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2011年12月 2日 (金)

大動脈解離顛末記(1)

悪魔が私を背中から抱きしめた。その冷たい両手が、下腹部から腰部を包み込むように触れた。

20101113日正午。私は羽田空港第一ターミナル内トイレの個室にいた。

「痛み」と一言では表現できない、経験したことのない種類の感覚に、悪寒が走った。単純な痛みではない。重い衝撃が腰椎の周辺に走り、下腹部から腰周りの筋肉が、すさまじく緊張して、全力で収縮したまま固まった、そんな感じだ。下品だが「金玉が縮み上がった」という表現が近い。

「下痢か?」と思ってしばらく頑張ったが何も出ないのでトイレを出る。手を洗いながら鏡を見ると、顔が異様に青白い。重い痛みは続いていたが、歩くのに支障はない。

1210分、徒歩で搭乗ゲート前に着き、待合の椅子に座るが、痛みは増す一方。脂汗が出はじめていた。

搭乗予定だったのは、1230分発の伊丹空港行きJALだ。15分には搭乗が始まる。当面の問題は、この飛行機に乗るか否かだ。

異常な腰と下腹部の痛みに、そのときの私は、「ぎっくり腰」の可能性が一番高いと考えていた。だが、「ぎっくり腰」は経験したことがないので、この痛みが「ぎっくり腰」か否かは分からない。もし「ぎっくり腰」なら、無理をおして飛行機に乗り、伊丹空港で車椅子に乗るなり、医者に行くなりすればよい。多少痛くても、笑い話で済む。しかし、この症状は本当に「ぎっくり腰」なのか。「ぎっくり腰」なら、トイレから搭乗ゲートまで、なぜ歩けたのか。もし「ぎっくり腰」ではなく、何か重大な病気で、しかも痛みが悪化したらどうなるのか。「どなたか医師のお客様はいらっしゃいませんか」とCAが尋ねて回るドラマのような展開になるのか。

この痛みが、何か重大な病気なら、搭乗をキャンセルするしかない。だが今更キャンセルしても、払い戻しは受けられない。15000円はもったいないし…。

どうしよう、と5分ほど逡巡した後、こうひらめいた。

「この飛行機は、墜ちる。」

この痛みはきっと、飛行機に乗るな、という神の啓示に違いない。神は私に、生きろ、という啓示を下さったのだ。無信心のくせに、無理矢理こう考えて割り切ることにして、地上係員にキャンセルと医務室への案内を依頼した。目の前で乗客が搭乗ゲートを通り、タラップに向かって進んでいた。

内心のこととはいえ、この飛行機に搭乗した方々には、申し訳ないことを考えたものだ。

私の「ひらめき」は半分当たり、半分間違っていた。飛行機に乗らない判断は正解だったが、墜落したのは飛行機でなく、私だった。

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