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2012年1月12日 (木)

日弁連会長選挙の解説と予想

111日、日弁連会長選挙が公示され、現職の宇都宮健児弁護士含む4出たそこで、ごく簡単に、この4名の立ち位置を解説したい。客観的な論述に終始するつもりだし、支持不支持は表明しないが、そこは人間、自ら限界はあるのでご容赦いただきたい。なお弁護士名を列挙するときは基本的に五十音順とした。

まず注目される点として、いわゆる「旧主流派」から、尾崎純理岸憲司2氏が出馬予定である。これは、ここ30年の流れで言うと、前回の選挙までは合同して旧主流派を形成していた左翼系(尾崎候補)とビジネス系(山岸候補)が離縁したことを意味する。

東西冷戦時代、弁護士会は左翼系が牛耳っていたが、高度経済成長に伴いビジネス系が勃興し、1980年代後半には、両者拮抗して激しく対立した。1986年(昭和61年)の日弁連会長選挙では、ビジネス系の代表であった東京の児島平候補を破り、神戸弁護士会(現兵庫県弁護士会)の北山六郎候補が勝利して「波乱」と報じられた(この分析については「日弁連はなぜ負けたのか」を参照されたい)。87年には、スパイ防止法案に対する日弁連の反対決議に対し、100人を超えるビジネス系弁護士が、弁護士会の目的を逸脱するとして提訴した。さらに、翌88年には、ビジネス系弁護士2名と左翼系弁護士の三つ巴となり、左翼系の藤井英男氏が僅差で勝利した。

しかしこれらの闘争は、対外的には弁護士会の力を弱めただけだった。1990年(平成2年)の日弁連会長選挙では、左右共同して中坊公平氏を推し、圧倒的多数で当選させた。左翼系の土屋公献会長への「揺れ戻し」もあったが、その後の日弁連会長は基本的に、左翼系とビジネス系が合同して形成した主流派から選出され、地域的には東京三会と大阪の持ち回りになっていたし、人事的には、ビジネス系の会長と、左翼系の事務総長という組み合わせが多かった。

今回、尾崎・山岸の二氏が出馬したことは、この「旧主流派」が左翼系とビジネス系に再分裂したことを意味する。ほぼ20年間同居していたため、選挙公約はとても似通っているし、多くの派閥や大手法律事務所も、様子見と再合同の可能性を見込んで両者を均等に支持している(まるで関ヶ原の戦い当時の真田家だ)から見分けにくいが、子細に見れば政策の違いはある(尾崎陣営の政策課題の最後には「憲法の維持、平和主義…核兵器の廃絶を求めます」とあるが、山岸陣営には、その種の政策課題がない)し、主だった支持者を見れば、色分けは可能だ。

政策にさほど違いがないのに、なぜ分裂したか。理由は簡単で、合同しても勝てる保証がないからだ。もともと相容れない立場が、トップ人事独占の保証があるから共闘していただけなので、宇都宮健児氏がその保証を帳消しにしてしまった今、共闘する理由がなくなったのである。

森川文人氏は、いわゆる「一条の会」からの出馬だ。「一条の会」は、歴史的には、上記の左右合同の過程で、ビジネス系と妥協することを潔しとせず、旧来の左翼系から分裂した集団と位置づけられる。この「一条の会」は、この10年近く高山俊吉氏を推していたが、今回同氏が出馬できないため、森川氏が出馬することになったのだろう。

高山俊吉氏は演説の名手であり、司法改革路線に不満を持つ若手浮動票を集約して、立候補の度に票を伸ばし,2008年選挙では旧主流派候補と拮抗するほどだった。だが今回は、森川氏の知名度の低さや、宇都宮・尾崎・森川三候補間で票の取り合いになる可能性が高く、苦戦が予想される。

さて、日弁連史上初の二期目に挑む現職の宇都宮健児氏だが、弁護士業界用語でいう「消費者系」に属する。消費者や社会的弱者などを動員した市民運動の名手であることは、昨年・一昨年の給費制運動や、さらに前の「派遣村」から明らかだ。

宇都宮候補と旧主流派の対立軸は、一見イデオロギー的に見えるが,そうではない。旧主流派との対立軸となるのは、政府(最高裁や法務省を含む)と協調路線を取るか、対決路線を取るかの違いである(もちろん、協調といい対決といっても、是々非々であることに違いはない。違いは程度問題である)宇都宮氏自身、このように述べている

「宇都宮執行部は最高裁とか国とかと緊張関係を作った、そういう批判も耳にします。でも緊張関係を作らないで日弁連の政策が実現できるのか、ということですね。司法修習生の給費制を貸与制に移行する裁判所法改正を止められなかったのは誰なのかということですね。当時、もっと最高裁や国とうまく仲良くやれていたら給費制は維持できたのか、ということなんですよ。しかし実態は、国や最高裁に押し込まれて、とうとう最後は貸与制を導入する裁判所法の改正をされてしまった。そのときに国民や市民に訴えて、しこたま闘わなかったんですね。そういうような手法で、果たして今の難局で日弁連の主張を認めさせることができるのか、と。特に予算がらみの問題は財務省を相手にしなきゃできないですから。財務省を相手に闘うっていうのは、相当、大きな運動をやらないとなかなか突破できない。だから官僚と仲良くして打開できるという手法には限界があるっていうことです。」この立場を是とするか非とするかで、旧主流派を支持するか、宇都宮氏を支持するかは分かれるのだろう。森川氏はもちろん対決路線だ。

選挙の見通しだが、現職が再出馬する以上、その評価が最大の論点となる。宇都宮氏は前回、歯切れの良い公約で大量の浮動票を獲得したが、この2年間で達成できたことは少ない。だが、給費制を初め、旧主流派の候補にできなかったことを、いくつか実現したことも事実だ。失望を取るか、期待を取るかの問題となる。特に、前回選挙で宇都宮候補を圧倒的に支持した地方単位会の動向が注目される。

支持者層的には、宇都宮、尾崎、森川3候補の支持者が重なり合っているため、票の奪い合いが起きるだろう。ブログを見ると、同じく旧主流派なのに、山岸氏ではなく尾崎氏に対する批判の方が多いのは、批判者が、宇都宮氏・森川氏どちらかの支持者だからだ。

組織論的には、消費者系弁護士と給費制運動のネットワークが、宇都宮候補を支持する。一方旧主流派には、派閥を通じた全国にまたがる組織票がある。だが両者にとって読み切れないのは、50期以降の浮動票の行方だ。特に、前回は地滑り的に動いた大阪の若手浮動票が、今回どう動くかが注目される。

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