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2012年2月29日 (水)

2月29日生まれの彼女には,閏年でない年の何月何日にプレゼントを渡すべきか?

この問題についての法律解釈は,次のとおりとなる。

まず,年齢計算に関する法律,という明治35年に制定された法律があり,この1条には,「年齢ハ出生ノ日ヨリ之ヲ起算ス」とある。これにより,年齢は,何時何分生まれかを一切問わず,生まれた日を第1日目として数え始めることになる。

次に,この法律の2条が準用する民法143条によると,1年間という期間は,「起算日に応当する日の前日に満了する。ただし,応答する日がないときは,その月の末日に満了する」とある。

つまり,例えば4月1日から1年間を起算するときは,翌年の3月31日の満了をもって一年経ちますよ,というわけだ。まあ,当たり前ですね。

ここからが少しややこしい。4月1日生まれの人は,翌年の3月31日の深夜12時に一つ年を取る。これは同時に4月1日の午前0時だが,法律上は,あくまで3月31日に一つ年を取るのだ。

2月29日生まれの人は,この条文により,応当する日である2月29日がその翌年には無いので,その月の末日,つまり2月28日深夜12時をもって一つ年を取る,ということになる。

以上のとおり,法律上は生まれた日の前日に一つ年を取るのだが,普通,年を取った日の翌日(つまり,生まれた日)に誕生祝いをするのが一般的だ。すると,2月29日生まれの人が一つ年を取るのは,2月28日深夜12時だが,誕生祝いをするのは,3月1日ということになる。

従って問題についての答えは,プレゼントを渡すべき日は3月1日ということになる。

これが法律解釈としては正しいはずだが,感情的にはどうもしっくりこない。だって,2月29日と3月1日の両方が誕生日になる人は,2月生まれか3月生まれか分からなくなって,占いなどでも困るだろう。どちらかといえば,2月28日にプレゼントを渡した方がいいような気がする。3月1日説は,誕生日を忘れてしまって彼女に責められたときの言い訳に取っておこう。(2008年2月29日の記事再録)

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2012年2月27日 (月)

「むやみに」と「みだりに」と「みだらに」

問題です。市営バス運転席の貼り紙として、正しいのはどれでしょう。

①「運転手にむやみに話しかけないでください」
②「運転手にみだりに話しかけないでください」
③「運転手にみだらに話しかけないでください」

大阪府堺市が、「堺市防犯カメラの運用等に関するガイドライン(案)」について、パブリックコメントを求めている。「むやみに」はその案文中以下の2箇所、使われている。

  人には、むやみに自分の姿や行動を撮影されない自由(プライバシー)がある。

  設置者等、管理責任者および操作担当者は、防犯カメラの画像と、画像から知り得た個人に関する情報をむやみに人に漏らしてはならない。

この「むやみに」の使い方は正しいだろうか。

『大辞林』によると、「むやみに」の意味は「①結果を考えずに行うこと。あとさきを考えずにすること。また、そのさま②度を超しているさま」とある。

一方、「みだりに」の意味は、「①(規制などを受けずに)勝手気ままなさま。ほしいまま②考えの浅いさま。思慮のないさま。無分別③『みだらに』に同じ④秩序のないさま。筋道の立たないさま。」とある。

これでは、ニュアンスの差はよく分からない。そこで冒頭の問題に戻るわけだが、「むやみに」と「みだりに」では、どちらが、話しかけることに対する規制の度合いが強いか。これは、「みだりに」の方が強いだろう。つまり、「みだりに」は「用がないのに、必要が無いのに」という意味だが、「むやみに」は「必要が無くても良いが、限度を超えてはいけない」という意味になる。平たくいうと、運転手と天気の話など世間話をすることは「むやみに」には当たらないが、「みだりに」には当たりそうだ。そうだとするなら、乗客や通行者の安全を守るという目的に照らせば、正しい言葉遣いは「むやみに」ではなく「みだりに」だと思う。

ところで、「堺市防犯カメラの運用等に関するガイドライン(案)」で問題となるのは、プライバシー権との調整問題だ。このプライバシー権は、最高裁の判例によって、憲法に由来する基本的人権とされており、判決文上、このように表現されている。

何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態(以下「容ぼう等」という。)を撮影されない自由を有する。

ここで使われているのは「みだりに」であって「むやみに」ではない。また、「法令検索システム」で検索すると、「みだりに」を使用する法令は147件あるが、「むやみに」を使用する法令は存在しない。

以上からして、本ガイドラインに「むやみに」を用いるのは、法令に使用する言葉としては異例だし、最高裁判所の判例に照らしても問題がある。まして、「みだりに」と「むやみに」のニュアンスの違いを意識してあえて最高裁判例と異なる表現を用いたというのであれば、このガイドラインは当該判例を実質的に曲げようとするものであり、判例違反として違法無効になる可能性がある。

そう思ってパブコメを投稿したが、採用してくれるでしょうか。

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2012年2月24日 (金)

弁護士会広報と裸の王様

日弁連の機関誌『自由と正義』20122月号は、「弁護士会広報を考える」という特集記事を組んだ。いま、弁護士会広報のありかたは、日弁連はもちろん、各地の弁護士会にとって、重要な政策課題になっている。だが、一般市民には、弁護士会が何を広報したがっているのか見えないし、弁護士会自身、どうすればいいのか分かっていないのが現状だ。

