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2012年3月 8日 (木)

オウム齋藤元信者による犯人蔵匿罪の解説

オウム真理教(もと?)信者で特別指名手配されていた平田信(まこと)容疑者(46)をかくまったとして犯人蔵匿(ぞうとく)罪に問われた教団元信徒斎藤明美被告(49)に対する初公判が6日、東京地裁で開かれ、同被告は起訴事実を認め、検察は懲役2年を求刑して結審した。

犯人蔵匿罪に関する私の知識は司法試験受験時(1989年)以来全く更新されていないが、本件に即して、この罪について解説すると、次の通りである。

犯人蔵匿罪(刑法103条)は、「罰金以上の刑に当たる罪を犯した者…を蔵匿し、又は隠避させた者は、二年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する」と規定する。

平田容疑者は「罰金以上の刑にあたる罪を犯した者」に該当するわけだが、厳密には容疑者に過ぎず、無罪になる可能性があるから、「罪を犯した者」とは言えないのではないか、とも考えられる。だが、この罪は国家の刑事司法作用の保護を目的としているので、結果的に無罪になったとしても、本条の「罪を犯した者」にはあたり、犯人蔵匿罪が成立するとされている。

もっとも、罪を犯していても、公訴時効成立等によって、処罰される客観的可能性がなくなっていれば、守るべき国家刑事司法作用は存在しないから、犯人蔵匿罪も成立しない。平田容疑者は国松長官襲撃事件でも容疑者とされていたようだが、これについては公訴時効が成立しているので、犯人蔵匿罪は成立しない。

一方、特別手配の根拠となった「島田裕巳宅爆弾事件」や「公証人役場事務長逮捕監禁致死事件」では、一見公訴時効が成立しているようにみえるが、その主犯とされる中川智正井上嘉浩各死刑囚への公訴提起により公訴時効が一時停止したため、その効果は平田容疑者にも及ぶ(刑事訴訟法2542項)。

「蔵匿」とは「官憲の発見・逮捕をまぬかれるべき場所を提供してかくまうこと」をいう。平田・斎藤両名は当初、東北地方を放浪し、その後東大阪市に落ち着いたようだが、放浪の際は、「隠避」は成立しえても、「蔵匿」とは言えないかもしれない。

ところで、本件は17年にわたり隠れていたわけだが、それでも時効は成立しないのだろうか。「蔵匿」は刑法学上、「継続犯」に分類される。継続犯は、法益(本件の場合は、国家の刑事司法作用)が妨げられている限り、犯罪は成立し続けるとされ、その一連の行為が終了して初めて、公訴時効が進行し始める、と一般に理解されている。だから検察は17年前の事実に遡って公訴を提起したのだろうし、弁護側も特に争わなかったようだ。だが、本当にそう考えるべきかについては、議論があってしかるべきだと思う。

犯人蔵匿罪については、他の犯罪にはあまり見られない、特別な条項が適用される。それは、「犯人…の親族が、犯人…の利益のために、犯人蔵匿罪…を犯したときは、その刑を免除することができる」(刑法105条)という条文だ。昭和22年以前は、「罰セズ」となっており、例えば妻が夫を匿っても犯罪にならないとされていたが、改正後は、親族でも蔵匿罪が成立し、ただ免除されうるものとなった。

さて、平田容疑者と斎藤被告だが、内縁関係にあったとみてよいだろう。「内縁の妻」は戸籍上配偶者ではないが、様々な法律適用場面において、妻に準じる地位を実務上認められている。そこで、弁護側としては、妻に準じるべきであるとして、刑の免除に近い酌量を求めたのではないかと想像する。

斎藤被告は、自ら警察署に出頭して逮捕されたのだが、これは刑法上「自首」にあたる可能性がある。刑法上の自首(42条)は、犯罪が発覚しても誰の犯行か分からない場合の出頭に適用されうるからだ(この部分、下記コメントのご指摘により訂正しました)

裁判所がなぜ東京地裁なのかについては、よく分からない。刑事訴訟法上は、「裁判所の土地管轄は、犯罪地又は被告人の住所、居所若しくは現在地による」(2条)とあるが、犯罪地は東京でないはずだ。斎藤被告の住民票上の住所が東京だったのかもしれない。斎藤被告は東京都の拘置所にいるだろうが、警察が連れて行けばどこでも「現在地」にあたるわけではないだろう。

犯人蔵匿罪の刑は、2年以下の懲役である。検察側は、上限一杯の2年を求刑したようだ。これはオウム事件という、日本史上まれにミル重大犯罪の係累だが、上述した時効の問題や、斎藤被告が内縁の妻であることを考慮すれば、本件は執行猶予判決が相当の事案であるように思われる。

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コメント

「捜査機関に発覚する前」というのは、犯罪事実及び犯人が誰であるかが捜査機関に判明する前ですので、犯罪事実が発覚していても犯人が誰であるか不明であれば自首は成立し得ます。

投稿: | 2012年3月 8日 (木) 11時48分

>斎藤被告は東京都の拘置所にいるだろうが、警察が連れて行けばどこでも「現在地」にあたるわけではないだろう。

現在地とは,公訴提起の当時被告人が任意又は適法な強制処分によって現在する地域をいうというのが判例(最決昭和30年5月17日など)のようです。
被告人が検察官の呼び出しを受けて任意に出頭した場所は被告人の現在地であるという判例(最判昭和33年5月24日)もあります。
いずれも模範六法見ただけなので事案などは分かりませんけど。

投稿: | 2012年3月 8日 (木) 16時59分

コメントありがとうございます。自首の記述が誤っていました。お詫びして訂正します。
現在地についての情報、ありがとうございます。ですが、この条文は「犯罪地」以外、明らかに被告人の便宜を考慮して土地管轄を定めていると思われますので、官憲が連れて行ったところが現在地、という解釈は納得しがたいものがありますね。

投稿: 小林正啓 | 2012年3月 8日 (木) 19時37分

> 犯人蔵匿罪の刑は、2年以下の懲役である。検察側は、上限一杯の2年を求刑したようだ。

この点ですが、この被告人は刑法上の犯人蔵匿罪のほか爆発物取締罰則9条が規定する犯人蔵匿罪(10年以下の懲役又は禁錮)にも問われているようです。そのため、法定刑の上限一杯の求刑ではないと考えられます。

投稿: うりぼう | 2012年3月14日 (水) 00時36分

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