数の増加を結びつけるのは早計だが、全然無関係とも言い切れない。

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コメント

私の建設業界の建築士・建築施工管理技士の合格率はさておき、日本の年間の交通事故負傷者数を91万人、日本の人口を12.5,75億人として計算してみると0.9928..という数値。年間1%近い方々が何らかの事故に遭う確率。

投稿: 智太郎 | 2012年7月27日 (金) 11時30分

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