20118月、日弁連法務研究財団は、「日本の弁護士のイメージ」に関するインターネット調査の結果を発表した(JKL叢書18号 商事法務)。これによれば、国民の持つ弁護士のイメージは、「庶民の味方でも敵でもなく、弱者の味方でも敵でもなく、正義の味方でも敵でもなく、尊敬できるともできないともいえず、どちらかといえば頼りになり、国際的に活躍しているともいえないともいえず、あこがれを感じるとも感じないともいえず、親切だとも親切でないともいえない」。また、「どちらかといえば大企業の味方で、どちらかと言えば金持ちの味方で、悪者の味方とも敵ともいえず、国・行政の敵とも味方ともいえず、どちらかといえばずるがしこく、どちらかといえば偉そうにしている」との集計結果が出た。これについて、上記レポートは、「弁護士の自己認識と大きく乖離しているイメージであるとの意見が出た」としている。

『自由と正義』の上記特集を企画した、日弁連広報室長の生田康介弁護士は、この調査結果を「少なからずショッキングな結果」であるとして、日弁連広報の目的を「人権擁護」「弱者救済」「反権力」「在野」などの弁護士のイメージを市民に理解してもらうことと位置づけている。

どう思われるだろうか?私は、とんだお笑いぐさだと思う。一般国民から見れば、弁護士が「ショッキングと思う」ことがショッキングではないだろうか。

「どちらかといえば大企業・金持ちの味方で、庶民・弱者・正義の味方とはいいきれない」という一般国民のイメージは、かなり正確に弁護士の実態を把握していると思う。庶民や弱者の訴訟代理人弁護士が50人いれば、対する大企業や金持ちの代理人弁護士も50人、というより、大事務所が付くため100人くらいになるのだから。一方、「人権擁護・弱者救済・反権力・在野」という「自己認識」は、一部の弁護士の実態にすぎず、そうでなければ、一部の弁護士がもつ「理想の弁護士像」にすぎない。つまり、いずれにせよ、弁護士一般のイメージとしては、虚像でしかない。だとすれば、生田広報室長が語る弁護士会広報の位置づけは、正確に事実を把握している国民に対して、虚像を理解してもらおうとする試みとなる。たとえるなら、子どもに向かって、「朕は素晴らしい着物を着ているのだぞ」と説得し、「どうしたらこの素晴らしい着物が見えるようになるのだろう?」と悩むようなものだ。

滑稽なだけの広報なら、やめた方がよいぞ。

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2012年2月22日 (水)

炭素繊維に対する外為法による輸出規制

鉄より軽く、かつ強い素材である炭素繊維は、日本で生まれた技術であるため、輸出規制が厳しいとされている。輸出規制品を定める輸出貿易管理令に基づき輸出規制品の仕様を定める輸出等省令(輸出貿易管理令別表第及び外国為替令別表の規定に基づき貨物又は技術を定める省令によると、「炭素繊維」という言葉が出てくるリスト規制は、次の箇所だ。

2項(原子力関連)
4
項(ミサイル関連)
5
項(先端材料)
13
項(推進装置)

このことから、炭素繊維はすべて輸出規制品との誤解が出てくるようだが、実はそれほどでもない。規制の多くは、炭素繊維を原材料とする製品や炭素繊維の製造装置であって、炭素繊維そのものが規制対象となっているのは、次の二つしかない。

輸出等省令1条(原子力関連)22号ロ
1)炭素繊維…であって、次のいずれかに該当するもの
1
 比弾性率が1270万メートル以上のもの
2
 比強度が235000メートル以上のもの

輸出等省令4条(先端材料)15号ロ
炭素繊維であって、次の(1)及び(2)に該当するもの
1) 比弾性率が1465万メートルを超えるもの
2) 比強度が268200メートルを超えるもの

このうち、純粋に炭素繊維の仕様のみが規制対象となっているのは、後者の省令4条(先端材料)15号ロだけである。前者の省令1条(原子力関連)22号ロは、「(ウラン濃縮用)ガス遠心分離器のロータに用いられる構造材料」であることが要件だから、この構造材料としてのスペックを充たさない炭素繊維は、比弾性率や比強度が省令所定のものであっても、輸出規制品とはならない。

また、刑法理論上、省令122号の炭素繊維について許可申請義務違反が刑事処罰されるためには、当該炭素繊維が「ガス遠心分離器のロータに用いられる構造材料」であることについて、故意が必要である。少なくとも、その可能性の認識は必要だ。したがって、輸出先でガス遠心分離器のロータに用いられるという認識がおよそない場合はもちろん、他の構造材料(例えば航空機の部品)に使用されると認識していた場合、本条項の違反による刑事処分は科されない。

なお、上記はリスト規制であり、キャッチオール規制としては、輸出貿易管理令別表一の16項が炭素繊維を挙げ、輸出等省令もその要件を限定していない。したがって、米国などホワイト国以外への輸出については、どんな低性能の炭素繊維でも、規制の対象になり得る。ただし、キャッチオール規制の対象になるためには、「核兵器等の開発等のために用いられるおそれ」があり、そのことを輸出者が知りまたは経産省から通知をうけた場合に限られる。結論としては、炭素繊維だからといってキャッチオール規制に抵触することは、滅多にないだろう。

ちなみに、JETROのホームページ上、輸出等省令415号ロに該当する炭素繊維について、「及び」を「あるいは」と書き間違える等の誤記があったが、指摘したところ、現在は修正されている。過去このページを参照された方は注意されたい。

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2012年2月21日 (火)

大学生支媛機構、新人弁護士を大量採用へ

独立行政法人日本学生支媛機構は、新人弁護士200人を採用すると発表した。報酬は完全出来高払いで、回収金額の約3割。「想定される最高年俸は3000万円」(日本学生支媛機構人事広報担当)という。

日本学生支媛機構は、主に学生に対する奨学金貸与事業や留学支援などを行っている。平成23年度の貸与額は新規と継続分を合わせて10781億円(予算ベース)で、127万人に貸し付けたが、長期不況を反映して延滞額も増え続けている。これに伴い、返還請求訴訟も増加し、平成24年度の提訴件数は1万件を超える見込み。この訴訟担当弁護士が足りないため、募集に踏み切ったもの。

