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2012年2月 8日 (水)

日本型保釈保証制度に対する素朴な疑問

「同じ刑事事件の被告でも、お金がある被告は保釈されるのに、用立てられない被告の身柄拘束は長引いてしまう。そんな現状を改めるために、日弁連が、手持ちのお金がなくても保証書で保釈を得られる仕組みを今秋からスタートする考え」との記事が、1月4日の朝日新聞とasahi.comに掲載された。

保釈保証制度については、日弁連の機関誌『自由と正義』20111月号が、「日本型保釈保証制度」の特集記事を組んでいる。「人質司法」の打破という刑事司法改革の一貫であるという。

「人質司法」とは、日本の刑事司法の運用を批判する言葉だ。刑事被告人の身柄が、判決確定までの間拘置所に拘束され、罪を認めなければ保釈してくれなかったり、無罪を主張する妨げになったりすることから、こう呼ばれる。確かに、法文上のタテマエは、起訴された被告人は保釈が原則なのに、現実の運用は逆だ。また、保釈が認められうる場合でも、保釈保証金が高すぎて用立てできない被告人もいると聞く。保釈保証金の「相場」は、最低でも150万円程度だ。

現在、一般社団法人日本保釈支援協会など数団体が保釈保証金の貸し付けを行っているが、貸金業法や利息制限法違反との指摘を受けており、「その事業の先行きは不透明」であるため、保釈保証制度が必要という。

具体的には、保証機関は、被告人の弁護人や親族の依頼に基づき、保証料を受け取る代わりに、保証書を裁判所に差し入れる。被告人が逃亡などした時は、保証金を裁判所に没収されてしまうが、そうでない限り、被告人の弁護人や親族は、保釈保証金の1割程度と想定されている保証料を保証機関に支払うだけですむ。仮に保証金が150万円だとすれば、150万円は無理でも、15万円用意できれば、保釈が実現する。保証機関は、全弁協(全国弁護士協同組合連合会)が想定されている。

河野真樹氏は、ブログで、この事業は保険業法に抵触するのではないかと疑問を呈している。当然の疑問だが、弁護士である以上、保険業法の問題はクリアできる前提で構想しているのだろう(と信じたい)。

だが、私としては、もっと素朴な疑問を三つ指摘したい。

第一点は、何のための保証金なの?という疑問だ。保釈保証金は、いうまでもなく、被告人の出廷等の担保である。平たくいうと、被告人としては、逃亡したいのは山々だが、逃亡して保証金を没収されても困るので、出廷するのだ。だから裁判所が定める保証金額は、被告人の財力にも大きく左右される。ところが、保釈保証制度の結果、被告人としては、逃亡しても、失うものがなくってしまう。これでは保証金の意味がない。『自由と正義』によれば、被告人が逃亡等して保証金が没収された場合、保証委託者に求償するというが、金がないところから取れやしないし、被告人や親族も、金がなければ、怖くもなんともない。ちなみに、米国にも保釈保証制度はあるが、もし逃亡すると、「賞金稼ぎ(bounty-hunter)」に追われ、下手すると命を失うという運用が、結果的に身柄確保の担保になっている(実際はそれでも逃亡が後を絶たないようだが)。

第二点は、第一点と関連するが、保証委託者として弁護人が想定されている点だ。つまり、被告人が逃亡等して保証金が没収されれば、保証機関は、弁護人に対して求償するということだ。保釈保証制度を利用するような被告人の場合、弁護人は国選弁護人であり、極安の報酬で業務をこなしている。その弁護人が、被告人に泣きつかれて保証委託者になり、苦労して保釈を勝ち取ったと思ったら、逃亡されて保証金を求償されたのでは、気の毒で目も当てられない。つまり保釈保証制度は、被告人の保釈の機会を増やす一方、国選弁護人をリスクにさらす制度なのだ。

第三点は、全弁協の目的との関係だ。「全弁協」とは「全国弁護士協同組合連合会」の略称。要は弁護士の互助団体であり、その目的は、「(組合員である弁護士)の自主的な経済活動を促進し、かつ、その経済的地位の向上をはかること」である。とすると、被告人の利益になるかもしれないが、組合員弁護士の利益にも何にもならず、むしろ、担当弁護人をリスクにさらす「保釈保証制度」を弁護士協同組合が引き受けることは、明らかに、組合の目的に違反し違法無効となる。

上記『自由と正義』の特集は、日本型保釈保証制度の法的問題点を検討したと胸を張るが、河野真紀氏が指摘する保険業法との関係はもちろん、私の指摘する素朴な疑問にも何一つ答えていない。

『人質司法の打破』は大いに結構だが、日弁連も全弁協も弁護士の団体である以上、弁護士の利益も少しは考慮してほしいものである。

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コメント

近畿で弁護士をしている者です。いつも楽しく拝見しております。

私は刑事事件を比較的多く担当していますので,保釈率の向上は単純に望ましいと思っています。
公判の打ち合わせのために拘置所に行く必要もありませんし,弁護側で証拠収集をしようとするときに被告人に動いてもらえれば助かります。

小林先生の記載のうち,第二点は誤解されておられるのではないでしょうか?
日弁連新聞2012年2月号(457号)2頁において保釈保証制度の記事があるのですが,そこでは,保証委託者は被告人の親族等を想定しており担当弁護人ではないという記載になっております。
したがって,仮に保釈金が没収され,全弁協が裁判所に保証金を支払ったとしても,全弁協が求償するのは保証委託者たる被告人の親族等であり,担当弁護人ではありません。
担当弁護人が保証委託者になれば小林先生ご指摘の危険もありますが,現実に弁護人が保証委託者になるとは思えませんし(現在の保釈支援協会の制度でも,弁護人が申込者になることは予定されておりません。),リスクを承知の上で弁護人が保証委託者になるのであればリスクが現実化した際の負担は当然負うべきです。

もっとも,「弁護士の利益も少しは考慮してほしい」という思いは同感です。

投稿: T | 2012年2月15日 (水) 18時08分

コメントありがとうございます。ご指摘の日弁連新聞を拝見しましたが、「担当弁護人では無い」とは書いていないように思います。また、同じ竹之内明弁護士が自由と正義2011年1月号に書いた記事の55ページには、保証委託者の具体例として「被告人の弁護人、親族その他の関係者(被告人を除くものとする)」と明記してあります。どこかで公式見解が変わったのでしょうか?そうでなければ、弁護人にリスクがあるとの批判を恐れて「日弁連新聞」に明記しなかっただけではないでしょうか?

投稿: 小林正啓 | 2012年2月17日 (金) 16時14分

正確には、「保証委託者として弁護人『が』想定されている」のではなく、「保証委託者として弁護人『も』想定されている」ということでしょう。
しかし、初見では「保証委託者として弁護人『だけが』想定されている」と読めてしまい、違和感を持ちました。(よく読めば、そう書いておられないことはわかりました)。

なお、現在の法制度でも、弁護人が保証書を差し入れることは排除されておらず(e.g.許永中事件)、今でも被告人から泣きつかれることはあります(もちろん断りますが)。
とすると、日本型保釈保証制度が創設されただけでは、弁護人のかかわりは変わらないと思われます。
もちろん、弁護士を取り巻く情勢の変化から、(国選でも)弁護人なら保釈に際して保証するのが当然という慣行が生じてしまう可能性は否定できず、この制度の導入がそのきっかけとなることは否定しませんけれども。

その意味で、少しだけミスリーディングかな、という感想を持ちました。

投稿: しんたく | 2012年2月20日 (月) 10時12分

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