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2012年2月22日 (水)

炭素繊維に対する外為法による輸出規制

鉄より軽く、かつ強い素材である炭素繊維は、日本で生まれた技術であるため、輸出規制が厳しいとされている。輸出規制品を定める輸出貿易管理令に基づき輸出規制品の仕様を定める輸出等省令(輸出貿易管理令別表第及び外国為替令別表の規定に基づき貨物又は技術を定める省令によると、「炭素繊維」という言葉が出てくるリスト規制は、次の箇所だ。

2項(原子力関連)
4
項(ミサイル関連)
5
項(先端材料)
13
項(推進装置)

このことから、炭素繊維はすべて輸出規制品との誤解が出てくるようだが、実はそれほどでもない。規制の多くは、炭素繊維を原材料とする製品や炭素繊維の製造装置であって、炭素繊維そのものが規制対象となっているのは、次の二つしかない。

輸出等省令1条(原子力関連)22号ロ
1)炭素繊維…であって、次のいずれかに該当するもの
1
 比弾性率が1270万メートル以上のもの
2
 比強度が235000メートル以上のもの

輸出等省令4条(先端材料)15号ロ
炭素繊維であって、次の(1)及び(2)に該当するもの
1) 比弾性率が1465万メートルを超えるもの
2) 比強度が268200メートルを超えるもの

このうち、純粋に炭素繊維の仕様のみが規制対象となっているのは、後者の省令4条(先端材料)15号ロだけである。前者の省令1条(原子力関連)22号ロは、「(ウラン濃縮用)ガス遠心分離器のロータに用いられる構造材料」であることが要件だから、この構造材料としてのスペックを充たさない炭素繊維は、比弾性率や比強度が省令所定のものであっても、輸出規制品とはならない。

また、刑法理論上、省令122号の炭素繊維について許可申請義務違反が刑事処罰されるためには、当該炭素繊維が「ガス遠心分離器のロータに用いられる構造材料」であることについて、故意が必要である。少なくとも、その可能性の認識は必要だ。したがって、輸出先でガス遠心分離器のロータに用いられるという認識がおよそない場合はもちろん、他の構造材料(例えば航空機の部品)に使用されると認識していた場合、本条項の違反による刑事処分は科されない。

なお、上記はリスト規制であり、キャッチオール規制としては、輸出貿易管理令別表一の16項が炭素繊維を挙げ、輸出等省令もその要件を限定していない。したがって、米国などホワイト国以外への輸出については、どんな低性能の炭素繊維でも、規制の対象になり得る。ただし、キャッチオール規制の対象になるためには、「核兵器等の開発等のために用いられるおそれ」があり、そのことを輸出者が知りまたは経産省から通知をうけた場合に限られる。結論としては、炭素繊維だからといってキャッチオール規制に抵触することは、滅多にないだろう。

ちなみに、JETROのホームページ上、輸出等省令415号ロに該当する炭素繊維について、「及び」を「あるいは」と書き間違える等の誤記があったが、指摘したところ、現在は修正されている。過去このページを参照された方は注意されたい。

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コメント

①御説を拝読しました。貨物と省令1条二十二号柱書き及びその上位法令輸出令2項(17)に「ガス遠心分離器のロータに用いられる構造材料であって」という規定文言がある以上、「同省令イ~ニの仕様であるからといって規制されるべきではない」という御趣旨には大いに共鳴します。
上位法令の規定範囲を逸脱して下位規定に規制文言を盛り込んで運用するとすれば、それは担当部局が法を無視して通達類で勝手な規制を行うことに通ずるのではないかと思うからです。

②ただ私の場合「輸出先でガス遠心分離器のロータに用いられるという認識がおよそない場合はもちろん、他の構造材料(例えば航空機の部品)に使用されると認識していた場合、本条項の違反による刑事処分は科されない」と言い切る自信はまだありません。というのは経済産業省がそれで納得しているか分からないからです。
同省サイトには
  輸出するマルエージング・ステンレス鋼がゴルフクラブに使用されるので、民生用途のため規制の対象とはならないと間違った認識を持っていた。
という「違反事例」の紹介があります。(http://www.meti.go.jp/policy/anpo/moto/jishukanri/ihanjirei/ihanjirei-2/main.html)
炭素繊維とマルエージング鋼は、同じ省令1条二十二号に記述ある品目なので、少なくとも同省の認識としては上記「違反事例」見解がひとしく適用されるものと思うのです。もし既に当局が納得しているという情報をお持ちならば、先生のカードを公開いただきたくお願いします。ただもしまだ決着がついていない場合、「刑事処分は科されない」というのは、少し勇み足のように感じます。

投稿: 米満啓 | 2012年3月 9日 (金) 05時08分

米満様、コメントありがとうございます。
刑事処分は、経産省が科すものではなく、裁判所が科すものであり、三権分立上、裁判所は経産省の見解に従う必要はありません。これに対して行政処分は、第一次的には行政庁が行うものであり、必ずしも故意を必要としませんから、刑事処分が科されなくても、行政処分が科される可能性があります。ご指摘の違反事例は、そのレベルのものではないでしょうか。
もっとも、行政処分とはいえ、少なくとも、無過失の場合にまで不利益が課されるべきではないですし、行きすぎた行政処分は、司法手続によって修正されるべきなのが、法治国家の本来の姿ではあります。

投稿: 小林正啓 | 2012年3月 9日 (金) 23時06分

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