一方の新人弁護士は、司法制度改革により司法試験合格者が大幅に増加したことと長引く不況のため、就職氷河期を迎えている。弁護士になるためには司法試験に合格した後1年間の司法修習を受け、先輩弁護士の法律事務所に就職するのが一般的だったが、平成23年度末現在、司法研修所卒業生約2000人のうち約400人の就職が決まっていない。その多くは法科大学院の授業料として数百万円の奨学金を抱えている上、司法研修中の生活費が給費制から貸与制になったため、貸与金約300万円が借金に加わる。「弁護士になって最初の仕事が自分の破産」というジョークが、新人弁護士の間では半ば本気でささやかれている。

「新人弁護士募集は、奨学金滞納問題と新人弁護士の就職問題を一挙に解決する妙案」と胸を張るのは、日本学生支媛機構人事広報担当者。試算では、弁護士1人あたりの提訴件数は年50件。請求金額は1件平均で約200万円なので、「全額回収すれば、弁護士報酬は年3000万円」になるという。

ただし、奨学金を滞納する理由の多くは経済的困窮。勝訴判決を得ても回収できなければ弁護士報酬もゼロ。就職できず自宅で開業した新人弁護士は、「是非学生支媛機構に就職したい。奨学金の回収は困難だろうが、自分も奨学金と貸与金を返済しなければならないので必死。地獄の果てまで追いかけるくらいの意気込みで臨みたい。」と抱負を語った。

一方、就職浪人の弁護士を使って奨学金を回収させることには批判もある。貧困問題に詳しい評論家の雨官処凛氏は、「典型的な貧困ビジネス」と吐き捨てた。

注;このエントリは、完全なフィクションであり、実在の団体及び個人とは一切関係ありません。なお、参照した記事はこちら

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2012年2月20日 (月)

「原子力損害賠償紛争解決センター」と善意の愚行

原子力損害賠償紛争解決センターでの事件処理が進まない。217日の毎日新聞によると、9月の受け付け開始から215日までの申立件数948件のうち、解決したのは5件、つまり0.5%だ。記事は、遅れの原因として、「これまでの手続きでは、東電側の消極的な姿勢が際立っていた一方、前例のない原発事故で和解を導くのに慎重にならざるをえないセンター側の事情」を挙げている。どんな理由があるにせよ、このセンターは、原発事故被害者に対する救済機関としては、失格の烙印を免れない。

本当に愚かなことだと思う。少なくとも弁護士の立場から見た場合、あまりの愚かさに、言葉もない。

私は原発事故直後から、日弁連の偉いさんに向かって、「1億円でコンピューターを買え」と言い続けたが無視された。東電に対する損害賠償請求権をもつ者は、少なく見ても数十万人に達する。この人たちが個別に訴訟を起こせば、巨大な東京地裁の庁舎をもう一つ建てても追いつかない非常事態だ。だから日弁連は、裁判所と協力して、数十万人以上の原告を複数のグループに分類し、訴訟を円滑に管理する責任があった。そのためには高価なコンピューターを購入する必要がある。そのうえで、全ての事件に、最高の弁護士と法律家、原子力発電や安全工学に関する世界最高水準の学者を投入し、可能な限り早期に、東京電力の過失の有無と因果関係の及ぶ範囲を確定させるのだ。巨額の費用が必要だが、2011年春から夏の関東・南東北の街頭に宇都宮会長以下の弁護士が立ち、東京電力に対する訴訟支援金の募金活動を行えば、数億円以上の金が、あっという間に集まっただろう。

繰り返すが、私の提案は、完全に無視された。その代わり日弁連が行ったのは、原子力損害賠償紛争解決センターの設置だった。

裁判以外に、迅速を旨とする救済機関を設けること自体には、私も反対ではない。たとえるなら、交通事故訴訟と自賠責保険の関係だ。訴訟はどうしても時間がかかるから、当面の支援を裁判外機関に委ねることは、被害者救済の視点から重要である。

この場合、救済機関に課せられた最も重大な使命は迅速性だ。端的に言えば、被害者であることと被害内容について、一応の証明があれば現金を支払い、後は、誰にいくら支払ったのかを記録すれば、それで十分である。過不足があれば、裁判所に解決させればよい。紛争の最終解決はあくまで裁判所主体で行うのが、法の支配というものだろう。

だが、役人と弁護士が作ったのは、裁判所のような緻密で慎重な紛争解決機関だった。その結果が、半年でたった0.5%の解決率だ。緻密な制度を作った結果、被害者救済がおざなりになった。馬鹿げた皮肉である。役人は、あえて救済範囲を狭めようとしているのかもしれないが(それなら是非はともかく、目的と手段は一貫している)、弁護士はそうではあるまい。そうだとするなら、原子力損害賠償紛争解決センター設立に関わった弁護士は愚かだ。ものすごく馬鹿である。しかも、善意に基づく愚行だから始末に負えない。

語弊をおそれず言うなら、今回の原発事故は、司法すなわち裁判所と日弁連が、その存在意義を国民に知らしめる、おそらく最後のチャンスだった。裁判所の及び腰と、日弁連幹部の愚かさが、このチャンスをみすみす見逃したのである。

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2012年2月17日 (金)

平成24年度日弁連会長選挙第1回投票結果の分析(5 終)

再投票が決まった平成24年度日弁連会長選挙で、現職の宇都宮候補が勝利するためには、東京3会と大阪の4単位会で、山岸陣営の動員力を低下させることと、これらの単位会で効率よく若手浮動票を取り込む必要がある。

だが、宇都宮陣営としても、若手浮動票の取り込みが可能なら、第1回投票で実現している。そこで問題は、なぜ今回、若手浮動票の支持を得られなかったのか、ということになる。

理由はおそらく二つある。第一は、前回、法曹人口問題の解決を期待して投票した若手の失望だ。現職の宇都宮候補は前回、1500人にすると公約したのに全然実現しなかったし、旧主流派候補も1500人と公約しだしたので、争点が不明確になったということだろう。

若手の失望は理解できるが、『こん日』にも記載したとおり、日弁連は1998年ころ以降、司法試験合格者数を決定する法的権限を形式的にも実質的にも失っているので、たった2年の任期では、どうすることもできないのだ。だから、宇都宮会長が公約を実現できなかったと失望するのは、無いものねだりでしかない。まあ、実現できないことを選挙目当てで公約した方が悪いといわれれば、そのとおりだが。

2010年3月10日のブログに私はこう書い。「宇都宮新会長は、消費者問題では一定の成果を上げるだろうし、新たな切り口から法曹人口問題に切り込むかもしれない。しかし他方、従前の主流派がソフトランディングを目指して築いてきた人脈を失い、法務省や裁判所との信頼関係を破壊するかもしれない。そもそも日弁連は、法曹人口問題の当事者としての地位を失っているのだから、1500人にすると公約したところで、実行する権限が無いのだ。それを知らず宇都宮候補に投票した若手の支持は、程なく失望と反感に変わるだろう」。この予想は、まんま当たったようである。

現職の宇都宮候補が若手浮動票の支持を得られなかったもう一つの理由は、給費制活動が、若手にアピールしなかった点であり、これは私も予想外だった。受験生の友人をもつ若手弁護士にとって、給費制は重大な政策課題であり、特に64期の弁護士2000人は、宇都宮弁護士が会長になっていなければ給費を受けられなかった。若手数千人がこぞって現職を支持すれば、勝負にならなかったはずだ。宇都宮陣営にとっても、64期がこれほど「恩知らず」であることは想定外だったのではないか。

なぜそうならなかったか、私にも分からない。当然再選されると信じて投票しなかったのか、自分が合格した以上給費制などどうでも良いのか、合格者を絞ろうとする現職の動きに幻滅したのか、宇都宮陣営の背後から漂う左翼臭を敬遠したのか、仮説はいろいろ考えられる。いずれにせよ、再投票においては、これら5年目以前の若手を宇都宮陣営が取り込めるか否かが、勝敗の鍵になると思う。(終わり)

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2012年2月16日 (木)

平成24年度日弁連会長選挙第1回投票結果の分析(4)

再投票が決まった平成24年度日弁連会長選挙で、宇都宮候補が2800票差を覆すためには、単純に投票率を上げるだけではなく、山岸陣営の派閥の動員力を弱める作戦が必要だ。この作戦が大都市圏で奏功するほど、勝利の可能性が増すことになる。

下のグラフは、22年度日弁連会長選挙の第1回投票結果と第2回投票結果を比べ、宇都宮候補から見て有利に変化した単位会順にソートしたものだ。例えば大阪では、宇都宮候補は2回目で420票増やす一方、山本候補は2回目で177票失い、差引597票、宇都宮候補に有利に変化したことになる。一方東京弁護士会では、宇都宮候補は2回目で136票失ったが、山本候補は674票を失ったため、差引538票、宇都宮候補に有利に変化したことになる。このグラフで見ると、宇都宮候補は、大阪と東京三会の合計4単位会で、2000票差をたたき出し、逆転勝利に結びつけたことが分かる。

この4単位会のうち、天王山となるのは二弁だろう。今回二弁は、東弁や一弁に比べ弱いと言われる派閥の力を総動員して尾崎候補を推し、投票総数の過半数を集めたが、それも二弁限り。全国レベルでは大差で三位に甘んじたことで「どっちらけ」となり、再投票での投票率はかなり下がると予想されるからだ。また、尾崎陣営は、いわゆる旧主流派に属する点で山岸候補と共通するが、案外、近親憎悪が働いて、山岸候補には投票しない弁護士も多いと予想する(その意味では2800票差は、マックスとみるべきだろう)。一弁、大阪も、第1回目の投票率は5割から6割に留まるし、候補者の出身母体でもないため、派閥の動員力が弱まる可能性はある。

宇都宮陣営から見れば、派閥の動員力が弱まった大票田に斬り込み、若手浮動票を取り込むことが、2800票差を覆す戦略となる。

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2012年2月15日 (水)

平成24年度日弁連会長選挙第1回投票結果の分析(3)

平成24年度日弁連会長選挙は、前回に続き決着は再投票に持ち越されたが、宇都宮陣営にとっては厳しい戦いとなった。宇都宮陣営が森川票を取り込み、山岸陣営が尾崎票を取り込む前提で考えると、宇都宮陣営は、総得票数で2800票差を逆転するとともに、山岸支持単位会の増加を阻止する必要がある。

それでは、宇都宮候補が2800票差をひっくり返す条件は何か。

宇都宮候補の支持層は派閥の拘束が弱い若手と目されることから、勝利の条件として投票率の上昇を挙げる見解がある。しかし実は、投票率の高低と宇都宮候補の有利不利に相関関係はない。平成22年度・24年度の選挙で見る限り、投票率が高い単位会では宇都宮候補の得票率が高かった、という分析結果は出てこない。22年度第1回投票と第2回投票を比べてみても、総数ベースで第1回投票の投票率は63.88%、第2回投票の投票率は63.19%で、第2回投票の方が低いにもかかわらず、得票数で宇都宮候補は、2000票を積み増ししている。

しかし、分析を進めるうちに興味深い相関関係を発見した。それは、22年度選挙の第1回投票と第2回投票の投票率の変化と、宇都宮候補の有利不利には、明確な相関関係がある、ということだ。その相関関係とは、「2回目の投票率が下がった単位会ほど、宇都宮候補に有利」という関係である。つまり、国政選挙レベルでの常識に反し、「投票率が下がるほど革新派に有利」なのだ。

下のグラフは、平成22年度選挙の第1回投票と第2回投票の投票率の差が大きかった単位会順にソートをかける一方、単位会ごとの宇都宮候補の得票率の変動を調べ、両者の差を「宇都宮有利度」として表したものだ。この差が大きいほど(例えば、全体の投票率は大きく下がったが、宇都宮候補の得票率は大きく上がった場合)、宇都宮候補に有利と言えるからである。

このグラフによれば、大票田の東京弁護士会では、投票率が78.8%から64.63%14 ポイント減少する一方、宇都宮候補の得票率は35.24%から39.12%4ポイント上昇し、1398票差を、855票差に縮めた。このように、投票率の下がった単位会ほど、宇都宮候補に有利な結果が出ている。

国政選挙の「常識」とは異なる結果だが、派閥との関係から説明が可能だ。一言で言うと、派閥の動員力が強いほど投票率が高くなるので、派閥の推す候補が有利になるのである。

弁護士会の選挙には、冷戦時代の共産主義国の選挙みたいな側面がある。

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2012年2月14日 (火)

平成24年度日弁連会長選挙第1回投票結果の分析(2)

平成24年度日弁連会長選挙は、再選を目指す現職の宇都宮健児候補に、旧主流派から2名が挑む構図となった。平成22年度の選挙では、史上初の再投票の末、地滑り的勝利を収めた宇都宮候補だが、今回は、同じく再投票になったものの、大きく得票率を減らした。その得票率は、前回不出馬となった反主流派高山俊吉弁護士の後継として出馬した森川候補の得票率と合算しても、平成22年度第1回の得票率に及ばない。

このことは、再投票で宇都宮候補が勝利する条件としては、最低限、森川候補の支持者を全部取り込む必要があることを意味する。実際のところ、反原発のスタンスでは、宇都宮候補と森川候補の公約は似通っているから、日弁連の反原発活動を期待して森川候補に投票した弁護士の多くは、再投票では宇都宮候補を推すだろう。

しかし、再投票では、山岸候補も相当程度、尾崎候補の支持者を取り込む可能性がある(可能性の程度については後述する)。そこで仮に、24年度第1回投票結果の「宇都宮・森川」候補の得票数の合計と、「山岸・尾崎」候補のそれとを比較してみると、山岸候補は総得票数11276となって、8413票の宇都宮候補に2863票差で勝ち、獲得単位会数も23となって当選要件を満たす。

このことは、巷間言われているとおり、「山岸・尾崎が分裂していなければ、主流派候補は宇都宮候補に勝てた」ことを裏付けている。結果論だけどね。(続く)

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2012年2月13日 (月)

平成24年度日弁連会長選挙第1回投票結果の分析(1)

平成24年・25年度日弁連会長選挙第1回投票では、現職の宇都宮候補が、37単位会を制したものの、総得票数では山岸候補に及ばなかった。一方の山岸候補は、12単位会しか制することができず、当選要件である18単位会以上の支持を獲得できなかった。その結果、史上二度目の再投票が決まった。

これは、前回(平成22年・23年度)の再来だろうか。前回と同様、宇都宮候補は、2回目の投票で地滑り的勝利を収めるだろうか。

データを分析してみると、そうでもないことが分かる。

下のグラフは、前回の選挙(第1回、第2回)と今回の選挙とで、宇都宮候補の得票率を比較してみたものだ(見やすくするため、前回の再投票の得票率順としている)。これをみると、今回の宇都宮候補の得票率は、前回再投票はもちろん、前回の第1回投票結果をも大きく下回っていることが分かる。前回の2名に比べ、今回は4名も候補がいるから得票率低下は当然という見方もあるが、森川候補の得票率と合算しても、まだ平成22年度の第1回投票に及ばない。総得票数における得票率で見ると、次のとおりだ。

平成22年度(1)  47.32%

平成22年度(第2回) 54%

平成24年度(単独)  33.56%

平成24年度(森川候補と合算) 42.73%

このことは、宇都宮候補が、前回の力を発揮できなかったことを示している。(続く)

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2012年2月 9日 (木)

2月10日は日弁連会長選挙の投票日です

日弁連会長選挙の投開票日を明日に控え、情報収集のため訪れた方のため、特定候補の応援にならない範囲で、メモしておきたい。

まず今回は史上初めて、現職の宇都宮健児候補が再出馬した選挙だ。会則上、当選するには18以上の単位会の支持と最大得票を要するが、現職が前者の条件を満たすことは間違いないから、目標は最大得票となる(過半数という説もあるが誤解)。そうなると鍵を握るのは、全会員の約半分を占める東京三会と大阪だが、組織票としては、一弁は山岸候補、二弁は尾崎候補と思われ、東弁は、山岸候補の所属派閥と最大派閥とが同候補支持を表明している。大阪は山岸候補がやや有利か。ただ、どの単位会や派閥も、過半数を占める50期以下の投票行動は掌握できていない。だから、鍵を握るのは東京と大阪の若手、ということになる。

全候補が当選条件を満たさなければ前回同様再投票となる。再投票になれば、『こん日』が売れるから私は嬉しいが、日弁連の利益は何もない。

争点だが、現職再出馬である以上、宇都宮候補の実績をどう評価するかが最大の争点となる。1500人という公約を掲げながら何もしなかったとか、2年やって給費制を1年延ばしただけ、という消極評価もあろうし、守旧派に比べればずっとマシ、地震と原発事故がなければもっとやれた、という評価もあろう。

私が見るところ、宇都宮候補の政策目標は、原発にせよ貧困問題にせよ、給費制、秘密保全法反対や日の丸・君が代強制反対(以上選挙はがきより)にせよ、いわゆる市民運動を日弁連名で行うことにあるし、少なくともこの分野について、同候補が相当の実績と実力を持つことは事実だ。これを日弁連会長の資質や、日弁連のあり方として是とするか非とするかが、判断のしどころと考える。

これに挑戦する旧主流派からの二候補だが、戦いも終盤になって相違点が鮮明になってきた。

尾崎純理候補は、法曹人口問題等当面の課題には対処しつつも、いわゆる司法改革路線は堅持する立場だ。また、実績と政界へのパイプをアピールし、会費軽減の断行を公約している。最近のはがきに「地域社会の正義力」という、やや意味不明のスローガンが出てくるが、地方単位会の意向を重視する趣旨だろう。地方や、若手、法科大学院出身者、司法改革路線支持者等、個々の集団に訴えて票を固める戦略と見受けられるが、浮動票に対する訴求力はどうだろうか。

一方の山岸憲司候補のはがきは、4候補の中で最もシンプルで、「弁護士の業務拡大」と「法曹人口問題の早期解決」の2点に絞り、この順に掲載されている。これは、この2点を重視しつつ、業務拡大を最優先とする趣旨であろう。法科大学院制度を直ちに廃止することも、15000人ともいわれる滞留受験生から受験資格を奪うこともできない以上、現在の閉塞状況を打破するためには、業務拡大しかないという明確なアピールといえる。ただ、即効性のある具体策に乏しいという指摘はあろう。

森川文人候補に対するコメントはあまりない。1990年以前の日弁連に戻すべきだと考える方、司法改革路線は日本を再び戦争に導くと考える方は、森川候補に投票すべきだ。

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2012年2月 8日 (水)

日本型保釈保証制度に対する素朴な疑問

「同じ刑事事件の被告でも、お金がある被告は保釈されるのに、用立てられない被告の身柄拘束は長引いてしまう。そんな現状を改めるために、日弁連が、手持ちのお金がなくても保証書で保釈を得られる仕組みを今秋からスタートする考え」との記事が、1月4日の朝日新聞とasahi.comに掲載された。

保釈保証制度については、日弁連の機関誌『自由と正義』20111月号が、「日本型保釈保証制度」の特集記事を組んでいる。「人質司法」の打破という刑事司法改革の一貫であるという。

「人質司法」とは、日本の刑事司法の運用を批判する言葉だ。刑事被告人の身柄が、判決確定までの間拘置所に拘束され、罪を認めなければ保釈してくれなかったり、無罪を主張する妨げになったりすることから、こう呼ばれる。確かに、法文上のタテマエは、起訴された被告人は保釈が原則なのに、現実の運用は逆だ。また、保釈が認められうる場合でも、保釈保証金が高すぎて用立てできない被告人もいると聞く。保釈保証金の「相場」は、最低でも150万円程度だ。

現在、一般社団法人日本保釈支援協会など数団体が保釈保証金の貸し付けを行っているが、貸金業法や利息制限法違反との指摘を受けており、「その事業の先行きは不透明」であるため、保釈保証制度が必要という。

具体的には、保証機関は、被告人の弁護人や親族の依頼に基づき、保証料を受け取る代わりに、保証書を裁判所に差し入れる。被告人が逃亡などした時は、保証金を裁判所に没収されてしまうが、そうでない限り、被告人の弁護人や親族は、保釈保証金の1割程度と想定されている保証料を保証機関に支払うだけですむ。仮に保証金が150万円だとすれば、150万円は無理でも、15万円用意できれば、保釈が実現する。保証機関は、全弁協(全国弁護士協同組合連合会)が想定されている。

河野真樹氏は、ブログで、この事業は保険業法に抵触するのではないかと疑問を呈している。当然の疑問だが、弁護士である以上、保険業法の問題はクリアできる前提で構想しているのだろう(と信じたい)。

だが、私としては、もっと素朴な疑問を三つ指摘したい。

第一点は、何のための保証金なの?という疑問だ。保釈保証金は、いうまでもなく、被告人の出廷等の担保である。平たくいうと、被告人としては、逃亡したいのは山々だが、逃亡して保証金を没収されても困るので、出廷するのだ。だから裁判所が定める保証金額は、被告人の財力にも大きく左右される。ところが、保釈保証制度の結果、被告人としては、逃亡しても、失うものがなくってしまう。これでは保証金の意味がない。『自由と正義』によれば、被告人が逃亡等して保証金が没収された場合、保証委託者に求償するというが、金がないところから取れやしないし、被告人や親族も、金がなければ、怖くもなんともない。ちなみに、米国にも保釈保証制度はあるが、もし逃亡すると、「賞金稼ぎ(bounty-hunter)」に追われ、下手すると命を失うという運用が、結果的に身柄確保の担保になっている(実際はそれでも逃亡が後を絶たないようだが)。

第二点は、第一点と関連するが、保証委託者として弁護人が想定されている点だ。つまり、被告人が逃亡等して保証金が没収されれば、保証機関は、弁護人に対して求償するということだ。保釈保証制度を利用するような被告人の場合、弁護人は国選弁護人であり、極安の報酬で業務をこなしている。その弁護人が、被告人に泣きつかれて保証委託者になり、苦労して保釈を勝ち取ったと思ったら、逃亡されて保証金を求償されたのでは、気の毒で目も当てられない。つまり保釈保証制度は、被告人の保釈の機会を増やす一方、国選弁護人をリスクにさらす制度なのだ。

第三点は、全弁協の目的との関係だ。「全弁協」とは「全国弁護士協同組合連合会」の略称。要は弁護士の互助団体であり、その目的は、「(組合員である弁護士)の自主的な経済活動を促進し、かつ、その経済的地位の向上をはかること」である。とすると、被告人の利益になるかもしれないが、組合員弁護士の利益にも何にもならず、むしろ、担当弁護人をリスクにさらす「保釈保証制度」を弁護士協同組合が引き受けることは、明らかに、組合の目的に違反し違法無効となる。

上記『自由と正義』の特集は、日本型保釈保証制度の法的問題点を検討したと胸を張るが、河野真紀氏が指摘する保険業法との関係はもちろん、私の指摘する素朴な疑問にも何一つ答えていない。

『人質司法の打破』は大いに結構だが、日弁連も全弁協も弁護士の団体である以上、弁護士の利益も少しは考慮してほしいものである。

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2012年2月 6日 (月)

地獄の黙示録

(あらすじ)

特命武装弁護士黒木約介は、日弁連会長から、N県弁護士会会長である勝隆盛の暗殺を命じられた。

勝弁護士は、N県弁護士会会長就任後、弁護士の新規登録を一切拒否して既存弁護士による王国を作り、同県民と弁護士に「カーツ大佐」と呼ばれ慕われているという。

「なぜ『カツ会長』ではなく『カーツ大佐』なのかは謎だ」と日弁連会長は言った。「弁護士が増えすぎて困るという事情は分かるが、新規登録を一切拒否したのでは、弁護士会は世論の袋だたきにあい、強制加入団体性を失ってしまう。全国の弁護士会に支持者が現れ始めている。あの男は危険だ」

黒木約介は、小型船で川を遡ってカーツ大佐に近づくことにした。しかし河口はベトコンの支配する危険地帯。そこでは、武装ヘリコプターからなるアジーレ飛行隊が「ワルキューレの騎行」を大音量で流しながら、掃討作戦を行っていた。密林に炸裂するナパーム弾の炎は、ベトコンも村人も、全てを焼き尽くす。「朝のナパームのにおいは格別だ」とアジーレ中尉は言って笑った。

N県に潜入した黒木約介だが、カーツ大佐に囚われてしまう。カーツ大佐は言った。「私を殺すがよい。人は私が狂ったと言うが、どちらが狂っているか考えてみなさい。わが国で弁護士は、必要最低限の仕事しか行わない。それでも国民は十分に幸せだ」

嵐の夜、黒木はカーツ大佐の命を奪って脱出する。報告のため日弁連会館に向かう黒木は、自分が紛れもなく狂気の側にいることを知るのだった。

注;このエントリは、全てフィクションであり、実在の個人や団体と一切関係ありません。

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2012年2月 3日 (金)

法律相談センター廃止の損得

大阪弁護士会市民法律相談センターの赤字は年々増大し、平成23年度は15000万円を超え、数年後には2億円を超える見通しだ。

赤字の原因は減り続ける法律相談件数にあり、法律相談件数減少の原因は、法テラスの発足と発展にある。しかも、いわゆる過払いバブルの終焉は、今後の法律相談件数をさらに減少させるし、将来、法テラスが資力要件を緩和ないし撤廃すれば、弁護士会法律相談センターは壊滅的な打撃を受けるだろう。

歴代執行部は赤字解消に努めたが、どれも焼け石に水で終わった。弁護士会法律相談センターの赤字は構造的なものであり、増えこそすれ、減ることはない。

もちろん、弁護士会の財政規模から言って年2億円程度の赤字は許容範囲という見解もありうる。だが、会財政を支えるための、年50万円を超える会費負担は、多くの会員にとって限界を迎えつつある。今後弁護士会内で、会費減額への世論が興隆することは必至であり、その際、真っ先にリストラの対象になるのは、法律相談センターであろう。なにしろ、会員数3900名の大阪弁護士会は、会員数6500人を超える東京弁護士会より多い、100名の事務職員を雇用していて、その半分が法律相談センター業務に従事しているのだ。もし、法律相談センター(高齢者・障害者センターや遺言・相続センターを含む)を廃止し、これに携わる職員をリストラすれば、平成22年度ベースで、年36000万円もの経費を節減できる。会員1人あたり年12万円の負担減だ。

また、法律相談センターを廃止すれば、法律相談センターから受けた事件の弁護士報酬に課せられる負担金(上納金)もなくなるところ、これが年17000万円である。

さらに、破産管財人報酬等にかかる負担金も合わせて廃止してしまえば、法律相談センター分と合わせて65300万円もの負担減となる。

法律相談センター廃止分と合計して10億円超。3000人の会員弁護士1人あたり、年30万円以上の負担減だ。これは、会費を半分にしても、おつりが来ることを意味する。

但し、問題はそれほど単純ではない。

弁護士会が法律相談センターを廃止するということは、法律相談センター経由で事件を獲得している弁護士の収入の途を閉ざすことになる。単純計算によると、法律相談センターを経由して受任する事件が弁護士にもたらす売上は、約20億円であり、弁護士1人あたり約60万円を超える。ということは、平均ベースで見ると、弁護士会法律相談センターを廃止するとことは、弁護士1人あたり、年約30万円の会費を節約する代わり、60万円以上の売上を減らすことを意味する。

だから、平均ベースで見れば、法律相談センターの廃止は、弁護士にとって、明らかにマイナスだ。

だが、これはあくまで平均の話である。実際には、法律相談センター経由の事件を受任するのは若手が多く、ベテランは少ないと推定される。一方、ベテラン弁護士は、会費を負担させられているだけで、法律相談センター経由の事件を受任する機会は少ない。

つまり、法律相談センターは、その実態において、ベテランが運営経費を負担し、その果実を若手が受け取るという形で、所得の再分配機能を果たしている、ともいえるのである。(続く)

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2012年2月 1日 (水)

産業用ロボットはガラパゴス化するのか

ロボ・ステーション」によると、安川電機は、80Wのモーターを採用することにより、人間との共存を可能とするロボットを開発し、「2011国際ロボット展」で初公開したという。

これは産業用のロボットだが、産業用ロボットではない。解説しよう。

一般的な解説によれば、労働安全衛生法上の「産業用ロボット」には、80W以下のモーターしか備えないロボットは該当しない(労働安全衛生規則第36条第31号の規定に基づき厚生労働大臣が定める機械を定める告示)。「産業用ロボット」に該当しない場合、労働者の教育(労働安全衛生法59条)や、危険防止措置(労働安全衛生規則150条の4)が不要になる。80W以下のモーターしかないなら、労働安全衛生法上の「産業用ロボット」に該当しないから、これらの規制を外すことができる。その結果、同じスペースで人間の労働者との共同作業が可能になる。

同様の発想では、トヨタのスペアタイヤ搭載ロボットが先行しているようだが、安川電機の新型ロボットは、「自重補償」という機構によって、規制ぎりぎり80Wのモーターを搭載し、トヨタのロボットに数倍する可搬重量を達成したということだ。

素晴らしい技術革新だとは思う。

しかし、この種の事例に接するたびに気になるのは、労働安全衛生規則上は、「産業用ロボット」の要件を満たす場合であっても、必ずしも安全措置を講じる義務はないし、まして、安全柵を設ける義務もない、という点だ。安全措置を講じる義務があるのは、「産業用ロボットに接触することにより労働者に危険が生ずるおそれのあるとき」に限られるし、安全措置の内容は、「さく又は囲いを設ける等」とされており、安全柵を設けなければならない、とはどこにも書いていない。動画を見る限り、安川電機の人共存ロボットは、進行方向に人間を発見すると停止するし、万一人間に接触しても、人間が容易に押し戻すことができる。この機能が完備されている限り、法文上、80Wを超えるモーターを装備していても、法律上、何ら問題ないはずだ。もし問題があるとすれば、それは現実の運用の方が間違っているのではないか。

もう一つ気になる点は、現在、産業用ロボットの国際安全規格ISO 10218-1では、この数値が削除されていることだ。つまり、「人共存ロボット」は、外国ではアドバンテージを持たない、ということになる。

もちろん、80W規制があるからこそ、新技術が開発されたわけだし、この技術は、80W規制がない国でも、人との共同作業や労働安全の分野で有用となる可能性はある。

だが一方で、日本にしか存在しない規制をクリアーするため、多額の開発費を投じることは、ロボット産業の国際競争力を削ぐことになる。

こういった規制が、ロボット産業のガラパゴス化をもたらさないのか、少し心配である。

《参考》(注;下線部はブログ主)

労働安全衛生法59

3項  事業者は、危険又は有害な業務で、厚生労働省令で定めるものに労働者をつかせるときは、厚生労働省令で定めるところにより、当該業務に関する安全又は衛生のための特別の教育を行なわなければならない。

労働安全衛生規則36

法第59条第3項の厚生労働省令で定める危険又は有害な業務は、次のとおりとする。

31号 マニプレータ及び記憶装置(可変シーケンス制御装置及び固定シーケンス制御装置を含む。以下この号において同じ。)を有し、記憶装置の情報に基づきマニプレータの伸縮、屈伸、上下移動、左右移動若しくは旋回の動作又はこれらの複合動作を自動的に行うことができる機械(研究開発中のものその他厚生労働大臣が定めるものを除く。以下「産業用ロボット」という。)の可動範囲(記憶装置の情報に基づきマニプレータその他の産業用ロボットの各部の動くことができる最大の範囲をいう。以下同じ。)内において当該産業用ロボットについて行うマニプレータの動作の順序、位置若しくは速度の設定、変更若しくは確認(以下「教示等」という。)(産業用ロボットの駆動源を遮断して行うものを除く。以下この号において同じ。)又は産業用ロボットの可動範囲内において当該産業用ロボットについて教示等を行う労働者と共同して当該産業用ロボットの可動範囲外において行う当該教示等に係る機器の操作の業務

労働安全衛生規則150条の4

事業者は、産業用ロボットを運転する場合(教示等のために産業用ロボットを運転する場合及び産業用ロボットの運転中に次条に規定する作業を行わなければならない場合において産業用ロボットを運転するときを除く。)において、当該産業用ロボットに接触することにより労働者に危険が生ずるおそれのあるときは、さく又は囲いを設ける等当該危険を防止するために必要な措置を講じなければならない

労働安全衛生規則第36条第31号の規定に基づく厚生労働大臣が定める機械(昭和58625)(労働省告示第51)

労働安全衛生規則(昭和47年労働省令第32)36条第31号の規定に基づき、厚生労働大臣が定める機械を次のように定め、昭和5871日から適用する。

労働安全衛生規則第36条第31号の厚生労働大臣が定める機械は、次のとおりとする。

一 定格出力(駆動用原動機を二以上有するものにあっては、それぞれの定格出力のうち最大のもの)80ワット以下の駆動用原動機を有する機械

二 固定シーケンス制御装置の情報に基づきマニプレータの伸縮、上下移動、左右移動又は旋回の動作のうちいずれか一つの動作の単調な繰り返しを行う機械

三 前二号に掲げる機械のほか、当該機械の構造、性能等からみて当該機械に接触することによる労働者の危険が生ずるおそれがないと厚生労働省労働基準局長が認めた機械

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